
あの山はなぜ鋭くそびえるのか。地形写真家・竹下光士の槍・穂高案内
切れ落ちた険しい稜線と鋭い岩峰が印象的な槍・穂高連峰。地形写真家・竹下光士さんは、その独特な山岳景観の成り立ちに着目して撮影を続けるうち、かつてこの山々を鋭く削り取った氷河のスケール感がイメージできるようになったという。書籍『槍・穂高・上高地 地学ノート』(山と溪谷社)と発刊記念写真展から、作品を紹介する。
写真・文=竹下光士
槍・穂高の誕生に思いをはせる
コロナ禍中である2020年、約25年ぶりに奥穂高に登りました。大学卒業後、就職もせず北穂高小屋で夏季バイトをしたことがきっかけで山の写真を撮り始めましたが、その後被写体は風景一般へと広がり、山からは遠ざかっていました。2016年ごろより、私は撮影テーマを地形・地質に絞ることを決め、「地形写真家」と名乗るようになりました。奥穂高岳に登ったのも、自分が写真を始めるきっかけとなった槍・穂高の稜線をその目線でもう一度見直してみたかったからです。
稜線の様子は記憶に残るままでしたが、造山、風化・侵食、氷河地形など、25年前には気付かなかったさまざまなことがしっかりと見えました。それらを地形解説ガイドとしてまとめ「登山者に伝えたい」と思い、2020年のシーズン中に、槍~南岳、前穂、北穂、西穂、焼岳、双六岳、常念岳、燕岳に立て続けに登り、取材を一気に終わらせました。
実際に山に登るといろいろな「気付き」がありました。たとえば、なだらかな常念山脈にあって、主峰の常念岳だけが三角形に尖っているのを不思議に思いませんか。これも実際に登山道に転がる岩を見ると理解することができます。また槍・穂高の場合、約6万~1万年前にかけて流れていた氷河の痕跡がたくさん残されています。氷河が流れていたことを知っている登山者は多いと思いますが、具体的にどこまで、どれくらいの厚さがあったのかまではイメージできる人は少ないと思います。
私自身、25年前は5月連休ごろの残雪期の延長程度と思っていましたが、今回その痕跡をたどると、ヨーロッパアルプスにも負けないみごとな氷河が槍・穂高の谷に重なって見えるようになりました。そのような見方の提案がたくさん詰まっているのが、6月に発刊された『槍・穂高・上高地 地学ノート』(山と溪谷社)です。「地形を知ると山の見え方が変わる」と本のコピーに書きましたが、まさにその体験をこの夏、槍・穂高でしてほしいと思っています。
また発刊記念写真展を東京・中野にあるケンコートキナーギャラリーで開催します。当初は本に使った写真を並べるつもりでしたが、それではおもしろくないと思い、山の風化にテーマを絞り写真のセレクトからやり直しました。タイトルも「聳えると崩れるは表裏一体」とし、文字情報を極力抑えて、写真による岩稜の体感を目指しています。本と合わせてご高覧いただけると幸いです。

『槍・穂高・上高地 地学ノート』
- 竹下光士、原山 智著
- 2023年6月19日発売
- 価格:1,870円(税込)
- 出版社:山と溪谷社
- ページ:176P
- 詳細URL:https://www.amazon.co.jp/dp/4635530728

写真展『聳えると崩れるは表裏一体』
- 会期:2023年6月28日(水)〜7月10日(月)
- 会場:中野・ケンコー・トキナーギャラリー
(東京都中野区中野5-68-10 KT中野ビル2F) - 詳細URL:https://www.kenko-tokina.co.jp/gallery/
プロフィール
竹下光士(たけした・みつし)
地形写真家。武蔵野美術大学卒業。風景一般を撮影していたが、2016年より地形・地質をメインに撮影活動を開始。世界中の山岳から海岸までを取材中。2020年、日本の地形をガイドした『GEO SCAPE JAPAN』(山と溪谷社)を出版。2022年にはニコンギャラリーにて写真展『GEO SCAPE MTL 中央構造線』を開催。日本自然科学写真協会会員。
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