白毛門・松ノ木沢ノ頭に登り、谷川岳一ノ倉沢の大岩壁を望む

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湯桧曽(ゆびそ)川を挟んで谷川岳の向かいにある白毛門(しらがもん)。谷川岳馬蹄形縦走の起点でもある白毛門は、一ノ倉沢の大岩壁を見渡す絶好の展望台となります。

文・写真=奥谷 晶

谷川岳ベースプラザから歩き出し、車道沿いに土合駅に向かって下り、雪に埋もれた白毛門登山口駐車場から東黒沢に架かる橋を渡って登山道に入ります。

東黒沢にかかる鉄橋をわたる、雪で埋まっていることも多い
東黒沢にかかる鉄橋を渡る。雪で埋まっていることも多い

すぐに樹林帯の中の急登が始まります。前日に降った雪もあって、積雪は膝下程度。先行者2人ほどのつぼ足のトレースがありましたが、アイゼンとトレッキングポールで進みます。気温は比較的高く、雪は上越特有の湿雪で足取りは重く、踏み抜きもあって体力を消耗させられます。

樹林帯の登り。積雪量は少ない
樹林帯の登り。積雪量は少ない

樹林帯の急斜面では積雪も少なく、木の根がむき出しになっていて、滑りやすく足を引っかけやすいので用心しなければなりません。尾根に出てからも、ずっと急登が続いていきます。右側が切り立った崖になっていて、雪庇が出ていることも多く、注意を怠れません。

尾根の右側に出ることが多い雪庇に注意
尾根の右側に出ることが多い雪庇に注意

登り一辺倒ですが、しだいに樹林がまばらになってきて、やがて開けた稜線に出ると、松ノ木沢ノ頭です。ここは対岸の谷川岳東面を正面から見渡すことができるピークになっています。この日はあいにく薄曇りで日差しがありません。晴天の日の午前中であれば、朝陽に白く輝く一ノ倉沢の大岩壁が峻厳とそびえ立つのを見てとることができます。雪崩のデブリや雪面の割れ目がはっきりと見られ、人を寄せ付けない厳しい姿を見せています。

松ノ木沢ノ頭より見る谷川岳東面の大岩壁
松ノ木沢ノ頭より見る谷川岳東面の大岩壁
雪崩の跡や亀裂が見える一ノ倉沢
雪崩の跡や亀裂が見える一ノ倉沢

松ノ木沢ノ頭からは白毛門山頂へ向かって続く雪稜が一望の下です。張り出した雪庇や雪面の亀裂、山頂直下の岩場の状態などをよく観察することができます。すでに午後になっていて、本日はここで打ち止めです。

白毛門山頂へ続く雪稜
白毛門山頂へ続く雪稜

帰路は往路を戻りますが、雪庇や踏み抜き、雪に隠れた木の根など、慎重に行動する必要があります。足の調子も悪いので、急斜面では躊躇なくバックステップを多用して慎重に下りました。

MAP&DATA

ヤマタイムで周辺の地図を見る

参考コースタイム:谷川岳ベースプラザ~土合橋~松ノ木沢の頭~白毛門・往復9時間30分

※雪の状態によってはラッセルを強いられ、撤退を余儀なくされることも多く、充分な体力と雪山登山技術が不可欠なコースです。

この記事に登場する山

群馬県 / 越後山脈 谷川連峰

白毛門 標高 1,720m

 土合駅の北にそびえる、白毛門から朝日岳へと続く稜線のうち、特に白毛門から笠ヶ岳(1852m)にかけては、日本の代表的岩場であるマチガ沢、一ノ倉沢、幽ノ沢など谷川岳東面の岩壁群を見渡す格好の展望台である。  湯桧曽川を隔てたこれらの大岩壁の眺望を期待するなら、できるだけ早朝に登り出すのがよい。東に向けて開けた岩壁に、朝日が輝く瞬間が最もすばらしい眺めだからだ。午後になるとせっかくの眺望も逆光になる。  樹林帯の急登から、ようやく8合目にあたる松ノ木沢ノ頭(1484m)に出ると、すばらしい眺めが始まる。冬季、ここから東側に見える2つの岩塔(ジジ岩・ババ岩)が、ちょうど門のように見えるのが山名の起こりという。  白毛門までが日帰りには適当で、笠ヶ岳まで足を延ばすと多少強行軍で、充分な装備や水の携行が必要。土合駅から所要3時間30分。

群馬県 新潟県 / 越後山脈

谷川岳 標高 1,977m

 谷川岳は「耳二ツ」といわれ、沼田市や月夜野町(つきよのまち 現・みなかみ町月夜野)方面から見ると、ちょうどネコの耳のような双耳峰に見えるので、手前をトマの耳、奥の高い方の峰をオキの耳と呼びならわしている。  トマの耳は古くから薬師岳とも呼ばれ、山頂には石造りの薬師瑠璃光如来が祭られていたという。一方、オキの耳には、富士山の浅間菩薩が地元の人たちに福を与えんとして降臨したとの伝説も残り、別名谷川富士と呼ばれる。  元来谷川岳は、谷川本谷の北方にそびえる俎嵓を指していたのだが、陸地測量部が誤って、薬師岳に谷川岳と名称をつけた。ジャーナリズムが遭難の起こるたびに「谷川岳」の文字を使用した結果、今日では1963m峰(トマの耳)が谷川岳ということに定着したという。  昭和6年(1931)9月、上越線が開通した翌月、土樽(つちたる)側の万太郎谷で東京の一青年が疲労凍死し、登山者による遭難第1号となった。  谷川連峰の特異性については、次のような点が考えられる。  登山人口の多い首都圏に近くて交通の便がよく、アプローチが短いので、すぐに山に取り付ける。スポーツ登山や大衆登山の普及と相まって、絶好の登山地となった。  日本列島脊梁地の一部として、この山域の局地気象の複雑さは特異ともいえる。東京と清水峠の気温の差は、夏でも9~10度あり、加えて強風、豪雪、雪崩、濃霧といった悪条件が重なる。  標高は2000m内外であるが、峻険な岩壁を有し、高山性を帯びた山々である。地質も複雑で階層状をなし、多様な岩石が分布し、それが地形や植物分布に大きな影響を与えている。例えば、豪雪との関連もあるが、針葉樹林帯がほとんど見られない。  昭和42年(1967)から、群馬県の谷川岳遭難防止条例により、危険地区への入山の届出制や冬山の一時的登山自粛または禁止など規制が行われている。また、毎年融雪期にあたる3月末から5月中旬にかけては、気温上昇による雪崩の発生が予想されるため、危険地区の登山を禁止している。  昭和13年(1938)7月1日、スポーツ登山としての第1回山開きが行われた。西黒沢からガレ沢(当時の主要コース)をつめて尾根に登り、ザンゲ岩から山頂に出た。以後7月の第1日曜日は「安全登山の日」として、現在も山開きの日になっている。  ロープウェイを利用する天神平コースが所要2時間30分。厳剛新道コースは土合駅から4時間40分。西黒尾根コースは土合駅から4時間30分でそれぞれ山頂へ。

プロフィール

奥谷晶

30代から40代にかけてアルパイン中心の社会人山岳会で本格的登山を学び、山と溪谷社などの山岳ガイドブックの装丁や地図製作にたずさわるとともに、しばらく遠ざかっていた本格的登山を60代から再開。青春時代に残した課題、剱岳源次郎尾根登攀・長治郎谷下降など広い分野で主にソロでの登山活動を続けている。2013年から2019年、週刊ヤマケイの表紙写真などを担当。2019年日本山岳写真協会公募展入選。現在、日本山岳写真協会会員。

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