標高の高い稜線では積雪する時期。夏山登山の延長では入山不可 島崎三歩の「山岳通信」 第318号

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長野県が県内で起きた山岳遭難事例について配信している「島崎三歩の山岳通信」。2023年10月17日に配信された第318号では、寒気の流入で、県内の標高の高い稜線では、みぞれや吹雪となり、低体温症による行動不能遭難が相次いだことについて言及。夏山登山の延長では入山できないコンディションとなっていることを説明している。

 

10月17日に配信された『島崎三歩の「山岳通信」』第318号では、期間中に起きた25件の山岳遭難事例について説明。以下に抜粋・掲載する。

  • 10月3日、北アルプスの槍ヶ岳で、単独で1日から入山していた65歳の女性が、槍ヶ岳から上高地に向けて下山中、天狗原分岐付近でスリップして転倒・負傷する山岳遭難が発生。岐阜県警ヘリが出動して女性を救助した。

  • 10月3日、中央アルプスの空木岳で、単独で1日から入山していた75歳の男性が、空木岳から池山尾根を下山中に登山道から滑落して負傷する山岳遭難が発生。駒ヶ根警察署山岳遭難救助隊員および中央アルプス地区山岳遭難防止対策協会救助隊員などが出動して男性を救助した。

  • 10月4日、北アルプスの五竜岳で、単独で入山した59歳の男性が、登山中に負傷したものの山行を継続。遠見尾根を下山中に負傷部位が悪化して行動不能となる山岳遭難が発生した。

  • 10月4日、北アルプスの餓鬼岳で、単独で入山した51歳の男性が、餓鬼岳から燕岳に向けて縦走中に滑落・負傷する山岳遭難が発生した。

  • 10月4日、北アルプスの燕岳で、2人パーティで入山した69歳の男性が、山頂から中房温泉に向けて下山中に疲労により行動不能となる山岳遭難が発生。無事救出された。

  • 10月5日、中央アルプスの中岳で、単独で入山した75歳の男性が、中岳付近を登山中に寒さと疲労により行動不能となる山岳遭難が発生。無事救出された。

  • 10月5日、北アルプスの南岳で、2人パーティで入山した70歳の女性が、槍沢から南岳に向けて登山中に吹雪で低体温症になり行動不能となる山岳遭難が発生。無事救出された。

  • 10月6日、北アルプスの八方尾根で、単独で入山した74歳の男性が、唐松岳から八方池に向けて下山中に何らかの原因により行動不能となる山岳遭難が発生。死亡が確認された。

  • 10月6日、南アルプスの仙丈ヶ岳で、単独で入山した63歳の女性が、仙丈ヶ岳から下山中にスリップして滑落・負傷する山岳遭難が発生した。

 

南アルプス・仙丈ヶ岳での遭難現場/長野県警察本部ホームページ山岳遭難発生状況(週報)10月10日付
  • 10月7日、北アルプスの西穂高岳で、2人パーティで入山した75歳の男性が、山小屋に宿泊中に体調不良になり行動不能となる山岳遭難が発生した。

  • 10月7日、北アルプスの栂池高原で、6人パーティで入山した54歳の女性が、栂池自然園を散策中に木道でスリップし、転倒・負傷する山岳遭難が発生した。

 

北アルプス・栂池高原での遭難現場/長野県警察本部ホームページ山岳遭難発生状況(週報)10月10日付
  • 10月7日、荒船山で、4人パーティで入山した79歳の女性が、登山中にスリップして滑落・負傷した。

  • 10月7日、北アルプスの涸沢で、単独で入山した53歳の女性が、涸沢から横尾へ向けて下山中に浮き石でバランスを崩して転倒・負傷する山岳遭難が発生した。

  • 10月7日、塩尻市贄川地籍の山林で、きのこ採りのために単独で入山した76歳の男性が、入山したまま行方不明となっている。

  • 10月7日、北アルプスの焼岳で、3人パーティで入山した56歳の男性が、山頂から上高地に向けて下山中に転倒・負傷する山岳遭難が発生した。

 

