日本アルプスの魅力

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

毎年、たくさんの人が訪れる日本アルプス。そこは険しい岩の山もあれば、高山植物のお花畑が広がる山、夏も豊富な雪を残す山など、個性豊かな山々が人を魅了する。今回はそんな日本アルプスの魅力を、写真とともに見てみよう。

写真・文=小林千穂

北アルプスの盟主・穂高岳
北アルプスの盟主・穂高岳。日本屈指の険しい岩稜帯で形作られている

高くて美しい山の集まり

日本アルプスが標高の高い山々の集まりであることは、シリーズ1回目の記事「日本アルプスってどんなところ?」で書いたとおり。「より高く、より険しく」を目標とするのは多くの登山者に共通するところで、標高が山の魅力の欠かせない要素のひとつであることに異存はないだろう。

そして、日本アルプスの最大の魅力は、氷河や長年の風雨、多量の積雪によって削られ、形作られた「アルペン的」な山容にある。例えば、北アルプスでも特に目立つ槍(やり)ヶ岳は、山名をそのまま体現したように鋭く尖った山頂を天に突き出している。あの山頂に立ってみたいと夢見る人も多いに違いない。

ほかにも北アルプスでは剱(つるぎ)岳や烏帽子(えぼし)岳、笠(かさ)ヶ岳、前穂高(まえほたか)岳、常念(じょうねん)岳。南アルプスでは北(きた)岳、甲斐駒(かいこま)ヶ岳、塩見(しおみ)岳、聖(ひじり)岳。中央アルプスでは宝剣(ほうけん)岳、三ノ沢(さんのさわ)岳などなど、登高意欲をかき立てる美しい姿をした山が多い。一つのピークに登り、そこからアルプスのほかの美しい山を眺めたとき、「次はあそこへ」と新たな夢も広がる。

多くの人が憧れる槍ヶ岳。どこから見ても尖った山頂が目立つ(北アルプス)
多くの人が憧れる槍ヶ岳。どこから見ても尖った山頂が目立つ(北アルプス)
鋸の歯のような岩峰を並べる前穂高岳と北尾根(北アルプス)
鋸の歯のような岩峰を並べる前穂高岳と北尾根(北アルプス)
「岩と雪の殿堂」といわれる剱岳(北アルプス)
「岩と雪の殿堂」といわれる剱岳(北アルプス)
三角形の美しい山容でも人気がある甲斐駒ヶ岳(南アルプス)
三角形の美しい山容でも人気がある甲斐駒ヶ岳(南アルプス)

開放感あふれる稜線や岩稜帯歩き

目標とする山、一つ一つに登っていくのも楽しいけれど、日本アルプスではピークとピークをつなげ、何日もかけて山の稜線をたどることも可能。慣れた人ならば、4日、5日と山旅を続けることもでき、そんな稜線歩きを楽しめることこそ、日本アルプスの醍醐味だと言えるかもしれない。稜線歩きの楽しいところは、なんといっても前後左右に広がる大展望だ。

日本の山の多くは深い森林に覆われているため、ひたすら樹林帯を登って、山頂で展望を楽しむというスタイルの登山が多い。でも、標高が高いアルプスは、植物にとって厳しい環境。山(森林限界)の上部には視界をさえぎる森林がなく、すばらしいパノラマが広がる。右に、左に広がる雄大な山岳景観を見ながら、雲の上に続く道を行く気持ちよさは格別だ。

どこまでも続く山の稜線を歩いていくのが最高に気持ちいい(北アルプス/立山)
どこまでも続く山の稜線を歩いていくのが最高に気持ちいい(北アルプス/立山)

一方で、ダイナミックな岩場歩きができることも日本アルプスの魅力のひとつ。両側がスッパリと切れ落ちたナイフエッジを渡り歩いたり、ハシゴや鎖のかかる急な岩場を、全身を使い、緊張を保ちながら登下降するスリルと興奮は、日常生活では決して味わえない刺激を与えてくれる。

このような岩稜歩きが楽しめるのは、北アルプスの剱(つるぎ)岳、五竜(ごりゅう)岳周辺、槍・穂高(やり・ほたか)連峰、南アルプスの甲斐駒(かいこま)ヶ岳、中央アルプスの宝剣(ほうけん)岳など。数々あるピークの中には、簡単に登れないところもある。でも、それが逆に強い憧れを誘うのかもしれない。

