第一章 始まりの山|オーストラリア大陸最高峰・コジオスコのSEA TO SUMMIT 後編
今、一人の日本人冒険家がある挑戦を行なっている。プロジェクト名は「SEA TO SEVEN SUMMITS(シー・トゥ・セブン・サミッツ)」。七大陸最高峰を海から頂上まで人力で登頂するという挑戦だ。2023年4月、5つ目の頂であるデナリを登り、世界最高峰・エベレスト、南極大陸最高峰・ヴィンソン・マシフの2座を残すのみ。そんな挑戦を続ける冒険家・吉田智輝のSEA TO SEVEN SUMMITSへの旅路をたどる。今回はオーストラリア大陸最高峰・コジオスコでの初挑戦の後編。いよいよロードを抜けてコジオスコの山中へ入る。
文・写真=吉田智輝
「痛みに耐えて、よくがんばった」
オーストラリアの首都であるキャンベラと聞いて思い浮かぶ人物が一人いた。私がトロントに留学していたときに同じシェアハウスに住んでいたロハンナという友達だった。彼女はキャンベラで働いていたのだ。翌日、朝食の約束をしたカフェで、変わらぬ様子の彼女が座っていた。
「サト、なにやらおもしろいことをしてるじゃん!」
ロハンナは今回の旅についてあれこれ聞いてきた。
「メリンブラには毎年夏に家族旅行で訪れていたよ」
「え、ベンボカ・パイ食べたの?よくあのカフェでドライブの休憩とってたんだから!」
「ダルゲティーでカモノハシを見たの!?私も1回しか見たことないよ」
私が海から繋いできた場所の数々は、そのまま地元民・ロハンナの想い出の地のだったのだ。
「そうそう、ダルゲティーと言えばね。あの村、実はオーストラリアの首都の候補地として、ここキャンベラと競っていたの。信じられる?」 翌年から外交官見習いとしてカンボジアに赴任するという彼女は、さすが政治の話にも詳しい。なにより聞いていて気持ちのいい話しぶりだった。
ロハンナとのダイアログが、今回の旅をうまく締めくくってくれたように思えた。私は、気がつかないうちに、この地域の名物や文化、歴史をカラダ全体で感じていたようだ。
こんな経験がほかの大陸でもできたら、それはどんなにすばらしいことだろう! まずは1座目を、と思い挑戦を始めていた私は、このプロジェクトにコミットする決心を固めた。
シンディーにシドニーまで送ってもらい、ふと立ち寄ったホテルのバーでビールを頼む。遠征中はもとい、昨日もソファで寝落ちしてしまい、大好きなお酒にありつけていなかった。
店員から、足はどうしたのかと聞かれた。入店するとき、また“鬼の形相”だったのかもしれない。
彼がカウンターでビールを用意している間に、これまでの旅路を簡単に話した。並々ビールを注いだ大きな“杯”を私に手渡しながら、その店員が言ってくれた気がした。
「痛みに耐えて、よくがんばった。感動した!」
プロフィール
吉田智輝(よしだ・さとき)
1990年生まれ、埼玉県鴻巣市出身。早稲田大学卒業後、シンガポールの外資系投資銀行に勤務。2018年9月から“海から七大陸最高峰に登る「SEA TO SEVEN SUMMITS」”の挑戦を始める。現在は長野県信濃町で登山ガイドなどを行ないながら生計を立て、残り2座(エベレスト、ヴィンソン・マシフ)の海からの登頂をめざす。
海から七大陸最高峰へ -冒険家・吉田智輝の挑戦-
海から七大陸最高峰の登頂をめざすSEA TO SEVEN SUMMITSに挑戦中の冒険家・吉田智輝さん。現在は七大陸最高峰のうち5座に海から登頂している。彼はなぜ、この登り方に憑りつかれたのか・・・。本人が語る冒険譚をお届けします。
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