【書評】低山からヒマラヤまで 登山史に残る名文を編んだ一冊『山は輝いていた』
評者=森山憲一
本書は、さまざまな立場で山に関わってきた13人のアンソロジー。その13編それぞれに、編者の神長幹雄氏が解説を加えるかたちになっている。
13人は、『花の百名山』の田中澄江にはじまり、作家の立松和平や串田孫一、登山家の長谷川恒男や山野井泰史など、とにかくバラエティに富んでいる。旅としての登山を好む者から、山に自然を求める者、そして山を挑戦の場としてとらえる者。登山とは多様性に富んだものであり、多くの嗜好・立場の人を惹きつける懐の深さをもっている。本書の13選を眺め、それぞれにまったく異なる味わいの文章を読むことで、登山が本来もっている広がりや多様性を感じることができるだろう。
同時に、こうした人選になったことは神長さんらしいなとも私は思った。神長さんは『山と溪谷』の編集長を務めた人物。『山と溪谷』は、高山植物からヒマラヤ登山まで登山のオールジャンルを扱うことをテーマとしてきた雑誌。そこで仕事をしていると、いやでもあらゆるジャンルの人・山に接することになり、山を見る目が広がっていく。これはほかではなかなか得られない財産なのである。神長さんの下で編集稼業を始めた私は、年を経るごとにそこで得た財産の価値を感じている。
山は輝いていた
登る表現者たち十三人の断章
著 | 神長幹雄 |
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発行 | 新潮社 |
価格 | 737円(税込) |
評者
森山憲一(もりやま・けんいち)
1967年生まれ。早稲田大学在学中は探検部に所属。現在はフリーライターとして活動する。
(山と溪谷2023年10月号より転載)
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