広々と快適なワンポールテント ビッグアグネス/ゴールドキャンプ UL3|高橋庄太郎の山MONO語りVol.103
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、ビッグアグネスの「ゴールドキャンプ UL3タープ」と「ゴールドキャンプ UL3メッシュインナー」です。
文・写真=高橋庄太郎
“ワンポール”または“モノポール”などといわれるタイプのテントがある。基本的にはテント内部に1本のポールを垂直に立て、そこを頂点に横から見ると三角形型のテントだ。重量に対して底面積が広いため、大人数でベースキャンプとして使うことも多く、同じ理由でファミリーキャンプにも適している。また、ペグでしっかりと固定すれば、一般的な山岳テントを上回るほど、風雨にも強い。
最近は素材が軽量になったこともあり、ガレージブランドなどからソロ用のものも登場しているが、一般的な山岳用としては少しなじみが薄いかもしれない。しかし使い方次第では非常に便利な存在だ。じつは僕も自分がプロデュースして製作したワンポールテントを某ショップから販売しているくらいだが、それは7~8人も収容できるベースキャンプ向けである。そんななか、より軽量で愛用していた2~3人用のワンポールテントはかなり傷んできたこともあり、新しいワンポールテントを買いたいと物色しているところなのだった。
前置きが長くなったが、僕が目を付けた新作ワンポールテントの一つが、今回取り上げるビッグアグネスの“ゴールドキャンプ UL3タープ”だ。“タープ”という名称だが、実際は「屋根」として機能するアウターテントである。居住区間としてのインナーテントが別売りであり、「アウターテントの役割はタープと同じ」というメーカーの考え方から生まれた名称だろう。ほかのメーカーであれば“テント”というはずであり、実際はワンポールテントのアウターなのだ。非常にややこしく、誤解されそうな名前が悩ましい。
なお、今回はゴールドキャンプ UL3タープと組み合わせて使用する“ゴールドキャンプ UL3メッシュインナー”も同時に紹介していく。また、テストに使ったのは3人用の「UL3」であり、別に5人用の「UL5」も展開されている。
まずは付属品・スペックを確認
ともあれ、以下がアウターであるゴールドキャンプ UL3タープとインナーであるゴールドキャンプ UL3メッシュインナーだ。
いちばん左がインナーで、中央とその隣のポール、ペグがアウターのセットである。収納サイズは、インナーが13×52㎝。アウターも13×52㎝。もっとも、これは圧縮していない状態で、実際はもっとコンパクトになる。
色はダークオリーブ。茶色に近いカーキだ。
インナーの重量は709g、アウターはポール込みで1.22㎏。合わせて約1.93kgとなる。3人で広々と使えるサイズで使用できて、この重量ならばかなり軽量だ。インナーを省き、アウターだけで使えば、1人当たり0.64kgである。
付属ポールの長さは8段階で調整でき、最高203㎝、最低167㎝。
3本に折れるため、収納時は1/3程度の長さにできる。
アウターのみ使用時は広々と開放的
ワンポールテントの多くは、フロアをペグで固定してからポールを内側で立て、設営する。以下はまだポールを組み合わせていない状態だ。
この状態だとわかりやすいが、フロアのサイズは229×229㎝の正方形。横から見ると三角形で端のほうが低くなり、デッドスペースが少し生まれてしまうとはいえ、身長180㎝の人が横たわっても頭や足元に50㎝近くのスペースが余る。
そして、次の写真が設営を完了した様子である。
高さはいちばん高い部分で、200㎝。アウターの中央部では十分に立ち上がれる高さが確保されている。
アウターの天頂部分は強靭な素材が数枚重ねられ、補強されている。
1ポールテントではもっとも傷みやすい箇所であり、この補強はありがたい。ただ、必要以上に補強面積が広い気もする。なにしろ頂点から10㎝近く下まで補強されていて、非常に立体的なのだ。しかし、ここまでの面積は必要ない気がする。5㎝程度に収められれば、重量がより軽くなり、収納時のコンパクトさにもつながりそうだ。ゴールドキャンプ UL3タープの本質的な機能性を損なうわけではないが、少し気になるディテールだった。
その補強部分の下にはベンチレーターが設けられ、バーのようなパーツで強制的に広げておくことができる。
ワンポールテントは天井部分に熱気と湿気が溜まりやすいが、これならば十分に機能するだろう。
出入り口のファスナーはスライダーが2つつけられたダブル仕様。
そのためにベンチレーターのように上だけを開くこともでき、天井部分のベンチレーターとのコンビネーションで換気をさらに促してくれる。
アウターの表面にはガイラインも取り付けられている。
強風や強雨のときなどにはこの部分もしっかりと張ることで、耐風性を高めてくれるだろう。
表面の撥水性も充分。耐水圧は1,500㎜もあるという。
今回のテストの際は雨が降らず、実際に雨中で試したわけではないが、水をかけてみた感じでは少なくとも生地から浸透してくることはないはずだ。
出入り口のパネルを巻き上げると、その出入り口も三角形になる。
出入り口の幅は1mくらいもあり、大柄な人でもスムーズに出入りできるはずだ。
次の写真は、内部の様子を少し寄って撮影したものだが、付属ポールを使っていないことがわかるだろうか?
