クライミングロープも簡単に切れる、なぜなら…【動画あり】
3.ハンドアッセンダー(ユマール)によるロープの切断
フィックスロープに体を固定して、登攀する際に使うユマーリング技術。足元が悪いような怖い場所でも、ロープと自分が繋がっているという安心感がありますよね。
しかし、ハンドアッセンダー(ユマール)は、ロープを切断させる可能性もあります。実験でフィックスロープで使われるような、φ9mmのロープにハンドアッセンダーをセットして墜落させると、5kN程度からロープの外皮切断によるずり落ちと内芯露出が始まり、落下のエネルギー量が大きくなると、最終的にロープが全破断します。
Petzl社のような親切なメーカーですと、ハンドアッセンダーの取り扱い説明書等に「5kN~7kN程度でロープの外皮が破けて、ずり落ちる」という説明があったりします。私も実際に実験でロープが切断するのを見るまでは、外皮が破れて内芯が露出した後は、ずり落ちながら衝撃を緩和して止まり、全破断はしないと勝手に思い込んでいました。
クライミング用ロープとして一般的な、カーン・マントル構造のロープ(外皮と内芯に分かれた構造を持つロープ)は、外皮が岩角や器具との擦れに対応して、内芯が荷重に対応するという分業をしていることは、みなさんもご存じかと思います。外皮には別の重要な役割があります。「荷重を内芯1本1本に均等に分散させる」という役目です。「三本の矢」の話と同じです。十数本ある内芯の1本1本は100kgちょっとの耐荷重しかないのですが、これが荷重に対して、まさに「束になった状態で力が掛かる」ため、強い強度を得られるのです。しかし、外皮が破れてしまった後は、内芯1本1本への荷重配分がなされない。荷重が数本の内芯に偏って作用してしまい、数本ずつ順番に切れて行ってしまうという現象が起きます。
そうならないために、フィックスロープにハンドアッセンダーを使ってユマーリングする場合には、なるべくロープがゆるまないように注意しましょう。しかし、時おり現れる難所では「ハンドアッセンダーを上にずらしたいのはやまやまだけど、今は手を離せないの!」ということはよくありますよね。
フィックスロープは支点の間隔が広いことが多く、支点から遠い位置で落ちれば、ロープが良く伸びて墜落衝撃荷重は生じにくくなります。しかし、難所の直上には大抵、ロープを固定する支点があり、フィックスロープがゆるんだ状態で落ちると、ロープがあまり伸びずに衝撃荷重が大きくなり、切れやすくなります。また、野ざらしのフィックスロープの外皮は、紫外線と雪さらし効果でオゾンによる劣化が多い点にも注意が必要です。
ハンドアッセンダーを上にずらすことができない場合は、あらかじめハンドアッセンダーの上の穴にカラビナを掛けて体に接続し、上に引っ張ればロープを滑りあがってくるといった工夫が必要ですね。
以上、ロープの切断事例を3パターンほど見ていただきました。
完全な道具など存在しません。正しい使い方、配慮をして、ロープ切断のリスクを回避・予防しましょう。
プロフィール
特殊高所技術 山口宇玄(やまぐち たかはる)
北海道中札内村出身。高校時代では札幌中央勤労者山岳会、大学時代に群馬山岳連盟桐生山岳会に在籍。就職後、川崎勤労者山岳会を経て、現在は京都の株式会社特殊高所技術にて技術部長を務める。一方で、一般社団法人 特殊高所技術協会の監事・講師として、技術者へのロープを使った高所作業の講習を実施している。
■株式会社 特殊高所技術
http://www.tokusyu-kousyo.co.jp/
■一般社団法人 特殊高所技術協会
http://www.tkgs.or.jp/
■ブログ:特殊高所技術の広場
http://blog.livedoor.jp/rope_access_eng/
安全登山のヒントをロープの達人がご紹介!
バリエーションルートや難易度の高い登山では、高い水準のロープ技術が求められる場合がある。危険がつきものの上級者向けの登山を、少しでも安全に行うことはできないか。ロープワークのプロフェッショナル「特殊高所技術」山口氏から、安全登山のヒントを紹介していただこうと思う。