オオカミライター、中学生オオカミ博士に挑戦!絶滅種の剥製をめぐる冒険
6月16日まで国立科学博物館で開催中の特別展「大哺乳類展3」で公開されているニホンオオカミの剥製は、人知れず収蔵庫にひっそりと眠っていたものだった。絶滅動物を追うライターが、剥製標本を「再発見」した中学生のオオカミ博士に挑戦する。
写真・文=宗像 充
まぼろしのニホンオオカミ
ところで、ニホンカワウソと九州のツキノワグマについて、環境省は2012年に哺乳類では初めてレッドリストで「絶滅」に区分けした。生息情報がチラホラ寄せられるので、ぼくはこの認定はフライングだと思っている。しかし情報が少ないのは確かで、1905年に奈良県東吉野村で捕獲されたものが最後の確認個体とされ、一度も生息調査のなされていないニホンオオカミについてはなおさらだ。
したがって、国内外問わず、ほかの動物と比べて標本数が少ない。だから「ニホンオオカミとはなにか」がいまだに議論になる。
最近になって丹沢周辺でニホンオオカミの頭骨が発見されたように発見は続いていて、情報の収集はその論争の行方を左右するものとして、研究者やファンの注目を集める。新しい本剥製の発見は多くの情報を今日もたらしてくれるからだ。
ニホンオオカミとはなにか?
日菜子さんが「一番近い」と指摘したライデンの剥製とは、オランダにあるタイプ標本のことだ。タイプ標本とは、分類学において形態上の特徴で、その動物かどうか判別する基準となる剥製だ。実際には、この標本と特徴があてはまるものが「ニホンオオカミ」になる。
「ストップ(額段)がない、足が短い、背中に黒毛があるのがタイプ標本と共通しています」(日菜子さん)
ところが、このタイプ標本は国内にある標本個体に比べて極端に小さく、交雑種あるいは、ヤマイヌというもう一つの種ではないか、という議論が長年続いてきた。DNA調査が近年行なわれ、この個体がイヌと、ニホンオオカミに共通するDNAをもつ個体群との交雑個体だったことが明らかになっている。
「M831も狼児として記載されているのに、死んだときはヤマイヌになっている。呼称が海外の大型オオカミの知識が増えるとともに混乱しました」
しかし分類学では依然として、ライデンの標本の特徴を兼ね備えるものをニホンオオカミと呼ぶ。史資料からも、分類学上でもこの個体をニホンオオカミと呼ばない理由はない。
「動物園で実際に生きていたものを観察して剥製は作っている。しゃがんで足が短く見える。こういう姿勢で歩いていた」
本剥製は、ニホンオオカミの生きていた姿を今に伝える。間違いなく一級の発見にほかならない。
プロフィール
宗像 充(むなかた・みつる)
むなかた・みつる/ライター。1975年生まれ。高校、大学と山岳部で、沢登りから冬季クライミングまで国内各地の山を登る。登山雑誌で南アルプスを通るリニア中央新幹線の取材で訪問したのがきっかけで、縁あって長野県大鹿村に移住。田んぼをしながら執筆活動を続ける。近著に『ニホンカワウソは生きている』『絶滅してない! ぼくがまぼろしの動物を探す理由』(いずれも旬報社)、『共同親権』(社会評論社)などがある。
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