じつは、ここではトレッキングポールを2本連結したものをポール代わりにしている。このような形で設営すれば、付属ポールの重量375gを省くことができ、アウターのみの726gで使うことが可能だ。
インナーを使わない場合、アウターの内部にシートなどを広げ、就寝することになる。場所によっては虫が入ることもあるが、開放的で気持ちがいい。
グループに共同装備として一つ加え、悪天候時には土足で出入りできるみんなの共有スペースとして使うのもいい。食事や宴会が楽しくなるはずだ。
……と、ここまではアウターのみで使用するときの様子であった。
ここからはインナーを組み合わせ、いわば“ダブルウォール”テントとしての特徴を確認していく。
インナーと組み合わせてみると…
アウターと同様、インナーも頂点部ががっしりと補強されている。
悪いことではないのだが、収納時にはこの部分がかなりごわつき、少々畳みにくいのがどうしても気になる。
その天頂部分をインナー内部から見上げたときの様子がこちら。
ごわついている分だけポール先端の収まりがよく、天井部を立体的に支えているのがよくわかる。
ポールのもう一方の末端は、インナーのフロア中央で受け止める。
この部分もしっかりと補強され、よほどひどい使い方でもしなければ、穴が空くことはなさそうだ。
こちらがインナーのみを設営した状態である。
晴れているときは、“蚊帳”としてインナーだけで使ってもよさそうだ。
インナーはアウターとトグルで連結。これによって内部スペースを広げる。
ワンポールテントでは一般的な構造ではあるが、ゴールドキャンプ UL3のトグルはループに通しやすい形状をしており、慣れると設営時間を短縮できる。
さて、ここからはアウターとインナーを組み合わせた状態だ。
上の写真をよく見ていただきたい。山岳用ダブルウォールテントと同じように、“前室”ができているのがわかるだろうか? 山で使いやすいサイズと重量のワンポールテントは既存のメーカーから複数発売されて、その多くは四方が2m前後である。どれもアウターとインナーはほぼ同じ形状のため、前室を持つ構造になるものは非常に珍しい。
しかしゴールドキャンプ UL3には、どうして前室が生まれるのか? その秘密は、インナーの形状にある。
ゴールドキャンプ UL3インナーメッシュのフロアの一つの角は切り落とされ、真四角ではない。その省かれた部分が前室となっているわけなのである。
前室部分は一般的な山岳用テントと同じように、シューズや食器などを置くスペースとして活用できる。
前室がないワンポールテントの場合、シューズに泥がついていても就寝時には内部に収容するようにしないと、突然の雨で濡れてしまう恐れがある。その点、ゴールドキャンプ UL3インナーであれば、汚れたシューズを前室に置くことができ、安心だ。
しかも、この前室はかなり広い。
テストはひとりで行なっているため、ひとり分のシューズとサンダルしか置いていないが、2~3人分の履物でも収容できるだろう。
インナーの出入り口のパネルは、ループとトグルでしっかりと固定(写真左)することも、長い赤のテープに引っ掛けてざっと固定(写真右)することもできる。
これはビッグアグネスの他のテントにも見られる工夫で、シンプルでいて機能的だ。
内部の角にはメッシュのポケットがあり、細かなものを入れておける。
ごく普通の工夫だが、やはりこのようなポケットは便利である。
アウターとインナーをしっかりと張ると、それらの間にスペースが生まれ、通気性が高くなる。
アウターが結露で濡れたとしても、インナーに水分は移らない。
通気性を最大に考慮しているインナーだが、フロアはもちろん防水処理がなされている。生地の縫い目も処理されており、とくに生地が重なる四隅は重点的だ。
とはいえ、ゴールドキャンプ UL3シリーズに使われている生地は薄手である。穴が空かないように注意して使用したい。
