登山用バーナーの種類と選び方。ポイントは「燃料」と「使い勝手」

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山のなかで温かい食事を食べたいとき、登山用バーナー(ストーブ)の出番です。使う「燃料」で種類が分かれ、それぞれ「使い勝手」が異なります。最初はどれを買うのがおすすめ? そんな悩みに応えて、目的別の選び方を紹介します。

文=吉澤英晃、写真=福田 諭

目次

登山用バーナーの種類は3つ

登山用バーナーの種類は3つ

バーナー(ストーブ)は燃料を用いて火を起こす道具のこと。クッカーやケトルを乗せて用意した食材を調理する、お湯を沸かすといった主に食事のシーンで使用します。

家庭で使う卓上コンロもバーナーの一種ですが、ずしりと重く、そもそも持ち運びやすいサイズではありません。その点、登山用バーナーは手のひらサイズに収まるほどコンパクトで、100g以下のモデルもあるほど軽い点が特長です。

登山用バーナーの購入で迷ったとき、選び方でポイントになるのは、使う「燃料」と「使い勝手」。

まず「燃料」に焦点を当てると、登山用バーナーは3つのタイプに分けられます。

  1. ガスバーナー
  2. 液体燃料バーナー
  3. 固形燃料

それぞれの特長を見ていきましょう。

簡単に高火力を得られる「ガスバーナー」

ガスバーナー
左)CB缶を使うSOTO/レギュレーターストーブ 右)OD缶を使うプリムス/153 ウルトラバーナー。どちらも人気の定番モデル

燃料(液化ガス)を充填したガスカートリッジ(ガス缶、ガスボンベとも)を使うタイプが「ガスバーナー」です。3タイプある登山用バーナーのなかで、昨今の主流といえるでしょう。

【メリット】
高火力を得られる、火力を調整できるモデルが多い、100g以下の軽量モデルがあるなど、調理に必要とされるすべての機能が凝縮されている点が、ガスバーナーの特長です。

【デメリット】
OD缶と呼ばれるガスカートリッジが入手しづらい点が挙げられます。主にアウトドア専門店が販路になっているため、コンビニなど身近なお店では購入できません。

なかには、ホームセンターなどで簡単に入手できるCB缶(カセットボンベ)を使うモデルもありますが、サイズが大きいのが玉に瑕。持ち運びやすさを考えると、登山にはやや不向きといえます。

海外遠征や極地で活躍「液体燃料バーナー」

液体燃料バーナー
左下)トランギア/アルコールバーナー。半世紀以上形が変わらない定番モデル。使用には別途ゴトクが必要 右上)MSR/ウィスパーライトインターナショナル。液体燃料バーナーはMSRが有名だ

アルコールやガソリンといった液状の燃料をタンクに注いで使うタイプが「液体燃料バーナー」(フューエルバーナー)です。アルコールを使うものはアルコールバーナーと呼ばれ、そのなかにも高火力を得られるモデルがあります。

【メリット】
世界中で燃料を入手でき、ガソリンを使うモデルは低温下でも安定して火力を得られます。そのため、世界を旅するバックパッカーや極地探検家のなかには、いまでも液体燃料を選ぶ人が少なくありません。

【デメリット】
高火力を得られるモデルは、ガスバーナーと比べて重くかさ張ってしまいます。さらに「ポンピング」や「プレヒート」など、普段聞き慣れない作業も必要です。

軽くて手間のかからないアルコールストーブを選ぶ方法もありますが、こちらは火力の弱さが欠点。火力の調整も不得意なので、調理にはやや不向です。

圧倒的な軽さが大きな特長「固形燃料」

固形燃料
固形燃料といえばエスビットが一般的。台座兼ゴトクも同社のアイテム。エスビット/チタニウムストーブ

最後に紹介する「固形燃料」は、ほかのバーナーと明らかに違います。使用するのは固形の燃料と、それを乗せる台座とゴトクのみ。緊急時用として固形燃料だけを持つ人もいます。

