夜の山歩きにハマるのはどんな人?ヤマケイ新書『ナイトハイクのススメ』著者インタビュー②

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異世界のような夜の山に魅了され、約30年にわたってナイトハイクに親しんできた中野純さん。ヤマケイ新書『ナイトハイクのススメ 夜山に遊び、闇を楽しむ』では、ナイトハイクの極意を紹介している。どんな人が夜の山歩きにハマっているのか、危険はないのか。中野さんに聞いた。

写真=中野 純

初めてのソロ・ミッドナイトハイクで正気を失いそうに

――ナイトハイクをしていて危険な目にあったことはありますか?

これも八丈島ですが、八丈富士でお鉢巡りをしようとしたのですが、ものすごい風が吹いていました。それでも歩けるかな、と思い少し歩いていたら、とても嫌な感じがしたんですね。強風のせいだけではない、嫌な感じ。で、やっぱり止めようと。その夜は、火口壁の内側で夜を明かしました。夜明け後にお鉢巡りのルートに戻ると、なんと、私たちが歩こうとしていたルートの脇にあちこち竪穴が開いていて、とても危険な状態でした。あのまま暗い中、歩いていたら強風に押されて穴に落ちていたかもしれません。

――それはいわゆる「予知能力」みたいなものだったのでしょうか?

ずいぶん前に一度、昼間にお鉢巡りをしたことがあるので、そのときの記憶が残っていたのかもしれません。ただ、あのときの嫌な感じはいまでも覚えています。また違う意味で危なかったのは初めてのソロ・ミッドナイトハイクで正気を失いそうになったことです。

――正気を失う、とはただごとではないですね。

バカ尾根(注:丹沢・塔ノ岳の大倉尾根のこと)の途中の休憩所で、星空の下、大の字になって寝っ転がっていたのです。そうすると、だんだん自分の身体と闇の境目がわからなくなってきた。自分の身体が闇に溶け出しているような、はたまた闇が自分の身体の中に浸食してきているような・・・。闇にもっていかれそうになり、心地いいけど、恐ろしい。あれは本当に危険でした。

箱根・明星ヶ岳カルデラ壁と星

――日中の登山で遭難につながる、転落や滑落、道迷いという危険な目にはあっていないのですね。

道迷いはよくあります。でも、迷ったと思ったらすぐに戻ります。転落や滑落についても、注意しながら歩くので大事に至ったことはないですね。そもそもピークハントが目的でナイトハイクをしているわけではないので、急ぐ必要がないのです。だから慎重に歩きますし、危ないと思ったら引き返すこともいといません。天気についても、徐々によくなっていく予報であれば出発しますが、夜にかけて荒れ模様になる予報であれば中止にします。

14人目は誰だったんだ・・・

――ナイトハイクといえば、怖い話もありそうです。

本の中に不思議な体験はいくつか書きましたが、私は幽霊やお化けのたぐいはいっさい信じていないんです。いるはずがない、と。ただ、不思議な体験はよくします。それは自分の脳の状態と、私がよく知らないなんらかの自然現象の組み合わせによることが多いのではないか、と。

――本のなかでは「すぐ後ろにいるはずの女性」のエピソードがつづられていますね。あれは読んでいても不思議な感覚になりました。

本に書いていないことでは「ツアー中に人が増える」というのがありますね。

――夜の山を歩いている最中に、人が増えるのですか!?

何度かありました(笑)。最近だと、2022年の12月に中央線沿線の扇山に行ったときです。扇山は本の中でも紹介していますが、本当にナイトハイクに適した山です。扇山の登りの途中で人数確認のため、ひとりずつ順に番号を言ってもらったんですね。13人のはずが、最後「14」で終わったんです。闇の中なので、参加者の顔は見えない。え? え? という雰囲気のなか、もう一度、番号を言ってもらいました。そうすると今度は「13」で終わる。あのときいた14番目の人は何だったのでしょう。誰かがあわてて2回言ってしまったのかもしれません。でも、ひょっとしてだれか、14人目の人がいたかもしれない。不思議ですね。


イベント情報

ヤマケイ新書『ナイトハイクのススメ』の出版記念ツアーが2023年12月16日(土)に、多摩丘陵で開催されます。里山のツアーなので、ナイトハイク初めての人にもぴったりの企画です。現在参加者を募集中です。

イベント詳細:http://www.sarusuberi.co.jp/naniata/20231126.html


ヤマケイ新書 
ナイトハイクのススメ 夜山に遊び、闇を楽しむ

夜の山では自分も世界もすべて変わる。
「灯りを消して歩く、夜の山の楽しみ方」

中野 純
発行 山と溪谷社
価格 1,210円(税込)
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プロフィール

中野 純(なかの・じゅん)

1961年、東京都生まれ。「闇」に関する著作を数多く発表しつつ、ナイトハイクや夜散歩など闇歩きガイドとしても活躍。主な著書に『闇で味わう日本文学 失われた闇と月を求めて』(笠間書院)、『「闇学」入門』(集英社新書)、『闇と暮らす。』(誠文堂新光社)、『庶民に愛された地獄信仰の謎』(講談社+α新書)、『東京「夜」散歩』(講談社)、『闇を歩く』(光文社 知恵の森文庫)、『月で遊ぶ』(アスペクト)、など。東京造形大学非常勤講師。

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