ルポ・飯豊連峰。テントを背負って夏の朳差岳へ

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日本海を見下ろす飯豊(いいで)連峰は、冬季には大量の雪が降り積もるとあって、夏まで雪渓が残る。温暖化のせいか残雪の量は減りつつあるというが、雪田を吹きわたる涼風を求めて、連峰の北端にそびえる朳差岳(えぶりさしだけ)をめざした。

文・写真=西村 健(山と溪谷オンライン)

梶川尾根の急登から門内岳へ

テント装備と2泊分の食料を入れたザックを肩に、駐車場を出発する。きょうの行程は1887mの門内岳(もんないだけ)まで、標高差1400mの登りだ。湯沢に架かる橋を渡り、ブナの原生林が広がる温身平(ぬくみだいら)の手前で梶川(かじかわ)尾根の末端に取り付く。いきなりの急登。ロープがかけられたスラブの岩場をはい上がる。寝不足の体が重いが、少しがまんして登り続けるうちに体が温まってきた。ペースがつかめてくると、もうこっちのものだ。2泊3日のテント泊とはいえ、軽量装備のおかげで、ザックもトータル16〜17kgくらいだし、なにより久しぶりの飯豊に気持ちがわくわくしている。ブナの森もきれいだ。夏休みシーズンなのに人は少ない。いい気分でどんどん高度を上げていくと、樹林が切れて湯沢峰に到着。すっかり汗まみれだ。

梶川尾根の急登から門内岳へ
登りだしでいきなり現われたスラブを登る
梶川尾根の急登から門内岳へ
梶川尾根の下部はブナの森を行く

咲き残る青いヤマアジサイ、タマガワホトトギスやミヤマコウゾリナの黄色の花、繊細なフジバカマ。登山道のかたわらに、夏の花と秋の花が混在して咲いている。眼下に梅花皮(かいらぎ)沢が見えてきた。深く深くえぐられたゴルジュに白く光る梅花皮大滝が見える。稜線を少し下って、五郎清水の水場でよく冷えた水を飲めるだけ飲み、さらにボトルに詰める。顔や首にまとわりつく汗も洗い流す。水が豊かな山ならではの爽快さだ。

ヨツバヒヨドリ
ヨツバヒヨドリは旅する蝶・アサギマダラが好むことで知られる
タマガワホトトギス
タマガワホトトギス
ゴルジュの中を流下する梅花皮大滝
ゴルジュの中を流下する梅花皮大滝

やがて樹林帯を抜けて、尾根道は背の低いササの中を行く。池塘のほとりにハクサンフウロやマツムシソウが揺れる。梶川峰を過ぎると、雪田のそばにチングルマやニッコウキスゲ、ヨツバシオガマなどの群落が広がっていた。人知れず咲く花たちも、ここでこうして夏を謳歌している。やがて登山道は扇ノ地紙(おうぎのじがみ)で主稜線に合流。胎内山(たいないやま)を越えて、門内(もんない)小屋に到着した。少しガスが出てきたこともあって、風も涼しい。「テント?受付はビールの後でいいよ」という管理人のおじさんの言葉に甘えて、まずはザックを下ろして、冷えたやつをぐっと飲み干す。汗に濡れた背中を吹き抜ける風が気持ちいい。

森林限界を越えるとマツムシソウが咲いていた
森林限界を越えるとマツムシソウが咲いていた
ニッコウキスゲ
尾根の上部に咲くニッコウキスゲ

門内小屋のテント場は、花に囲まれていた。到着が早かったせいか先客はおらず、好きなところを選び放題だ。担いできたテントはファイントラックのカミナドーム2。2人用だが重さは1.5kg以下で、1人でのびのびと使える広さ。室内でも荷物を広げ放題なのがうれしい。テントを張って、少し下った水場まで雪解け水を汲みに行く。その道すがらにも、ハクサンコザクラ、イワイチョウ、ウツボグサといった花がそこここに咲いている。

門内岳と門内小屋
門内岳と門内小屋
門内小屋のテントサイト
門内小屋のテントサイト
門内小屋のテント場の周辺にはお花畑が広がる
テント場の周辺にはお花畑が広がる

汲んだ水をテントに置いて、門内岳に登る。少しガスが切れ始めて、草原に午後の光が落ちている。通り抜ける雲の影。やがて雲がとれて、南に延びる稜線の向こうに北股岳(きたまただけ)や飯豊本山(いいでほんざん)が姿を現わした。そして日は西に、海へと沈んでいく。

門内岳の西面に広がる草原
門内岳の西面に広がる草原
飯豊連峰では、日本海に沈む夕日が見られる
飯豊連峰では、日本海に沈む夕日が見られる
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この記事に登場する山

新潟県 / 飯豊山地

朳差岳 標高 1,636m

 飯豊連峰北端の雄峰で、春耕のころ、山腹に現れる「杁差しの爺や」と呼ばれた残雪形が、荒川沿いの村々で農事暦として親しまれてきた。しかし飯豊山信仰とは無縁で、戦後まで登山道もなく、もっぱら大石、金俣の熊狩り猟師に活躍の場を与えるに過ぎなかった。  昭和25年の国立公園指定を機に、大石川西俣の大熊尾根登山道や、杁差岳から北股岳に至る連峰北部の縦走路が伐開されて登山者に注目され始め、同39年の新潟国体登山で、大石川の東俣コースが開かれたり、山上に避難小屋が建設されて以来、登山者が激増した。  登山道は前記のほかに胎内川の足ノ松尾根から大石山へ登ったり、頼母木山、地神山を越えて山形県の飯豊温泉に下山する周回コースもある。前杁差岳から本峰、鉾立峰にかけての頂稜は美しい草原で、高山植物も多彩。  大石から8時間30分で山頂へ。

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