【メリット】
燃料そのものを持ち運べるので、使う分だけの燃料を計算して用意可能。3種類のなかで、最も重量を軽くできる点が固形燃料を選ぶいちばんの利点です。

【デメリット】
使用中に火力を調整することができません(※)。そのため、最近ではお湯だけ沸かせればいいという登山者が、荷物を軽くするために固形燃料を選ぶ傾向にあります。

※エスビットの固形燃料は複数個を同時に燃やすことで火力を高めることが可能。ただし、途中で火を弱めることはできない

最初の1台はガスバーナーがおすすめ

最初の1台はガスバーナーがおすすめ

紹介した3つのタイプから最初の1台にどれがいいか考えると、ガスバーナーがおすすめといえるでしょう。それは、収納サイズ、重量、機能のトータルバランスに優れているから。機能が充実しており、さまざまなシーン、用途に対応するモデルが選べる点も魅力です。「使い勝手」に関わる4つのポイントを紹介します。

ポイント①|点火装置付きで火力調整も得意

プリムス/153ウルトラバーナー
本体脇に取り付けられた箱状のパーツが「点火装置」。下部にある突起を押すとバーナーヘッドに火花が飛ぶ(プリムス/153ウルトラバーナー)

多くのガスバーナーには、ボタンを押すと金属の突起からバーナーヘッドに火花が飛ぶ「点火装置」が備わっています。これにより、火力調整バルブを開けると出てくる空気がミックスされた状態のガスに容易に点火することが可能です。

ただ、便利ではあるものの、点火装置も機械なので壊れるリスクがある点に気を付けましょう。特に気温が低い環境や、雨や結露で濡れてしまった場合などは機能不全に陥る可能性があります。点火装置が付いていないモデルはもちろん、備わっているモデルを使う場合でも、予備の点火用にフリント式ライターが必須です(※)。

※圧電点火式ライターは標高が高い場所では点火しなくなる可能性があるため、登山ではフリント式ライターがおすすめ

プリムス/153ウルトラバーナー
黒い火力調整ダイヤルを左に回すと、空気とミックスされた状態で出てくるガスの量が増えて火力がアップ。右に回すと火が弱まる(プリムス/153ウルトラバーナー)

また、ガスバーナーには基本、火力調整ダイヤルが備わっています。たとえば、炊飯に挑戦するときはトロ火の調整が欠かせませんし、逆にお湯を沸かすときや食材を炒めるときなどは、高火力で一気に加熱したほうが効率的といえます。

ポイント②|カートリッジの種類で寒冷地にも対応

ガスカートリッジ
両方ともプリムスのガスバーナーに使うガスカートリッジ。左)ノーマルガス 右)ハイパワーガス

液体燃料バーナーの紹介で、ガソリンを使うモデルは低温下でも安定して火力を得ることができると説明しました。これはガソリンの引火点が零度以下(ホワイトガソリン:約−50度、レギュラーガソリン:約−40度)であるため、高所など気温が低い場所でも点火しやすい性質が理由です(※)。

※燃料の引火点と実際にガソリンバーナーが不具合なく使える気温は異なる。詳しくは各商品の説明を確認してもらいたい

ただ、市販のガスカートリッジにも低温まで対応するタイプが用意されており、こちらを使えば国内の雪山登山であれば問題なく使用可能。

たとえば、火器メーカーのプリムスでは、低温まで対応するオールシーズン用を「ハイパワーガス」という商品名で温暖期用の「ノーマルガス」と区別しており、充填するガスの種類を変えています。

プリムスのノーマルガスに充填されているのは「ノルマルブタン」と「イソブタン」。ハイパワーガスには「ブタンガス(ノルマルブタンとイソブタンの総称)」と「プロパンガス」が入っています。それぞれ気化する温度が異なり、ノルマルブタンは−0.5度、イソブタンは−11.7度、プロパンガスは約−42度。ハイパワーガスには、より低い気温で気化するガスが充填されているので、低温下でも使用することができるのです。

さらに、プリムスのハイパワーガスの内側には特殊な素材が張られており、ガスの残量が減るにつれて気化面積が拡大する仕組み。安定した火力を維持する作りになっています。

一般的なノーマルタイプと低温まで対応するガスカートリッジを使い分ける目安となる気温は、約10度。登山で使うことを考えると、夏はノーマルタイプ、それ以外の季節では低温まで対応するタイプを選ぶと覚えておけば間違いないでしょう。