北アルプス・焼岳での遭難現場/長野県警察本部ホームページ山岳遭難発生状況(週報)10月10日付
  • 10月7日、中央アルプスの東川岳で、4人パーティで入山した54歳の男性が、木曽殿越付近を登山中にバランスを崩し、転倒・負傷する山岳遭難が発生した。

  • 10月7日、小川山で、2人パーティで入山した54歳の男性が、「藐姑射岩」をクライミング中に足を滑らせ、滑落・負傷する山岳遭難が発生した。

  • 10月8日、北アルプスの大天井岳で、5人パーティで入山した48歳の男性が、中房温泉に向けて喜作レリーフ付近を通過中に滑落。死亡が確認された。

  • 10月8日、戸隠山で、単独で入山した59歳の男性が、「蟻の塔渡り」を登山中にバランスを崩して滑落。死亡が確認された。

  • 10月8日、北アルプスの涸沢で、2人パーティで入山した49歳の女性が、涸沢からパノラマコースを下山中に足を滑らせ、滑落・負傷する山岳遭難が発生した。

 

北アルプス涸沢・パノラマコースでの遭難現場/長野県警察本部ホームページ山岳遭難発生状況(週報)10月10日付
  • 10月8日、北アルプスの槍沢で、4人パーティで入山した24歳の男性が、槍ヶ岳に向け登山中に体調不良により行動不能となる山岳遭難が発生した。

  • 10月8日、苗場山で、5人パーティで入山した65歳の女性が、山頂から小赤沢へ下山中に転倒し、負傷する山岳遭難が発生した。

  • 10月8日、御嶽山で、3人パーティで入山した60歳の女性が、御嶽ロープウェイ飯盛高原駅に向けて下山中にバランスを崩し、転倒・負傷する山岳遭難が発生した。

  • 10月8日、北アルプスの横尾で、2人パーティで入山した72歳の女性が、涸沢から横尾に向けて下山中に疲労により行動不能となる山岳遭難が発生した。

  • 10月8日、北アルプスの常念岳で、3人パーティで入山した65歳の男性が、常念岳から三股に向けて下山中に疲労により行動不能となる山岳遭難が発生した。

 

長野県警山岳安全対策課からのワンポイントアドバイス 

10月1週は、3件の死亡遭難を含む25件の遭難が発生しました。

連休前は、強い寒気の流入により、北アルプスなどの標高の高い稜線ではみぞれや吹雪となり、これに伴う低体温症による行動不能遭難が相次いで発生しました。秋はひとたび天気が崩れると真冬と同じような気象条件となり、このような状況で不用意に行動をすると、重度の低体温症に陥り、命を落としてしまうことがあります。入山前に必ず天気予報を確認し「前線の通過」「寒気の流入」「冬型の気圧配置」などの用語があれば山は大荒れになりますので入山は控えてください。

連休期間中は、滑落や転倒遭難が相次いで発生しました。県内には標高2000m前後でも、岩場や鎖場の通過があり、滑落の危険性の高い山があります。歩行が中心の登山経験だけでそのような山を登ることは非常に危険です。三点支持など基本的なクライミング技術を身につけてから挑戦をしてください。

高齢登山者の疲労による行動不能遭難も多発しています。「登りたい山=登れる山」とは限りません。これまでの登山経験から自分の歩行ペースを把握し、自身の体力に見合った無理のない範囲で安全に登山を楽しみましょう。

今後は積雪や凍結等により、防寒対策のほか、アイゼンやチェーンスパイクなどの冬山装備が必要になります。例年、夏山登山の延長で、不充分な装備や計画のまま入山し、遭難する事例が後を絶ちません。最新の登山道情報を確認し、慎重な判断をお願いします。

プロフィール

島崎三歩の「山岳通信」

信州の山岳遭難現場と全国の登山者をつなぐために発行。「登山用品店舗スタッフ」「登山情報サイトを利用する登山者」「長野県内の各地区山岳遭難防止対策協会」などに対して、長野県の山岳地域で発生した遭難事例を原則・1週間ごとに、「安全登山」のための情報提供をしている。

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島崎三歩の「山岳通信」

長野県では、県内の山岳地域で発生した遭難事例をお伝えする「島崎三歩の山岳通信」を週刊で配信。その内容をダイジェストで紹介する。

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