雪山の最重要アイテム、グローブの定番モデルをレビュー! 雪山登山装備テスト&レポート④

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山岳ガイド2人がひと冬かけて雪山登山装備をテストした『山と溪谷』2022年12月号の記事から、グローブのレビューをご紹介。グローブの機能のなかで重要なポイントはなにか、そして定番モデルの使用感をチェックする。

監修=久野弘龍(厳冬期登山靴・クランポン)、笹倉孝昭(アックス・グローブ)、文=池田菜津美、写真=加戸昭太郎

テスター笹倉孝昭さん
テスター 笹倉孝昭さん
ささくら・たかあき/日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージ2。国立登山研修所講師。ガイド業はもとより、オンライン講習などで登山の知識や技術の普及にも努める。著書に『アルパインクライミング教本』(山と溪谷社)など。

グローブ選びで重視したいこと

グローブは手指の凍傷を防ぐ重要なアイテム。指先は表面積が大きく、血管が細くて心臓から離れているため、凍傷のリスクが高い。そういう意味でも保温性を最優先したい。次いで操作性。赤岳登攀、バリエーション、クライミングなど、使用目的で操作性の重要度は変わるため、自身の登山と照らし合わせて選びたい。(笹倉)

テストの方法

テストは八ヶ岳・赤岳や伯耆大山など、実際に雪山を登頂しながら行なった。コンディションで差が出ないよう数回使用している。

グローブで最も重要なのは保温性なので、体感としてのレビューだけでなく、非接触型の温度計を使って皮膚表面の温度を計測し、客観的な数値も得て評価した。防風性はライナーの素材や保温材の量などに左右される。赤岳の稜線など、冷たい風が吹く場面で暖かさを保てるかどうかを確認している。

乾いた雪から湿った雪まで、さまざまな雪質で使用したが、防水性については特に湿雪で使用したとき、グローブの外側が濡れやすくないか、内部まで水分が染みないかを確認した。また、テスト期間中に何度も使用することで、防水性が低下しないかもチェックポイントとした。

操作性は生地の厚みや素材、形状などによる。グローブをしたままでもクランポンを装着しやすいかをチェックした。体感だけでなく、製品ごとに所要時間を計測し、レビューに反映した。そのほか、ロープをハーネスに結ぶ、カラビナを扱うなど、手先の細かい作業にも使った。

雪が付いたときの外部の濡れ、内部の濡れを確認した
雪が付いたときの外部の濡れ、内部の濡れを確認した
グローブをつけたまま、細かい作業を行なった
グローブをつけたまま、細かい作業を行なった

テストした項目

  • 保温性/素材・構造による総合的な保温力
  • 防風性/ライナー素材や保温材の量
  • 防水性/湿雪での使用時の浸水具合
  • 操作性/ギア類の操作のしやすさ
  • 着脱しやすさ/手への着け外しのしやすさ

※継続販売中の商品については価格を2023年12月現在のものに更新しました。なお、マイナーチェンジなどでスペックが多少変更されている場合があります

ブラックダイヤモンド レジェンド (左)

ゴートレザーとパーテックスシェルを組み合わせ、高い防風性を確保。ゴアテックスウォームテクノロジーに加え、プリマロフトゴールドで保温性にも優れる。

価格:23,320円(税込) 重量:193g(M) 温度域:マイナス17/マイナス1℃ サイズ:XS~XL

保温性 ★★★★☆
防風性 ★★★★★
防水性 ★★★★★
操作性 ★★★★★
着脱しやすさ ★★★★★
マイナス15℃くらいまでは冷たさを感じない。クランポンの装着、ロープをハーネスに結ぶ、カラビナを使うなど、ボリュームのわりに細かい操作が得意。保温性、操作性などの実用性においてバランスがよい。もともとはバックカントリー向けだが、特に12月末〜2月末の厳寒期に適していて、多少のロープワークを伴う登山に使えた。
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ザ・ノース・フェイス マウンテングローブ (中央)

ゴアテックスを採用した防水性に優れたグローブ。中綿はプリマロフトブラックインサーレーションライズを使用。手のひら部分はヤギ革で、しなやかさとグリップ力を両立。

価格:22,000円(税込) 重量:195g(L) 温度域:非公表 サイズ:XS~XL

保温性 ★★★☆☆
防風性 ★★★★☆
防水性 ★★★★★
操作性 ★★☆☆☆
着脱しやすさ ★★★★☆
防風性は高く、テスト期間中に表面や内部が濡れることはなかった。テストしたモデルのなかでは、クランポン装着に最も時間がかる。全体的な硬さが気になったが、使いこむと手になじんでいくだろう。保温性や防水・防風性は充分で、雪山のさまざまな状況で対応力がある。
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ブラックダイヤモンド グリセード (右)