高度感あふれる穂高の岩稜帯を歩く(写真=加戸昭太郎)
高度感あふれる穂高の岩稜帯を歩く(写真=加戸昭太郎)

山を彩る「高嶺のお花畑」

日本アルプスの魅力は、険しさだけではない。夏、山のあちこちに咲く高山植物たちもまた、登山者を魅了する。

高山植物とは、一般的に森林限界より上部に生育する植物のこと。これらは「氷河期の生き残り」とされ、例えばハクサンイチゲ、ミヤマキンポウゲ、イワツメクサ、コマクサなど、平地では見られない貴重な種を多く観察できる。

高山の厳しい自然環境のなかに咲くこれらの花は、どれも清楚で可憐。風にそっと揺れる色とりどりの花が、気持ちを穏やかにしてくれる。

さらに、特別天然記念物のニホンライチョウなど、日本アルプスを主とした高山のみに生息する貴重な生き物に出会えることも。アルプスへ行ったら、それらの動植物にも目を向けてみよう。

ハクサンイチゲ(白)やミヤマキンポウゲ(黄)が一面に咲く涸沢(北アルプス)
ハクサンイチゲ(白)やミヤマキンポウゲ(黄)が一面に咲く涸沢(北アルプス)
タカネナデシコ(ピンク)、ハクサンボウフウ(白)などのお花畑(南アルプス/北荒川岳周辺)
タカネナデシコ(ピンク)、ハクサンボウフウ(白)などのお花畑(南アルプス/北荒川岳周辺)
高山植物の女王といわれるコマクサ(唐松岳/北アルプス)
高山植物の女王といわれるコマクサ(唐松岳/北アルプス)
登山道のすぐ脇でくつろぐライチョウ(北アルプス/西穂高岳)
登山道のすぐ脇でくつろぐライチョウ(北アルプス/西穂高岳)

高山ならではのレアな体験

さて、アルプスの魅力をもう一つ。それは標高の高い山だからこそ味わえる山の一場面だ。

まずは真夏に触れられる雪。街は30℃を越える日々が続いていても、標高3000mの山上は、晴れた日中を除けば、肌寒さを感じるほどの涼しさ。特に冬季、大量の雪が降り積もる北アルプス北部の剱沢雪渓、白馬大雪渓、針ノ木雪渓などでは、盛夏も谷筋や山の斜面に雪が残り、雪上歩きが楽しめる(年によって残雪の状況は変わる)。

また、運がよければ劇的な気象現象を見られることも。山の上にかかる大きな虹や、霧のスクリーンに自分の影と光の輪が映るブロッケン現象、山々が真っ赤に染まるモルゲンロート……。そのほかにも星座の区別ができないほどにたくさんの星が瞬く夜空、一面に広がる雲海から昇る朝日など、宿泊を伴うアルプス山行で楽しめるシーンもある。

7月中旬の剱沢周辺。夏とは思えないほど、豊富な雪が残る(北アルプス)
7月中旬の剱沢周辺。夏とは思えないほど、豊富な雪が残る(北アルプス)
自分の影の周りに虹の円ができるブロッケン現象(南アルプス/塩見岳近くで)
自分の影の周りに虹の円ができるブロッケン現象(南アルプス/塩見岳近くで)
大雲海に浮かぶ富士山とご来光(南アルプス/北岳)
大雲海に浮かぶ富士山とご来光(南アルプス/北岳)

登れば登るほど、いろいろな魅力を発見できる日本アルプス。今すぐ行ってみたくなってきたのではないだろうか。

次の記事では、アルプスの山のプランニングをするときに役立つ情報を紹介!

プロフィール

小林 千穂(こばやし ちほ)

山岳ライター。山好きの父の影響で子どものころに山登りをはじめ、里山歩きから雪山、海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動している。著者に『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)、『失敗しない山登り』(講談社)などがある。日本山岳ガイド協会認定、登山ガイド。

日本アルプスに挑戦!

日本アルプスの山に登ることをめざし、基本情報を紹介。さあ、日本アルプスの世界へようこそ!

編集部おすすめ記事