快眠のための必須アイテム。登山で使う寝袋の選び方

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寝袋はテント泊に欠かせない必需品。山中での夜、寒さを感じずにぐっすり眠るには、どんな寝袋を選べばいいのでしょう? 種類や必要な保温性の求め方など、寝袋選びのポイントを紹介します。

文=吉澤英晃、写真=福田 諭

目次

寝袋は寒さを防ぐ屋外用の布団

インド・ラダックのドムカル村での氷河湖ワークショップの様子

寝袋は、シュラフやスリーピングバッグとも呼ばれる寝具のひとつ。テント泊の必需品で、夜は寝袋にくるまって眠ります。

ですが、楽しみにしていたテント泊で、寒くてぐっすり眠れなかった・・・、なんてことになったらどうでしょう?

泊まりがけの山行では、疲れを翌日に持ち越さないためにも、しっかり眠ることが大切です。そして、屋外でも気持ちよく眠るには、充分な保温性をもつ寝袋が欠かせません。

形と中綿、対応温度で考える寝袋の選び方

一口に寝袋と言ってもいくつか種類があります。そして選び方では、寝袋の形、使われている中綿、対応温度がポイントになります。

ここからは寝袋の種類を見ていきながら、初めての寝袋におすすめのタイプを紹介します。

形はマミー型がおすすめ

マミー型はボディラインに沿った形をしているため、余分な重さが省かれている
マミー型はボディラインに沿った形をしているため、余分な重さが省かれている

寝袋にはいくつか形があり、近ごろ登山で使われる寝袋は、保温性と重量のバランスに優れる「マミー型」が主流です。マミー型は、形がエジプトのミイラに似ていることから、このようなユニークな名称で呼ばれるようになりました。初めての寝袋は、まずはマミー型で検討するのがおすすめです。

寝袋の形はマミー型以外に、長方形の「レクタングラー型」、軽量化のために背中側の生地を大胆にカットした「キルト型」、同じく重量を軽くするために、本来あるはずの上半身部分の中綿を省いた「半シュラフ」などもあります。

ロング、ショート、女性専用タイプもある

マミー型はボディラインに沿った形をしているため、余分な重さが省かれている
手前が女性用で、奥はユニセックス。共に同じ保温性をもっている

寝袋は同じ商品名でも、ロングやショート、女性専用タイプなどが用意されている場合があります。

横になったとき、足が伸ばせないとストレスに感じますし、逆に長すぎると余分な隙間ができてしまい、寝袋が本来もっている保温性を感じにくくなってしまいます。

寝袋で快眠を得るためには、自身の体型に合うサイズを選びましょう。

中綿は軽量コンパクトになるダウンが◎

奥がダウンシュラフで手前が化繊シュラフ。見た目はほとんど変わらない
奥がダウンシュラフで手前が化繊シュラフ。パッと見ると見た目はあまり変わらない

寝袋がもつ保温性の要ともいえる中綿は、ダウンと化繊綿に大別されます。

水鳥の羽毛であるダウンを使った寝袋は、同じ重量で比べたとき、化繊綿よりも保温性が高く、さらに圧縮すると小さく潰れるので、収納サイズがコンパクトになります。

一方、化繊綿を封入する寝袋は、保温性と収納性ではダウンシュラフに劣るものの、結露が発生するような湿潤な環境でも保温性をキープしやすいといわれており、手に取りやすいリーズナブルな値段も選ばれている理由です。

同じ保温性の寝袋で収納サイズを比べてみた。右がダウンシュラフで左が化繊シュラフ
同じ保温性の寝袋で収納サイズを比べてみた。左が化繊シュラフで右がダウンシュラフ

登山には化繊綿の寝袋も選ばれていますが、経験を積むに従い、きっとダウンを封入した寝袋の軽さと保温性のバランス、小さな収納サイズがうらやましく思えてくることでしょう。そのため、もし予算に余裕があるなら、初めからダウンシュラフを選んだほうが、満足して長く使い続けられるかもしれません。

時期で異なる寝袋に必要な保温性

寝袋には、一般的に対応温度が設定されていて、春から秋の季節に適した3シーズン用や寒さが厳しい雪山用など、さまざまな保温性をもつ製品が売られています。

では、実際の登山にはどれくらいの保温性をもつ寝袋を選べばいいのでしょうか?

ここからは、登山に必要な寝袋の保温性について説明していきます。

夏は一桁、秋は氷点下になることも

100mごとに−1℃で計算

たとえば、3000m級の山々が連なる日本アルプスでは、真夏の7〜8月でも最低気温は一桁まで下がります。紅葉の見頃を迎えるころには、さらに気温が低くなり、10月に入ると氷点下になることも珍しくありません。

そのため、春から秋にかけて登山を楽しむ場合は、だいたい0℃を基準に考えて、その前後の温度に対応する寝袋を選んでおくのが無難と言えます。

山の気温の求め方

山の気温は、単純な法則で簡単に求めることが可能です。それが、気温は標高が100m上がるごとに0.6~1.0℃ずつ下がるというもの。この法則さえ覚えておけば、麓の最低気温と、テント泊予定地までの標高差から、おおよその山の最低気温を予想できます。

標高が100m上昇=気温が0.6~1.0℃低下
例:2023年8月、松本市(標高約610m)の最低平均気温は22.4℃。この場合、同じ時期の涸沢(標高約2310m)の最低気温は、およそ5.4℃と計算できる(2310m−610m=標高差1700m。標高が100m上がるごとに−1℃で計算すると、22.4℃−17℃=5.4℃)

