シルエット〜明部と色彩を際立てる|山の写真撮影術(17)

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シルエットを用いて明部の微妙な色彩を強調する、メリハリのある写真を撮るポイントを解説します。

文・写真=三宅 岳、イラスト=石橋 瞭


光あるところに影がある。両者の絶妙なるバランスの中に隠された、視覚の喜びを拾い上げる。これは写真の醍醐味である。

さて、その光と影=明と暗=ハイライトとシャドーの階調にあって、影が果たす役割、すなわち力強さや重量感は重要である。

写真の感材がフィルムからデジタルに変化して、影の中に隠れた色彩を手軽に出せるようになった。それゆえ、真っ暗な影部に明るさが加味され、色彩がわかる写真が増えている。しかし、それでいいのだろうか。

闇の力強さは、よりいっそう明部の魅力を引き出してくるものだ。暗部を見た目以上に明るくする写真からは、風景の力強さが削がれることがある。本来、写真は引き算で整理したいところだが、色が加わり余分な要素が増えるのだ。シルエットを深い闇に落とし込む。これで明部が生きるのである。

【作例1】空の複雑な表情と写す

鏡平。東空日ノ出未満。未明の空は一分一秒の刻みで変化してゆく。摩訶不思議なその色を見せるなら、山も森もシルエットのままがよい

①空の微妙な色彩を生かす

日の出前のマジックアワーと呼ばれる時間。空の色、雲の色は微妙なトーンで時々刻々と変化する。その微妙な色彩を最大限に生かすために、それ以外をシルエットにして色彩を落とした。

②池の反射が奥行きを生む

手前が黒一色だと重くなりすぎる。手前に池があるため、水面の反射は生かしたい。池に山々と空の投影があることで、写真の奥行きも生まれてくるのだ。

③シルエットは徹底的に

撮影地は鏡平。池の畔を灌木が囲む環境である。本来ならこの付近も緑の色なのだが、シルエットにして消している。下手に緑が強くなると、空のイメージが変わってしまう。

撮影データ
カメラ シグマfp
レンズ 14-24mm F2.8 DG HSM(16mmで撮影)
ISO 800
絞り値 f5.7
シャッター
スピード
1/13秒
備考 -4/3補正、絞り優先オート、ホワイトバランスは晴れ

 

【作例2】まばゆい太陽と写す

初夏早朝。笠ヶ岳より。北アルプス主稜線の、どっぷりと黒に染まるその量感。雪の質感も明るくなりすぎずに表現できた

①ディテールは明瞭に写す

実際には白く明るい雪面だが、それではその表情、ディテールが表現されない。ギリギリまで暗く、しかしどこまでも雪だとわかる明るさで表現することで、その質感量感が伝わってくる。

②まぶしさは対比で際立つ

昇ったばかりの朝日。この極度な明部があってこそ、暗部との対比が明確なものになる。絞っているので光芒も現われるが、これも暗部があってこそ目立つ。

③暗さで増す切れ味

シルエットにすることで空とは明確に分離される稜線は、山頂やコルといった凸凹がはっきりする。色を失うことで、その鋭利な切れ味は何倍にも感じられる。

撮影データ
カメラ シグマsd Quattro H
レンズ 24-70mm F2.8 DG OS HSM(24mmで撮影、35mm換算で32mm)
ISO 200
絞り値 f16
シャッター
スピード
1/800秒
備考 -3補正、絞り優先オート、ホワイトバランスは晴れ

 

コラム

シルエットで人物を写す

人物のシルエットは絵になる。フォトジェニックと言えばよいか。

人物をシルエットにすることは、ひとりひとりの属性をざっくり削ぎ落とすことにある。山と人のシンプルな姿が浮き彫りにされ、見る側の想像力も刺激されるのだ。

山岳取材でも、かつてはかなり多くの場面で人物を入れていた。声をかけて撮影する場合もあったが、声をかけることなく、シャッターを切ることも多かった。しかし、肖像権、あるいはプライバシーなどの問題で、昨今はそういった撮影はかなり難しくなったと感じている。そのような面でも人物をシルエットとして写すことは有効である。

山と溪谷2023年8月号より転載)

関連リンク

プロフィール

三宅 岳(みやけ・がく)

1964年生まれ。山岳写真家。丹沢や北アルプスの山々で風景や山仕事などの撮影を行なう。著書に『ヤマケイアルペンガイド 丹沢』(山と溪谷社)、『山と高原地図 槍ヶ岳・穂高岳 上高地』(昭文社)など。

山の写真撮影術

『山の写真撮影術』では、山で見られる風景から毎回テーマを設け、それに沿った写真撮影術を解説します。

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