東京湾の大パノラマと古刹の石仏を眺める房総・鋸山ハイキング

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山頂付近までロープウェイを利用でき、切り立った石切場跡の岩壁など観光地としてもよく知られている房総・鋸山。東京湾に面しているため、三浦半島や伊豆半島、富士山の大パノラマを楽しむことができる。

写真・文=伊藤哲哉、カバー写真=地獄のぞき付近から、港町と遠くに富士山の眺め

鋸(のこぎり)山は、清澄(きよすみ)山、鹿野(かのう)山とともに千葉を代表する山の一つである。房州石の石切場跡、地獄のぞき、東京湾を望む展望台からの大パノラマのほか、1300年前に開かれた名刹の日本寺(にほんじ)には百尺(ひゃくしゃく)観音、露座の大仏、千五百羅漢(せんごひゃくらかん)があり、見どころが多い。

浜金谷側からの鋸山。石切場跡の岩壁がそそり立つ
浜金谷側からの鋸山。石切場跡の岩壁がそそり立つ

2021(令和3)年7月、「天空の岩山が生んだ信仰と産業 房州石の山・名勝地鋸山は自然と歴史のミュージアム」をコンセプトに、鋸山を舞台に華開いた歴史や文化芸術が、日本遺産の候補地域に認定された。

今回はロープウェイを使わずに、浜金谷(はまかなや)側からの、房総の自然が豊富に残されている観月(かんげつ)台コースを登って山頂に向かい、表参道へと下るコースを紹介しよう。

JR内房線浜金谷駅前から関東ふれあいの道の標識に従って鋸山に向かう。金谷川を渡り、内房線の天王川ガードという橋梁をくぐる。道標が設けられた登山口から、樹林の小尾根に整備された石段を登っていく。海岸に近いため、時折、潮の香りを感じられる。コース途中の樹間からは浜金谷港や遠くに富士山を見渡せる。階段の急登が終わると観月台に到着する。

登山口から20分ほどの観月台。内房の海や山並みの眺めがすばらしい
登山口から20分ほどの観月台。内房の海や山並みの眺めがすばらしい

小休止した後、正面に鋸歯状の山容を眺めながら、石段を下って、再び登る。観月台分岐で車力(しゃりき)道方面に折れ、石切場跡へ。途中、下からスリリングな地獄のぞきが見える。

地獄のぞきを仰ぎ見る。垂直に削られた岩壁のスケールに圧倒される
地獄のぞきを仰ぎ見る。垂直に削られた岩壁のスケールに圧倒される
立体的に切り出された石切場跡
立体的に切り出された石切場跡

車力道と合流して、東京湾を望む展望台に向かう。展望台からは東京湾の大パノラマを堪能でき、空気が澄んだ冬には富士山や南アルプスの白峰三山までもはっきり眺められる。さらに展望台から山頂までは往復1時間ほどなので、山頂に向かおう。三角点のある山頂からも、東京湾をはじめとする展望が眺められる。

鋸山山頂。房総では珍しく、この日は雪が積もった
鋸山山頂。房総では珍しく、この日は雪が積もった

山頂からはもと来た道を観月台分岐に戻り、樹林の密度が濃い道を登っていくと、日本寺の北口管理所に出合う。鋸山の山頂部は日本寺の境内になっているため、北口管理所で拝観料を支払って進んでいく。すぐに、完成までに6年の歳月を費やされたという巨大な百尺観音が現われ、さらにまっすぐ進むと稜線に出る。

北口管理所近くにある百尺観音。圧巻のスケール
北口管理所近くにある百尺観音。圧巻のスケール

稜線を右に折れると十州一覧(じゅっしゅういちらん)台やロープウェイ山頂駅方面となるが、ここは左へ向かい、整備された石段を進むと地獄のぞきに着く。地獄のぞきは足元が切れ落ちた展望台で、スリリングな高度感を満喫できる。空気が澄んでいれば、ここからも遠く富士山や三浦半島を眺望できるほか、富(とみ)山、伊予(いよ)ヶ岳など房総の山々も視界に入ってくる。

眺望を充分に満喫したら、保田(ほた)方面に下る。はじめに洞窟に安置された千五百羅漢を拝観しよう。さまざまな尊像の姿は実に興味深い。

千五百羅漢の石仏。一つとして同じ顔がない
千五百羅漢の石仏。一つとして同じ顔がない

広々とした参道を進むと、やがて大仏の前に出る。約31mの高さの大仏は、大野甚五郎英令(じんごろうひでのり)らにより3年の歳月をかけて彫られ、1783(天明3)年に完成したもので、圧巻だ。大仏を後にして、頼朝蘇鉄(そてつ)や心字池、観音堂を見て表参道をゆっくり下る。車道に出て内房線手前の表参道入口を左に折れ、内房線に沿って保田駅へ向かう。

頼朝が植えたと伝えられる頼朝蘇鉄
頼朝が植えたと伝えられる頼朝蘇鉄

鋸山は、ファミリー層やシニア層も安心して歩けるが、トレッキングポールがあると便利だ。なお、本コースのほかにも房州石の運搬道を整備した車力道コースがあり、各所に道標が設置されているので、迷う心配はない。※裏鋸コース、沢コースは2024年1月現在、利用できない。

MAP&DATA

 
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参考コースタイム

浜金谷駅~観月台コース~分岐~東京湾を望む展望台~鋸山~地獄のぞき~東口管理所~保田駅:約4時間35分

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プロフィール

伊藤哲哉(いとう・てつや)

1969年、神奈川県生まれ、千葉県在住。北アルプス・南アルプス、房総の低山、上信越の山などを主なフィールドに撮影に通う。山岳雑誌に写真と記事を提供し、山と溪谷社から共著で『分県登山ガイド 千葉県の山』、『アルペンガイド 南アルプス』を出版。2020年12月、2021年4月に写真展「SEASONS~北岳~」、2023年6月に写真展「夏山讃歌~南アルプスの歌声」を開催。日本写真家協会(JPS)、日本山岳写真協会会員。

ウェブサイト:https://tetsuyaito.jimdofree.com/

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