平出和也と中島健郎、K2西壁への軌跡をたどる

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求め続けた、未踏の岩壁

中島はテレビ番組「イッテQ!」登山部でイモトアヤコらと国内やヒマラヤ、ヨーロッパの山々を登り、サポートや撮影する一方で、「グレートヒマラヤトレイル」やヒマラヤの秘境での登山などを撮影しており、それもまた中島だからこそ成し得た撮影だった。

平出、中島共々、ファインダーを通して他者が山に向かう姿を、彼らの人生を見ていた。それは自分とは異なる山への向き合い方でありながら、共感するものも見つけていた。これらの経験が彼らの登山や人生をより豊かなものにしたのではないかと感じる。

また、平出は近年二度にわたり、スペインなどヨーロッパを巡りスライドショーを開催している。アルピニズムが生まれ育った地に日本の登山家のストーリーがもたらされたのだ。多くの聴衆にアルパインクライミングの魅力を伝え、元気や勇気を与えてきた。彼らが自分たちの経験を惜しみなく広く伝えようという気持ちをもち、国内でも活発に講演や登山ツアーを行なってきた。二人そろって各地を周った。自分たちの登山を広く多くの人に伝えるという行為を経て、二人は本物の登山家になってきたのだと思う。

シスパーレ、ラカポシ、ティリチミールなどいずれも、未踏の壁にラインを描いたものであり、そこには二人のあくなき探求心もあった。7000m級の山で未踏の壁を登り続けている登山家は世界を見渡してもそう多くはない。二人には未知の領域に突っ込んでいきパフォーマンスを発揮するメンタルの強さ、技術、体力、経験があった。

K2西壁は、じっくりと取り組みたい存在であったはずだ。一方で彼らはそれぞれ、K2後のことも考えていた。アフガニスタンやシルクロード沿いの山々に興味をもち、天気などのデータ蓄積をしていたのは平出だ。中島は来年、前述の山本とガウリシャンカール(7134m、ネパール・チベット)を予定していた。20余年前、二人が大学生だったころ登ったディンジュンリサウスからよく見えた山であり、中島の胸の中にずっとあった。

志半ばでK2から帰らぬ人となった二人であるが、まだ誰も見たことのない世界を見たい、未踏のラインをねらいたいという自分たちの思いは、最後まで貫かれていた。

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プロフィール

柏 澄子(かしわ・すみこ)

登山全般、世界各地の山岳地域のことをテーマにしたフリーランスライター。クライマーなど人物インタビューや野外医療、登山医学に関する記事を多数執筆。著書に『彼女たちの山』(山と溪谷社)。 (公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイド。
(写真=渡辺洋一)

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