ヨーロピアンノームについて

COMFORT
(快適使用温度)
LIMIT
(下限温度)
EXTREME
成人女性が寒さを感じずに眠ることができる温度域 一般的な成人男性が丸まった姿勢で目覚めることなく8時間眠れる温度域 一般的な女性が6時間までなら耐えられるものの、低体温症や凍傷のリスクがあるとされている温度域
COMFORT
(快適温度)

成人女性が寒さを感じずに眠ることができる温度域

LIMIT
(下限温度)

一般的な成人男性が丸まった姿勢で目覚めることなく8時間眠れる温度域

EXTREME

一般的な女性が6時間までなら耐えられるものの、低体温症や凍傷のリスクがあるとされている温度域

近年、寝袋の保温性は、ヨーロッパ諸国における統一規格の総称である「ヨーロピアンノーム」で示されることが増えてきました。

ヨーロピアンノームでの対応温度の表記は「コンフォート(COMFORT)」「リミット(LIMIT)」「エクストリーム(EXTREME)」に分かれます。

コンフォート(快適使用温度とも)は、成人女性が寒さを感じずに眠ることができる温度域。リミット(下限温度とも)は、一般的な成人男性が丸まった姿勢で目覚めることなく8時間眠れる温度域です。女性は男性よりも寒さを感じやすいといわれているため、コンフォートの温度はリミットよりも高めに算出されています。そして、エクストリームは、一般的な女性が6時間までなら耐えられるものの、低体温症や凍傷のリスクがあるとされている温度域です。

寝袋を選ぶときは表示されている温度表記を確かめて、表示がヨーロピアンノームであるなら、女性はコンフォート、男性はリミットを参考に選びましょう。

3シーズン対応の定番の寝袋

[モンベル]
シームレスダウンハガー800 #3 【ダウン】

総合アウトドアブランド、モンベルがラインナップするダウンシュラフ。蜘蛛の糸のような繊維「スパイダーヤーン」を寝袋の内側に張り巡らせ、その繊維にダウンが絡みつくことで中綿の偏りを防ぐ「スパイダーバッフルシステム」で作られているため、熱の逃げ道となる縫い目が少なく、熱を溜め込む高い機密性をもつ。内側に使われている糸と生地に伸縮性があるため窮屈感が少なく、就寝時に体を動かしても寝苦しさを感じにくい。

価格 34,100円(税込)
中綿 800FP EXダウン
重量 555g
快適使用温度 4℃
下限温度 -1℃
詳細を見る
詳細を見る(ウィメンズ)

[モンベル]
シームレス バロウバッグ #3 【化繊】

モンベルが手掛ける、化繊綿を使った寝袋。中綿が2層構造になっていて、表側にシート状の化繊綿を使い、それを縫い目の少ない生地で覆うことで気密性を高め、内部に熱がこもりやすい設計で作られている。内側に使われている糸と生地に伸縮性があり、最大伸縮率は124%。寝袋自体が収縮して体に密着するため、余分な隙間がなくなり高い保温性を発揮する。

価格 16,500円(税込)
中綿 エクセロフト
重量 963g
快適使用温度 5℃
下限温度 0℃
詳細を見る

[イスカ]
アドライト480 【ダウン】

国内の寝袋ブランド、イスカの3シーズン対応の定番ダウンシュラフ。撥水加工を施したダウンを中綿に使うことで、湿潤な環境でも膨らみを保てるようになり、一定の保温性が持続する。ダウンを封入するチューブはボックス構造を採用し、ダウンの膨らみを生かしつつ縫い目からの熱損失を軽減。イスカは寝袋の保温性を独自のテストで算出しており、最低使用温度は−6℃。春から秋まで、日本アルプスの山々でも安心して眠れる保温性を備えている。

価格 44,550円(税込)
中綿 ダウン(750FP)
重量 870g
最低使用温度 -6℃
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[イスカ]
アルファライト 700X 【化繊】

最低使用温度−6℃の化繊綿シュラフ。シート状の化繊綿が斜めに重なる瓦葺き構造で作られていて、熱の放出や冷気の侵入が生じるコールドスポットが最小限に抑えられている。仰向けで寝たとき胸側が膨らむ立体構造でもあり、無駄な隙間を少なくし、高い保温効率を実現。冷えやすい足元には中綿を多く使い、シルエットを台形にすることで窮屈感が軽減されている。

価格 19,800円(税込)
中綿 マイクロライト(750FP)
重量 1,300g
最低使用温度 -6℃
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[ナンガ]
オーロラライト 450 DX 【ダウン】

ナンガは寝袋だけでなく、幅広いダウン製品をリリースするダウン専門の国内ブランド。オーロラライト 450 DXは、厳選したスペイン産のダックダウンを封入して高い保温性を確保しつつ、オリジナルの防水透湿素材「オーロラライト」を表地に使うことで、結露に触れることで起こるロフト低下が生じにくく湿潤な環境でも一定の保温性をキープする。ナンガの寝袋は、すべての製品がアフターケアの対象で、期限を設けずに修理に対応してくれる手厚いサービスも魅力だ。

価格 47,300円(税込)
中綿 ダウン(760FP)
重量 865g
最低使用温度 -5℃
詳細を見る

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プロフィール

吉澤 英晃

1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出合い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンとして約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。

はじめての登山装備。基礎知識と選び方

登山装備の基礎知識と選び方を、わかりやすく、やさしく解説します!

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