日帰りの硫黄岳登山で、北八ヶ岳・南八ヶ岳の絶景を満喫する
読者レポーターより登山レポをお届けします。真鍋晋さんは日帰りで八ヶ岳の硫黄岳(いおうだけ)へ。
文・写真=真鍋 晋
毎年夏になれば必ず訪れたくなる、そんなお気に入りの場所はないだろうか? 僕にとってのそれが、南八ヶ岳の一帯である。そこでは美しい樹林帯を抜け、見晴らしのよい稜線を闊歩し、険しくスリリングな岩稜帯をよじ登る、こうしたバラエティーに富んだ光景が、ドラマティックに展開するのが、この山域の最大の魅力だと思う。時間に余裕があればテント泊でゆっくりするのだが、今年は梅雨の中休みに、日帰りで硫黄岳に向かった。
八ヶ岳は、どの登山口もマイカーで直接アクセスできる。そんな手軽さも魅力の一つだ。中でも日帰り登山でよく利用されるのが、桜平駐車場である。この駐車場は、山中やや深くにあり、標高が1892mと高い。“桜平”という平穏そうな地名とは裏腹に、ここへ向かう道路はオフロードに近い。未舗装の凸凹の急登を20分ほどひた走ると、ようやく駐車場に到着する。
夜の暗いうちに身支度を整え、夜明けとともに出発する。ここまでの車移動はハードだが、山登りの序盤は快適そのものである。登山道は広く、とてもよく整備されている。20分ほどで夏沢鉱泉を過ぎ、オーレン小屋へと向かう。どちらの山小屋もとてもきれいで、このルートの人気の高さが理解できる。
3000m近い山ともなれば、序盤の長い急登は避けられず、ちょっとした試練となる。しかし、このルートの前半では、苔むした深い緑の森が出迎えてくれる。日が高くなる前のマイナスイオンに満ちた樹林帯の中を登っていると、「またここに帰ってきた!」とそんな気持ちにさせてくれる。
1時間ほど急登を登ると、森林限界を越え、赤岩ノ頭に到着する。光景ががらりと変わり、とても見晴らしがよい。黄土色の踊り場を、大きな青い空が包みこんでいる。ここは天空の広場といった趣である。いよいよめざす硫黄岳山頂が視界に入る。
ザレ道を20分も登れば、硫黄岳山頂にたどり着く。このルートでは、硫黄岳のなだらかな山容を、見上げながら登ることになる。こんな形の山かと思い、山頂から反対側をのぞいてみると、そこには全然違う光景が広がっている。豪快にえぐれたダイナミックな断崖絶壁の広がる、爆裂火口である。バラエティーに富んだ八ヶ岳の光景の中でも、ここは少し異質な趣を醸し出している。
八ヶ岳は、夏沢峠を境に北と南に分かれる。峠に近い硫黄岳は、真ん中あたりに位置しているため、天気のよい日には八ヶ岳全体を一望できる。北に目をやると、天狗岳(てんぐだけ)の柔らかい山容が姿を見せる。一方、南に目をやると、荒々しい岩稜帯へと連なる美しい稜線を見渡すことができる。
山頂到着時、まだ朝7時だった。まだまだたっぷり時間は残されており、通常の周回ルートを延長することにする。今日はどっちに行こうか? 南にルートをとり、横岳まで続く岩場の稜線を歩くのもよし、北にルートをとり、樹林帯を抜けて、根石岳(ねいしだけ)からの眺望を楽しむのもよし。ルートのバリエーションが豊富で、その日の気分でアレンジできるのも、八ヶ岳登山の魅力の一つである。
この日の空は晴れてはいたが、風がとても強かった。そこで風を回避するべく、根石岳方面の樹林帯ルートをとることにする。斜面を下り、夏沢峠を越えて、今度は緩やかに登っていく。1時間程度も進めば、根石岳に到着する。目の前には天狗岳がそびえ立つ。なだらかな曲線を描くカール地形で、この光景は八ヶ岳の中では少し珍しい。ここで持参したお菓子を食べながら、しばらく休憩をとることにした。
帰りは樹林帯の中を下っていく。日が高くなったためか、木漏れ日がとてもまぶしい。オーレン小屋までたどり着くと、残りは来た道を桜平まで下っていく。
帰る前に、八ヶ岳エコーライン沿いにある「たてしな自由農園 原村店」を、お土産スポットとしておすすめしたい。ここは地元野菜の直売所で、初夏にはたくさんのとれたて果実が並んでいる。また、地元特産の「くるみかれん」はナッツ好きにはたまらない焼き菓子である。
桜平を起点とした硫黄岳周回ルートは、体力的にそれほど過酷ではなく、危険な岩場もほとんどない。初めて南八ヶ岳に挑戦したい、そんな方にはおすすめのルートである。
(山行日程=2024年7月7日)
MAP&DATA
コース
桜平~夏沢鉱泉~硫黄岳~根石岳~夏沢鉱泉~桜平(参考コースタイム:6時間23分)

真鍋 晋(読者レポーター)
普段は現役外科医、週末は登山・トレラン・ジョギング。じっと座っていることが、苦手な性分です。
プロフィール
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全国の山と溪谷オンライン読者から選ばれた山好きのレポーター。各地の登山レポやギアレビューを紹介中。
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