使いやすいアックス(ピッケル)はどれだ? 雪山登山装備テスト&レポート③

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山岳ガイド2人がひと冬かけて雪山登山装備をテストした『山と溪谷』2022年12月号の記事から、アックス(ピッケル)のレビューをご紹介。アックスを選ぶ際にどんな点に注目すべきか、そして人気モデルの使用感をチェックする。

監修=久野弘龍(厳冬期登山靴・クランポン)、笹倉孝昭(アックス・グローブ)、文=池田菜津美、写真=加戸昭太郎

テスター笹倉孝昭さん
テスター 笹倉孝昭さん
ささくら・たかあき/日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージ2。国立登山研修所講師。ガイド業はもとより、オンライン講習などで登山の知識や技術の普及にも努める。著書に『アルパインクライミング教本』(山と溪谷社)など。

アックス選びで重視したいこと

注目したいのはアックスの振りやすさだ。シャフトの長さや重さ、ヘッドの大きさや重さだけでなく、それらのバランスが少し異なるだけで変わる。シャフトの長さは、バリエーションルートだと腕くらい(私の場合は50~52cm)がよいが、赤岳登頂などのマウンテニアリングでは55~60cmが使いやすい。(笹倉)

テストの方法

八ヶ岳・赤岳や大山(だいせん)など、雪山を登頂しながらテストした。コンディションで差が出ないよう数回使用し、乾いた雪から湿った雪、硬い雪など、さまざまな雪質で試した。

今回テストしたアックスはマウンテニアリング用なので、用途に応じたテストを行なった。マウンテニアリングでは、ヘッドを握ってスパイク(石突き)を雪面に刺し、杖のようにして使う場面が多く、ヘッドの握りやすさは重要だ。握り方はセルフアレストグリップとセルフビレイグリップの2パターンを確認した。前者はピックを後方に、後者はピックを前方に向けて握る方法だ。登りや下り、斜面の向きなどで、たびたび持ち替えるため、握り替えのしやすさもチェックポイントとした。

シャフトの握りやすさは主にダガーポジション(ヘッドからシャフト上部を持つ方法)で試した。マウンテニアリング用では積極的には使わないが、トラクションポジション(シャフト下部を握ってヘッドを振る方法)もチェックし、アックスの振りやすさを確認している。ピックを使ったときの安定感は、角度や刻みの形状、材質などに左右される。

トラクションポジション。ポンメル付きは力を加えやすい
トラクションポジション。ポンメル付きは力を加えやすい
セルフビレイグリップ。ヘッドの握りやすさは重要だ
セルフビレイグリップ。ヘッドの握りやすさは重要だ

テストした項目

  • ヘッドの握り/各グリップで確認
  • シャフトの握り/ダガーポジションで確認
  • 振りやすさ/トラクションポジションで確認
  • ピックの安定感/貫通力や保持力
  • 使いやすさ/全体的なバランスや総合力

※継続販売中の商品については価格を2023年12月現在のものに更新し、後続モデルがあるものは商品名と価格をレビューの文末に記載しました

ブラックダイヤモンド レイブン (左)

ピックとアッズの形状を改良し、打ち込みやすさと作業性が向上。鋭利さを増したスパイクは凍結面にも確実に打ち込める。シャフトが台形断面になり、より握りやすくなった。

価格:15,510円(税込) 重量:428g(55cm) サイズ:55、60、65、70、75、80、90cm

ヘッドの握り ★★★★★
シャフトの握り ★★☆☆☆
振りやすさ ★★☆☆☆
ピックの安定感 ★★☆☆☆
使いやすさ ★★★☆☆
ヘッドの握りやすさは秀逸。セルフアレスト、セルフビレイのいずれでも持ちやすく、持ち替えもスムーズ。シャフトを握って操作する場面を想定しないモデルだが、想定範囲内では充分な握りやすさを備えている。ヘッドも同様で、振ったときのバランスがよい。歩行技術の範囲で行動する登山であればこのモデルで充分。
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ブラックダイヤモンド スウィフト (中央)

堅牢なピック、高剛性のシャフトを兼ね備えていて、ビレイやレスキューなど、過酷な用途にも対応。フリックロックポンメルを調整し、握りの位置を変えられるのが便利。

価格:31,130円(税込) 重量:485g(50cm) サイズ:50、57、64cm

ヘッドの握り ★★★★★
シャフトの握り ★★★★★
振りやすさ ★★★★★
ピックの安定感 ★★★★★
使いやすさ ★★★★★
バリエーションルートにも使える強度とバランスを備えたモデル。セルフアレスト、セルフビレイのいずれも持ちやすく、持ち替えやすい。シャフトの断面が台形のような形状で握りやすい。ヘッドの重さやアッズの形状がよく、硬い雪面をカットするときも使いやすい。ピックの角度や刻みの形状が刺さりやすく、保持しやすい。
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グリベル エアーテックエヴォリューションT (右)