ポイント③|ガスの消費を抑える高効率モデルもチョイスできる

高効率バーナー
高効率バーナーではジェットボイルがパイオニア。MSRが手掛けるモデルは耐風性の高さが魅力。左)ジェットボイル/フラッシュ 右)MSR/ウィンドバーナーパーソナルストーブシステム

ガスバーナーのなかには、ガスバーナーと高い熱効率を可能にするクッカーがセットになったモデルがあります。たとえば、長期縦走や荷物が重たくなる雪山登山など、用意する燃料まで削りたいときに役立つのがこのタイプです。

クッカーの底部
クッカーの底部に備わるパーツが高い熱効率を生み出すポイント

これらのモデルはバーナーではなく、付属するクッカーに高効率の秘密があります。底部にデザインされた蛇腹状や羽のようなパーツがポイントで、これらが効率的に熱を吸収することで、高い熱効率を可能にしているです。

ジェットボイルの説明によると、一般的なクッカーと比べたとき、その熱効率は約2倍。これは、同じ量の水を沸かすのに約半分の燃料で足りる計算です。また、たとえば同じ量の水を同じ火力で加熱させると、今度は高効率バーナーのほうが短時間でお湯が沸きます。沸騰までの時間が圧倒的に短い点も、高効率バーナーを選ぶ大きな理由のひとつです。

ポイント④|ソロ向き、グループ向きのタイプもある

左が直結型。右が分離型の代表例
左が直結型。右が分離型の代表例。SOTO/マイクロレギュレーター FUSION Trek

ガスバーナーは、ガスカートリッジに対するバーナー本体の取り付け方の違いで、「直結型」と「分離型」に分かれます。ガスカートリッジの上に直接バーナー本体を取り付けるのが直結型、ホースなどを介してバーナーを取り付けるのが分離型です。

直結型と分離型
左の直結型は安定感に欠けるのに対して、右の分離型はクッカーの重心が低くなるのでバランスがいい

それぞれゴトクに乗せるクッカーの重心の高さに違いがあり、分離型のほうがクッカーの重心が低くなるのがわかります。そのため、どちらかというと直結型は小さなクッカーを乗せるソロの山行に、分離型は大きな鍋を使うグループ山行におすすめといわれています。また、分離型のほうが低い位置でクッカーを加熱できるので、食材を炒めるといった調理をしやすい点も特長です。

直結型と分離型
直結型は手のひらサイズに収まりクッカーにも収納可能。対して分離型は一回り大きくかさ張ってしまう

収納状態にも違いがあり、直結型のほうがコンパクトに持ち運び可能。さらに、重量も直結型のほうが軽いので、山での調理が目的の場合を除いて、一人で使うなら直結型を選ぶといいでしょう。

用途で考える登山用バーナーのおすすめ一覧

最初の1台にはガスバーナーがおすすめと紹介しましたが、「世界の山を登る」「荷物の軽量化が最優先」「登山の目的は山で料理を作ること」など、使用目的がハッキリしていれば、その限りではありません。

最後に、目的に合ったおすすめタイプをリスト化してみました。ぜひ参考にして、ベストな登山用バーナーを見つけてください。

オールシーズンの国内登山 OD缶を使うガスバーナー
夏山登山や麓のキャンプ CB缶を使うガスバーナー
海外の高所登山 液体燃料バーナーの高火力モデル
世界を歩くバックパッカーや、国内登山で荷物を軽くしたい人 アルコールバーナー
徹底的に軽量化したい人 固形燃料
登山で料理を楽しみたい人 OD缶を使うガスバーナーの分離型
登山でお湯を沸かすだけの人 OD缶を使うガスバーナの直結型か、高燃費モデル。もしくは荷物を軽くしたければ固形燃料

※この記事は2022年2月23日に公開した記事を更新したものです

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プロフィール

吉澤 英晃

1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出会い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンを約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。

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