登山道が雪に覆われる雪山。さて、どう登る?
雪山登山の技術、装備、初級〜中級者におすすめの雪山ルートを一冊にまとめた書籍『入門とガイド 雪山登山 改訂版』から、雪山登山のアウトラインについての解説を抜粋。夏山とはまったく異なる雪山登山のイメージを膨らませよう。
文・写真=野村 仁
森林限界
樹林帯の長いラッセルを終え、森林限界直下まで来ると山の雰囲気は一変し、あらゆるものが凍りついて厳粛な氷雪の装いを見せている。
森林限界から上部に出る前に装備・ウェアを再確認し、バラクラバとフードをかぶり、アウター上下で防寒・防風を完全にする。アイゼンを装着し、基本的にピッケルに持ち替える。使用する場合はヘルメット、登攀用具もここで装着する。森林限界上でトレッキングポールを使い続ける人も多いが、ポールは滑落を止められない用具であることは指摘しておきたい。
森林限界からルートがどれだけ離れるかは重要だ。森林限界から短い距離で登頂できるルートならエスケープしやすいが、ずっと縦走を続けるルートはエスケープが困難であることを意識しておかなくてはならない。
稜線
森林限界より上部では、最も滑落の危険性が少ない場所である稜線上にルートが選ばれることが多い。
雪山ルート上では、稜線を交差する向きに強風が吹く。風上側の雪は飛ばされて風下側に吹き寄せられ、ところどころに深い吹き溜まりをつくっている。稜線の風上側は強風帯で、積雪は少なく氷化(クラスト)している。アイゼンはおおむねよく刺さるが、爪が立たないほどの硬い氷に出くわしたり、氷雪がほとんどなくガリガリと岩をかんで歩くこともある。氷雪上では滑落の危険があり、岩場ではアイゼンの爪を引っかけて転倒したり、足をくじいて負傷する危険もある。
風下側は危険の度合いがより大きい。非対称山稜の風下側はたいてい急ながけになっている。雪が吹き溜まって安定しているように見える場所でも、雪庇との位置関係や雪崩の発生を常に警戒しなくてはならない。
雪山の稜線ではおもに風上側に寄ったラインを歩き、時々風下側に回り込んでは、ふたたび風上側に戻るというルートのとり方をする。強風が吹いている稜線では、晴れていてもアウターを着込んで完全装備のウェアで臨む。そして、行動中に汗をかかないようなペースを維持しながら進む。風下側に回り込んで風が弱まれば休憩のチャンスだが、風上側での休憩は、体力を消耗するのでやめたほうがよい。
岩場
高山の稜線上では強風で雪が飛ばされているため、積雪はかなり少ない。薄い氷雪にガレが混じって凍結しているのが、稜線では一般的な状況で、アイゼンがよくきいて歩きやすい。そのなかで急峻な岩峰や岩壁が立ち塞がると、困難で危険な障害となる。
アイゼンがよく刺さる氷雪は足元が安定し、最高のフットホールドといえる。岩場やガレ場でも一部分に安定した氷雪があるなら、アイゼンでそこを選んで歩くのが楽で安全だ。また、小さめの岩礫が斜面に溜まったガレは適度に凍りついているため、これもアイゼンがよくきいて安定した足場になる。岩場でもこのような安定した場所にアイゼンをきかせて、ピッケルで支持しながら歩くとよい。
傾斜が急な岩場になると雪の足場は得にくく、アイゼンで岩のホールド(小さな足場)に立って登り下りしなくてはならない。アイゼンは本来氷雪を歩く用具なので岩場は歩きにくいが、わずかに張り付いた氷雪でも滑落の危険があるため、雪が少なくてもアイゼンを外すわけにはいかない。
アイゼンで岩に立つには、岩登りの基本フォームを守る。
①正対姿勢が基本
壁に対して正面を向く「正対姿勢」が、登山靴で岩を登る基本である。
②前爪で立つか、靴底全体で立つ
数センチ単位の小さいホールドには前爪2本を乗せ、靴底を水平にして立つ。ホールドが大きく靴底の広い面が乗る場合には、靴底で乗って真上から静かに荷重して立つ。
③岩の形を利用する
上に突き出した岩角は、アイゼンの両側面の爪で挟み込むように立つことができる。岩に靴幅ほどの隙間があれば、そこへ靴全体を挟み込んで立てる場合もある。岩を見てすばやく判断を下し、安全な足場をどんどん選んでいくのが岩場の歩き方だ。
難しい岩場では、初級者へのバックアップや、ロープを使い確保することも必要になる。本書で解説している雪上確保も参照のうえ、安全に岩場を歩ける技術を身につけてほしい。
プロフィール
野村仁(のむら・ひとし)
山岳ライター。1954年秋田県生まれ。雑誌『山と溪谷』で「アクシデント」のページを毎号担当。また、丹沢、奥多摩などの人気登山エリアの遭難発生地点をマップに落とし込んだ企画を手がけるなど、山岳遭難の定点観測を続けている。
雪山登山入門
雪山登山には、厳しくも美しい山々の表情に出合えるだけでなく、夏山とはまったく違う面白さがある。しかし、氷雪や天候に由来するリスクも多いため、確実な技術と充分な体力が必要だ。
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