シャフトの側面に溝があり、強度をより高めている。シャフトは肉厚のT(テクニカル)バージョン。シャフトの曲がりにも強い。製品保証書の代用になるヘッドカバー付き。

重量:480g(53cm) サイズ:48、53、58、66cm

ヘッドの握り ★★★★☆
シャフトの握り ★★★★★
振りやすさ ★★★★★
ピックの安定感 ★★★★★
使いやすさ ★★★★★
セルフアレスト、セルフビレイともに持ちやすく、握り替えもスムーズ。シャフトの側面の溝も握りやすさに貢献。シャフトとヘッドの重量バランスがよく、ヘッドに力が伝わりやすい。アッズの形状がよいのでカッティングしやすい。積雪期の赤岳(文三郎道、地蔵尾根)など雪山上級ルートでの使用を想定すると、このモデルが最もしっくりきた。
※23-24年シーズンはデザインを新しくした「エアーテックEVO」(価格:31,150円・税込 重量:490g〈53cm〉サイズ:48、53、58、66cm)が発売中
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カンプ アルピナ (左)

ピックとヘッド部分にクロモリスチールを、シャフト部分にアルミニウムを使用したオーソドックスな形状のアイスアックス。テクニカルアルピナリーシュ付き。

価格:30,800円(税込)重量:500g(50cm) サイズ:50、57、65、73cm

ヘッドの握り ★★★★☆
シャフトの握り ★★★☆☆
振りやすさ ★★★☆☆
ピックの安定感 ★★★★☆
使いやすさ ★★★★☆
全体的にバランスが整っていて、使いやすいモデル。セルフアレスト、セルフビレイともに持ちやすく、持ち替えもスムーズ。シャフトのグリップエンドの滑り止め素材が、使っていると剥がれてきたのが気になった。振りのバランスは悪くないし、カッティングもしやすい。ピックの貫通力や刺さったあとの保持力もよかった。
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ブルーアイス ブルーバード (中央)

2019年にリニューアル。ステンレススチールのヘッドとアルミニウムシャフトで強靱かつ軽量。取り外し可能な可動式のポンメルで、簡単に握りの位置を調整できる。

価格:30,800円(税込) 重量:363g(45cm) サイズ:45、49、54、60cm

ヘッドの握り ★☆☆☆☆
シャフトの握り ★★★☆☆
振りやすさ ★★☆☆☆
ピックの安定感 ★★★☆☆
使いやすさ ★★★☆☆
テストしたモデルのなかでは最軽量だがヘッドが軽く、重さを利用したスイングは難しいと感じた。可動式のポンメルを使って、グリップを固定できるのはよい。ヘッドの形状がやや握りにくい。ピックの位置がシャフトとほぼ直角で、指をかけにくい。その上部に少し出っ張った部分があり、これもグリップしづらくしている。
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モンベル スノーリッジ (右)

ヘッドとスパイクは強靭なクロムモリブデン鋼を、シャフト部分に軽量で高い強度を備えるアルミニウム合金を使用。軽量かつ高い耐久性を備えたアックス。

価格:14,960円(税込) 重量:442g(50cm) サイズ:50、55、60cm

ヘッドの握り ★★☆☆☆
シャフトの握り ★★★☆☆
振りやすさ ★★☆☆☆
ピックの安定感 ★★☆☆☆
使いやすさ ★★☆☆☆
アッズとシャフトの位置、ピック付け根の形状などから、ヘッドはやや握りにくかった。全体的に軽量だがヘッドも軽く、他のアックスと比較すると振りにくく感じた。アッズは形状と素材のせいかカッティングしづらい。ピックの貫通力はやや悪いが、積極的に使わない想定なら問題なし。歩き主体の雪山なら軽さが生きる。
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テストを終えて……

似たような形であっても、ヘッドやシャフトの重さ、そのバランスなどで、使いやすさはずいぶん異なると感じた。握りやすさに関しても同様で、ブラックダイヤモンドの「スウィフト」はシャフトの断面が台形のような形状で握りやすく、グリベルの「エアーテックエヴォリューションT」は断面でみると中央がくぼんでいて握り込みやすい。こうした細かい仕様ひとつで、使いやすさが左右されると感じた。

今回テストした製品の中では、グリベルの「エアーテックエヴォリューションT」が各パーツの素材や形状、それらを統合したときのバランスなど、総合的に見て完成度の高いモデルだと感じた。ロングセラーモデルで山でよく見かけると思っていたが、使ってみてよさを実感した。

どんな道具にも言えるが、近年の軽量化を追求する流れは本来の機能を失う恐れがある。特にアックスは、ヘッドが軽いと重さを利用したスイングが難しくなるため、ある程度重量があったほうが扱いやすい。作り手も購入する人も「何に使う」「どこで使う」が見えていることが重要だと改めて感じた。

雪山ギア用語集

雪山ギア用語集画像

アッズ
ピックと反対側にあり、上から見ると角張った扇形をしている。雪や氷を削るのに使う。

ピック
ヘッドの先端にあり、鋭利な形状。雪面や氷に刺して使う。

シャフト
柄の部分。まっすぐなものは歩行中心のマウンテニアリング向き、カーブしたものはアックスを振りピックを雪面に刺して使うのに向いている。

ポンメル
シャフトを握って振るときに、指をかけて使う。可動式のものが多い。

スパイク
石突き、スピッツェとも呼ばれる。歩行するときに雪面に刺して使う。

山と溪谷2022年12月号より転載)

徹底研究!雪山登山装備

雪山登山には専用の装備が不可欠。登山靴、アイゼン、ピッケルといった雪上歩行のための用具から雪崩対策ギア、テント泊装備まで、雪山で使用する装備を紹介します。

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