登山用テントの基礎知識と選び方。キャンプ用テントとの違いは? 目的別おすすめは?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

テントに泊まると自然との距離が近くなる。そんな独特の感覚を体験でき、さらに自由を感じられるテント泊は、多くの登山者の憧れです。では、肝心のテントには、どんな種類があるのでしょう? 覚えておきたい基礎知識と選び方を紹介します。

文=吉澤英晃、写真=福田 諭

目次

登山用テントとは? キャンプ用テントとの違い

山での使用を想定して作られているテントは「登山用テント」もしくは「山岳用テント」などと呼ばれています。一方で、麓のキャンプ場での使用を考えているのが「キャンプ用テント」です。2つのテントはさまざま点で異なりますが、特に注目したい点は、「大きさ」と「重さ」です。

登山用テントの収納状態。手で抱えられるほどコンパクト
登山用テントの収納状態。手で抱えられるほどコンパクト

キャンプ用テントは居住性や便利な機能をもたせるために大きくて重いものが多いですが、登山用テントは収納サイズがコンパクト。さらに、無理なく背負うことができるほど軽い点が特徴です。

市場にある登山用テントは、いまは1人用で約1kgが一般的。なかには1kgを下回る、かなり軽量なモデルも存在します。

また、「耐風性」も登山用テントではより重視されるポイントです。登山用テントとして販売されているものは、基本的な耐風性はクリアしていると考えていいでしょう。

登山用テントを選ぶポイント

気にしたいポイントは、「重さ」と「居住性」の2つです。

テントは背負っている時間が長い装備なので、できるだけ軽いものが欲しいと思うはず。ただ、軽さだけに注目していると「こんなはずじゃなかった……」と後悔する可能性も。2つのポイントでチェックしたい点を詳しく見ていきましょう。

重さ

基本的に、テントは重くなるほど耐久性が高くなる
基本的に、テントは重くなるほど耐久性が高くなる

なるべく軽いテントが欲しいところですが、軽量なテントほど生地が薄くなるなど、強度が低下する傾向があります。耐久性などを考えると、はじめは1人用で1kg前後を目安にして選ぶといいでしょう。

居住性

マットの横幅は50cmのものが多い。50cm+何㎝あるかで居住性が決まる
マットの横幅は50cmのものが多い。50cm+何㎝あるかで居住性が決まる

疲れて幕営地に到着したものの、テントが狭くて全然体が休まらない。そんな残念な事態にならないように、居住性についてもチェックしておきましょう。主なポイントはフロアの面積、天井までの長さ、「前室」の有無の3つです。

フロアの面積は、同じ1人用でもモデルによって異なります。とくに注目したいのが横幅。スリーピングマットを敷いたとき、荷物を置く分のスペースがあるか確認しましょう。

天井の高さもモデルによってまちまちです。スリーピングマットに座った状態で上体を起こしたとき、頭が天井に触れないくらい高さがあると居住性がいいといえるでしょう。

登山靴を置いているスペースが前室
登山靴を置いているスペースが前室

前室とは、入り口の前にできるフライシートに覆われた空間のこと。前室があると雨や風の影響を気にせずに汚れた登山靴などを外に出しておくことができます。

重さと居住性の関係性

一般的に、軽さと居住性は相反する関係にあります。居住性を優先させるとテントは重くなり、軽さを優先させると居住性は悪くなりがちです。どちらを重視するか、テントを選ぶうえで判断が分かれるポイントです。

登山用テントの種類

登山用テントの種類は「自立式/非自立式」と「フライシートの有無」によって4つに分かれます。

自立式/非自立式

ペグと呼ばれる杭でテントを固定しなくてもテントが立ち上がるタイプを「自立式」、ペグで固定しないとテントが立ち上がらないタイプを「非自立式」と呼びます。最近では、両方の特徴をもった「半自立式」も存在します。

フライシートの有無

フライシートと呼ばれる防水のシートを被せる必要があるものは「ダブルウォール」。フライシートを被せる必要がないものは「シングルウォール」と呼ばれています。

まとめると、登山用テントは「自立式ダブルウォール」「非自立式ダブルウォール」「自立式シングルウォール」「非自立式シングルウォール」の4タイプに分かれます。

登山用テントの種類別の特徴

登山用テントの4種類は、設営のしやすさや居住性、雨天時の立てやすさなどが異なります。

自立式ダブルウォール

自立式ダブルウォールの人気モデル(ライペン/トレックライズ1)
自立式ダブルウォールの人気モデル(ライペン/トレックライズ1)

自立式は、ペグで固定しなくてもテントとポールを組み合わせた状態で空間が保たれるタイプです。

自立式は設営状態のまま移動が可能
自立式は設営状態のまま移動が可能

たとえば設営後にロケーションを変えたいときなど、簡単に場所を移動できる特徴があります。

フライシートの内側にある空間が内外気温差を和らげる
フライシートの内側にある空間が内外気温差を和らげる

フライシートを被せるダブルウォールは、入り口の前に登山靴などを置いておける前室が生まれます。さらに、フライシートと内側にあるインナーテントとの間に空間ができるため、インナーテントの内側に結露が発生しにくいです。

