厳冬期登山靴はどれがいい? 雪山登山装備テスト&レポート①
山岳ガイド2人がひと冬かけて雪山登山装備をテストした『山と溪谷』2022年12月号の記事をご紹介。2021年12月〜2022年3月、八ヶ岳など各地の雪山で各アイテムを複数回使用し、厳冬期登山靴、クランポン(アイゼン)、アックス(ピッケル)、グローブの雪山登山装備4カテゴリーをテストした。使ってみないとわからないこと、比較してみて気付いたことをレビューした。
監修=久野弘龍(厳冬期登山靴・クランポン)、笹倉孝昭(アックス・グローブ)、文=池田菜津美、写真=加戸昭太郎
厳冬期登山靴選びで重視したいこと
体感的な軽さや歩行時のスムーズさ、足先の暖かさは、フィット感で生まれるため、最も重要なのは足に合うかどうか。両サイドが圧迫されていないか、足指の一部がどこかに当たらないかなどを確認してほしい。分厚い靴下だとわかりにくいので、薄めの靴下で当たりがないかを確認した上でサイズを選ぶのがおすすめだ。(久野)
テストの方法
テストは八ヶ岳・赤岳やバリエーションルートなど、実際に雪山を登頂しながら行なった。コンディションで差が出ないよう2回以上使用し、当日の気温、湿度、雪質などの変数をできるだけ考慮した。
テスト項目は登攀性能、保温性、フィット感の3つ。テストの目的は製品ごとの特徴を明確にすることだ。各社がどのような方法でそれらの項目を達成しようとしているかを考察することが重要で、製品の優劣をつけるのが目的ではない。
登攀性能は、足指がクランポンの前爪に近いほど高まる。そのため、登山靴の前方のコバの位置によって左右されることが多い。軽さも重要だが、フィット感による足との一体感や取り回しのよさも登攀性能に影響を与える。保温性は保温材の厚みとデッドエアの有無、雪の付着しやすさなどを確認した。
フィット感は、保温材や緩衝材がうまく配置されているかと、靴ひもの調整でフィット感を高められるかを確認した。どちらを重視しているかはメーカーで異なる。靴の形状と足形の相違によるフィット感の差異は可能な限り排除した。
テストした項目
- 登攀性能/靴の中の足指の位置、足との一体感の有無など
- 保温性/保温材の厚みとデッドエアの有無など
- フィット感/保温材や緩衝材の配置、靴ひもの締め方など
※継続販売中の商品については価格を2023年12月現在のものに更新し、後続モデルがあるものは商品名と価格をレビューの文末に記載しました
靴の幅 | やや細い |
---|---|
登攀性能 | ★★★★☆ |
保温性 | ★★★★☆ |
フィット感 | ★★★★☆ |
靴の幅 | やや細い |
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登攀性能 | ★★★★★ |
保温性 | ★★★☆☆ |
フィット感 | ★★★★☆ |
※23—24年シーズンは後継の「ファントムテックHD」(116,600円・税込)が発売中
靴の幅 | やや広い |
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登攀性能 | ★★★★★ |
保温性 | ★★★★☆ |
フィット感 | ★★★★★ |
靴の幅 | やや広い |
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登攀性能 | ★★★★☆ |
保温性 | ★★★★★ |
フィット感 | ★★★★☆ |
靴の幅 | ふつう |
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登攀性能 | ★★★★★ |
保温性 | ★★★★☆ |
フィット感 | ★★★★☆ |
靴の幅 | ふつう |
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登攀性能 | ★★★☆☆ |
保温性 | ★★★☆☆ |
フィット感 | ★★★★☆ |
靴の幅 | ふつう |
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登攀性能 | ★★★★☆ |
保温性 | ★★★★☆ |
フィット感 | ★★★☆☆ |
靴の幅 | ふつう |
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登攀性能 | ★★★☆☆ |
保温性 | ★★★★☆ |
フィット感 | ★★★★☆ |
テストを終えて……
改めて、靴の中の足指が前コバに近いほど登攀性能が高いと感じた。足指がクランポンの前爪に近いほど、力を伝えやすく、雪壁に立ち込みやすくなる。逆に、爪先部分の厚みや緩衝材の配置などで、靴内の足指の先に余白が生まれるような設計の靴だと、クランポンの前爪に力を伝えるのが難しくなってしまう。
その点では、ラ・スポルティバの「ネパール エボ GTX」や、ザンバランの「アイガーLITE GTRR BOA」、アゾロの「6B +GV Mens」はよい設計だと思う。
軽量化と保温性の両立がトレンドで、どの靴も遜色なかった。ただし、体感的な軽さや暖かさは、ブカブカの靴や足がぐらつく靴では得られない。足に合っているかどうかに大きく左右される。
スカルパの「モンブランプロGTX」のように細身の作りでも、アッパーの剛性や保温材の配置などでフィット感は緩めに感じる靴もある。むろん足形は千差万別なので、さまざまな靴を履き比べて、自分に合う一足を選んでほしい。
クランポンとの相性はブーツのサイズで異なる
雑誌の記事やウェブの情報、知人のおすすめなど、「このブーツとこのクランポンは相性がよい」といった情報は鵜呑みにしないこと。というのも、ブーツのサイズでクランポンの相性は異なるからだ。同じモデルであっても、小さめのブーツと大きいブーツでは爪先が細い、丸みを帯びるなど、形状が少しずつ違うため、同じクランポンがフィットするとは限らないのだ。雪山ギア用語集
カラー
アッパー上部と一体化した生地で、伸縮性に優れたものが多く、保温性を高めている。近年は密閉性を高めたモデルが増えた。
グルーブ(後ろコバ)
クランポンの金具(アタッチメント)をかける箇所。
アッパー
耐久性に優れたレザー製や、軽量な化繊製のものなど。断熱材がライニングされている。
グルーブ(前コバ)
クランポンの金具(アタッチメント)をかける箇所。
ビルトインゲイタータイプ
ブーツ本体と外側を覆うパーツが統合されたタイプ。ゲイターはファスナーで開閉。密閉性が高く、保温性が高い。
(山と溪谷2022年12月号より転載)
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。
徹底研究!雪山登山装備
雪山登山には専用の装備が不可欠。登山靴、アイゼン、ピッケルといった雪上歩行のための用具から雪崩対策ギア、テント泊装備まで、雪山で使用する装備を紹介します。