内部に寝転んでみると、さすが3人用だけあり、ひとりで使うには広すぎるほどだ。
それだけに快適! これを昨今の混みあったテント場でひとりで使うと迷惑だろうが、閑散期であれば贅沢な時間を過ごせそうである。
なにしろ荷物を広げても、以下の通り。
ハーフサイズのインナーも開発してくれれば、その分だけ前室が広くなり、悪天候時はアウターを閉めた状態で調理することすらできそうだ。もちろん自己責任での使い方になるが。
次に、2人分のマットと寝袋を広げてみると、中央に立てられたポールの向こう側だけで2人分の就寝スペースが余裕を持って作られることがよくわかる。
ただ、奥のほうはインナーの壁が斜めに顔へ近づくため、少々狭苦しく思えるかもしれない。しかし不快なほどではないだろう。
このとき、2枚のマットを敷いた残りのスペースは次の写真のようになっている。
あれっ、3人用のテントなのに、これではもう一枚のマットが敷けないのではないか?
いろいろ考えたところ、もう一枚のマットは以下の写真のように敷くようだ。
前室部分も内部スペースとなっていれば、4人眠れたはずだが、これはあくまでゴールドキャンプ 「UL3」。前室を確保するという前提で、4人用ではなく、あえて3人用としているわけだ。マットは一つだけ斜めに置かねばならず、そのために他の荷物を置くスペースも変形し、使い勝手が悪いと思う人もいるだろう。だが、これはゴールドキャンプ UL3シリーズの個性。それを踏まえ、楽しみながらうまく使いこなす力量が求められる。
こんなゴールドキャンプ UL3で過ごした夜は快適だった。やはりワンポールテントはよいものである。
まとめ:居住性の高いワンポールテント
僕はテント好きだが、もしかしたらいちばん好きなタイプはこのようなワンポールタイプかもしれない。その構造上、2m四方の大きなサイズが多いため、山中の狭いテント場では使いにくいが、広々とした内部空間、高い天井、悪天候への対処能力などを考えると、本当はもっと多用したいと思うくらいである。
このゴールドキャンプ UL3タープとインナーメッシュは前室を作れることもあり、居住性はますます高い。贅沢にソロ用として、もしくはグループのベースキャンプや寛ぎスペースとして、一つ持っていたくなるテントなのであった。
最後に、付属のペグの話をしたい。このペグの断面は一辺が長く、もう一辺が短い、変形的な「工」の字になっていた。だが、これをどう使いこなせばいいのか、最後まで僕にはわからなかった。
長い辺と短い辺、どちらをテント側に向ければ固定しやすいのか・・・。結局、ブランドロゴが見える面を外側に向けたほうが、いくぶんコードが引っかかりやすいと感じたのだが、これが正しいのか自信がない。いずれにせよ、ペグのくぼみが低いため、アウターとインナーの2本のコードを引っ掛けにくく、少し力が加わると外れることがあった。この工夫あるペグはユニークではあるが、別のものに変更して使ったほう実戦的かもしれない。些細な点とは言え、これは総じて優れたゴールドキャンプ UL3が、もっと使いやすいテントになろうとするあまりに、“ちょっと頑張りすぎた”一面を見せたものかもしれない。
ビッグアグネス
ゴールドキャンプ UL3タープ
重量 | 726g ※ガイライン含む |
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価格 | ¥53,680(税込) |
ビッグアグネス
ゴールドキャンプ UL3メッシュインナー
重量 | 709g |
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価格 | 23,100円(税込) |
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
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