また、雨や風をフライシートが受けるので、生地が1枚だけのシングルウォールよりも、感覚的に安心感が高いといえるでしょう。

[欠点]
インナーテントには防水性が備わっていないため、強い雨が降るなかでは設営時にテントが内側まで濡れてしまう可能性があります。

自立式シングルウォール

防水性に通気性を備える自立式シングルウォール(プロモンテ/VB-11)
防水性に通気性を備える自立式シングルウォール(プロモンテ/VB-11)

シングルウォールは生地に防水性をもたせてフライシートを省いたタイプです。

シングルウォールの縫い目は止水処理済み
シングルウォールの縫い目は止水処理済み

テント本体の素材に防水透湿性があり、縫い目は浸水を防ぐシープテープで処理されているため、雨のなかの設営作業時でも中まで濡れない利点があります。

さらに、フライシートを被せる手間がかからないので、ダブルウォールよりも短い時間で設営できます。

[欠点]
シングルウォールは登山靴の中にしまう必要がある
シングルウォールは登山靴の中にしまう必要がある

フライシートを被せないため、前室がないモデルが多いです。また、一枚の生地で外気と遮断されるため、内側に結露が発生しやすいといったデメリットもあります。

非自立式

ダブルウォールとシングルウォールの特徴は前述した内容と変わりません。

設営方法が非自立式になると、使うポールの本数が少なくなるため、重量が軽くなり、収納状態もコンパクトになるメリットがあります。

また、同じようなメリットを持つものとして、本来は非常時用のシェルターであるツエルトをテントのように積極的に活用する登山者もいます。詳しくは後述します。

[欠点]
非自立式はペグで固定しないとテントが立ち上がらないため、設営には慣れが必要です。また、自立式のように簡単に場所を移動できないといったデメリットもあります。

半自立式

半自立式のダブルウォール(シートゥサミット/アルトTR1テント)
半自立式のダブルウォール(シートゥサミット/アルトTR1テント)

登山用テントのなかには「半自立式」と呼ばれるものもあります。これは、自立式と非自立式の良さを組み合わせた比較的新しいタイプのテントです。

奥は2本のポールで空間が保たれているが、手前はポールが一本しかなく空間が潰れてしまった
奥は2本のポールで空間が保たれているが、手前はポールが一本しかなく空間が潰れてしまった

半自立式のテントは、片側はペグで固定しなくても空間が保たれる一方、反対側はペグで固定しないと空間が保たれない形をしています。設営後も比較的場所を移動しやすく、かつポールの本数が減るので重量が軽くなる。そういった特徴を備えています。

【もう一つの選択】ツエルトという簡易テント

ファイントラック/ツエルト2ロング
ファイントラック/ツエルト2ロング

ツエルトとは、主に想定外のビバーク時に使用する緊急用のシェルターのこと。とはいえ、ツエルトはテントを意味するドイツ語であり、経験が豊富な登山者のなかには、ツエルトでテント泊を楽しむ人もいます。

ツエルトの収納サイズは手の平に収まるほどコンパクト
ツエルトの収納サイズは手の平に収まるほどコンパクト

ツエルトを選ぶ最大のメリットは、軽量&コンパクトであることです。充分な経験を積み、軽量な装備でテント泊を楽しみたくなったら、あえてツエルトを選ぶ選択肢もありでしょう。

目的別おすすめテント

最後に、紹介してきた登山用テントのメリットとデメリットをまとめながら、それぞれがどのような人におすすめか紹介します。

自立式ダブルウォール

[メリット]

  • フライシートを被せるため、前室が備わる
  • テントの内側が結露しにくい

[デメリット]

  • フライシートを被せる手間がある
  • 雨の日に設営時にインナーテントが濡れてしまう

自立式ダブルウォールは、居住性が高く、これからテント泊を始める初心者の方におすすめです。

自立式シングルウォール

[メリット]

  • フライシートがないため、設営の手間が省ける
  • 本体に防水性があるため、雨のなかで設営作業をしてもテントが濡れない

[デメリット]

  • フライシートがないため、前室ができないモデルが多い
  • 室内に結露が発生しやすい

自立式シングルウォールは、本体に防水性があるため、雨のなかで設営作業をしてもテントが濡れない特徴があり、設営時の状況が悪いときほどメリットを感じやすいといえます。シビアな環境でテント泊を行なうユーザーにおすすめで、悪天候を避けづらい長期縦走や雪山登山で本領を発揮するタイプです。

非自立式

[メリット]

  • ポールの本数が減るので重量が軽くなる
  • 収納サイズもコンパクトになる

[デメリット]

  • ペグで固定しないと空間が生まれず、設営に手間がかかる
  • 設営には慣れが必要

非自立式テントの特徴は、コンパクトな収納サイズと圧倒的な軽さです。小さくて軽いテントを探している方は非自立式テントを検討してみるといいでしょう。

目次

プロフィール

吉澤 英晃

1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出会い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンを約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。

はじめての登山装備。基礎知識と選び方

登山装備の基礎知識と選び方を、わかりやすく、やさしく解説します!

編集部おすすめ記事