防水透湿素材「BD.Dry」を採用。薄くて断熱性の高い新素材「シンサレート」を封入し、マイナス20度まで対応。登山からバックカントリースキーまで幅広く使えるオールラウンダー。

価格:12,430円(税込)重量:162g(M) 温度域:マイナス20/マイナス1℃ サイズ:XS~XL

保温性 ★★★★★
防風性 ★★★★★
防水性 ★★★★★
操作性 ★★★☆☆
着脱しやすさ ★★★★★
今回テストしたなかで最も暖かく感じた。防水性は予想以上。約1カ月のテスト中、乾いた雪や湿雪のラッセルなどに使ったが、濡れは気にならなかった。断熱材の厚みと柔らかさでクランポン装着に少し時間がかかる。クライミングでの使用を想定していないので細かい操作性は求められないが、一般的な登山にはとても使いやすい。
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ショーワグローブ テムレス02ウィンター (左)

ポリウレタン素材のグローブ。透湿性と防水性を兼ね備えた特殊なポリウレタンで蒸れを軽減。独自設計のコーティング樹脂と裏布で柔軟性があり、氷点下でもやわらかさを保つ。

価格:3,828円(税込)重量:120g(L) 温度域:マイナス60℃ サイズ:M~3L、一体型

保温性 ★☆☆☆☆
防風性 ★☆☆☆☆
防水性 ★★★★★
操作性 ★★★★☆
着脱しやすさ ★★★★☆
非接触型温度計で皮膚表面温度を計測してみたが、保温性は低いと言わざるを得なかった。生地の薄さから防風性は低い。クランポン装着など細かい作業は行ないやすかったが、ビレイなどロープやカラビナの操作は不安。雪洞を掘る、長時間のラッセルなど、極度の低温でない環境でロープ操作を伴わない活動には適している。
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モンベル アルパインテックグローブ (中央)

すべての縫い目にシームテープ処理を施したアウターには、ゴアテックスパックライトプラスファブリクスを使用。手のひら部分にはしなやかなヤギ革を配置。ライナーは着脱式。

価格:23,760円(税込) 重量:226g(平均重量) 温度域:非公表 サイズ:S~XL(ウィメンズモデルあり)

保温性 ★★★☆☆
防風性 ★★★★★
防水性 ★★★★★
操作性 ★★☆☆☆
着脱しやすさ ★★☆☆☆
外気温が伝わりやすい気がして、保温性はやや低めの評価。ゴアテックスがライニングされているので防風性、防水性ともに高い。同メーカーのレザーグローブと比べると、操作性はやや低く、使いにくさを感じた。クランポン装着の時間を計測したら、平均値より少し時間がかかるくらい。ライナーが着脱式なので手間が少しかかる。
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モンベル ウインターレザーグローブ (右)

しなやかさと耐久性を両立したヤギ革と、ゴアテックスインサートを採用。保温性のあるライナー(着脱式)を組み合わせた。使い込むほどに手になじみ、抜群の操作性を発揮。

価格:18,920円(税込) 重量:216g(平均重量) 温度域:非公表 サイズ:S~XL

ヘッドの握り ★★★☆☆
シャフトの握り ★★★★★
振りやすさ ★★★★★
ピックの安定感 ★★★☆☆
使いやすさ ★★☆☆☆
ライナーの素材が原因か、外気温を伝えやすいように感じた。そのため保温性はやや低かった。表面素材の撥水性能が高く、湿雪のラッセルでも表面が濡れない。だんだんと手になじみ、アックスを握っていても違和感なく使えるように。装着時はいったんライナーを外してから、アウターと別々に着けるとよい。
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テストを終えて……

昔のグローブに比べてどれも暖かく、生地や保温材、裁断や構造などが工夫されていると感じた。保温性はブラックダイヤモンドの「グリセード」と「レジェンド」が高く、カタログ掲載の最低温度域のマイナス20℃、マイナス15℃でも寒さを感じなかった。

今回のモデルのなかでは「レジェンド」が総合的に優れていた。バックカントリー向けのモデルだが、分厚さのわりに細かい作業が得意で、カラビナを扱う際も問題はなかった。登山でも充分に使えるモデルだ。

レザー製品は使っているうちにしなやかになる。モンベルの「ウインターレザーグローブ」がその代表例で、作りのよさから徐々に手指になじみ、使いやすくなっていった。「テムレス02ウィンター」は防水性が高い一方で、ライナーがないことなどから保温性や防風性が低かった。極度の低温でない環境で長時間雪に触れる活動(雪洞を掘るなど)には向くと思う。細かい操作は可だが、回転する物を扱う使用は控えてほしいとメーカーは注意喚起している。ロープ操作中は巻き込まれる危険があると知っておきたい。

山と溪谷2022年12月号より転載)

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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