アイゼンをつけないときはどう歩く? 雪山を登山靴だけで歩く際のポイント
アイゼンは雪山登山の必須装備だが、常時装着しているわけではない。雪山登山の技術、装備、初級〜中級者におすすめの雪山ルートを一冊にまとめた書籍『入門とガイド 雪山登山 改訂版』から、雪上を登山靴で歩くためのポイントを紹介する。
文=野村 仁、イラスト=江﨑善晴、イメージ写真=PIXTA
雪上を登山靴で歩く
雪上を歩くバランス
登山靴で雪の上を歩くと、リラックスしたよい姿勢で歩ける人と、腰が引けて今にも転びそうな人がいる。単純に歩くだけだが、そこには技術の違いがある。
硬い雪は滑り、軟らかい雪は崩れるものだ。雪上を歩くときは、滑ったり崩れたりすることに注意しながら歩く。歩き方自体は無雪期と同じだが、足場が不安定なので丁寧に行なわれる必要がある。要点は次のとおり。
- 歩幅を狭くして踏み出す。
- 靴底全体が雪面につくようにして、雪面との摩擦力を生かす。
- 踏み出した前足に、真上から体重を乗せて荷重する。
- 荷重方向が前後左右にぶれないように、まっすぐ立ち上がる。
- そのとき後足で蹴り上げないようにし、前足だけで立ち上がる。
これは「静荷重・静移動」と呼ばれている山の歩き方である。この歩き方は滑りにくいと同時に、足場が崩れてグラッときたときでも、すぐにバランスを立て直してリカバリーしやすい。
このように雪上をバランスよく歩く方法は、技術としては説明しにくいが、何回となく雪を歩くことで感覚として身についてゆく。
雪上でスリップを防いで歩けることは、次のキックステップやアイゼン歩行の基礎として重要である。
キックステップ
緩やかな斜面では、靴底をフラット(斜面に対して平行)に置いて歩くことができる。この歩き方ができないほどの傾斜になったら、雪面に靴を食い込ませてステップを作りながら登下降する。これがキックステップである。
キックステップ(登り)
登りは、踏み出す前足の位置につま先を蹴り込んで、靴ひとつ分のステップを作る。そこに静荷重で乗り、静かに立ち上がる。
キックステップ(下り)
下りは、踏み出す前足の位置にかかとを蹴り下ろして、靴が乗るステップを作る。下りの場合は蹴り下ろしと同時に体重移動する。
キックステップ(トラバース)
トラバースは、山側の足を斜面に対して斜めに蹴り込んでステップを作る。谷側の足はかかとを蹴り下ろすかつま先を蹴り込むか、どちらかの方法でステップを作る。
キックステップは、登山靴での雪上歩行に、ステップを作る動作が加わったものだ。蹴り込みの動作がめだつが、雪上に脚一本でバランスよく立てることが、とても重要な技術である。
プロフィール
野村仁(のむら・ひとし)
山岳ライター。1954年秋田県生まれ。雑誌『山と溪谷』で「アクシデント」のページを毎号担当。また、丹沢、奥多摩などの人気登山エリアの遭難発生地点をマップに落とし込んだ企画を手がけるなど、山岳遭難の定点観測を続けている。
雪山登山入門
雪山登山には、厳しくも美しい山々の表情に出合えるだけでなく、夏山とはまったく違う面白さがある。しかし、氷雪や天候に由来するリスクも多いため、確実な技術と充分な体力が必要だ。