念願の北アルプス・裏銀座縦走。疲れ果てて下山して味わう一杯のそうめん
夏休みに高瀬ダムから裏銀座縦走。すばらしい展望の稜線歩きを満喫し、憧れの下山メシに出合えた。
写真・文=西野淑子
登山を始めて間もないころから憧れていた、裏銀座縦走。
7月下旬、一足早い夏休みでようやく訪れることができた。
高瀬(たかせ)ダムから裏銀座縦走コースを歩き、西鎌(にしかま)尾根を歩いて槍ヶ岳(やりがたけ)まで、4日間のテント泊縦走計画。最初の2日間は天気に恵まれた。息を切らしてブナ立尾根を登り、烏帽子岳(えぼしだけ)へ。翌日は烏帽子小屋から野口五郎岳(のぐちごろうだけ)、水晶岳(すいしょうだけ)、鷲羽岳(わしばだけ)を経由して三俣山荘まで。終日快晴、すべての山々が見渡せて気持ちがよかった。
3日目は早朝から雷雨。テントを撤収し歩き始めるも、遠くで雷がゴロゴロと鳴り続け、ガスで視界も利かず、風も強い。真っ白でなにも見えない三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)の山頂に立ち、双六岳(すごろくだけ)は巻き道でスルーして双六小屋へ。悪天候で完全に心が折れ、槍ヶ岳は断念。新穂高(しんほたか)温泉に向かって下ることにした。
水の恵み、すっきりしたそうめんが染み渡る
あとは下山するだけ・・・と思っても、行程はそれなりに長い。雨で足元は滑りやすく、濡れたザックがずっしりと肩に食い込む。
小池新道登山口に着いたときには、すっかりヨレヨレになっていた。あと一息、最後の力を振り絞って歩いた先に、わさび平小屋があった。森の中に立つ木造の素朴なたたずまい。小屋の前には木材で造った水槽があり、きゅうりやトマト、果物などがぷかぷかと浮いている。風情たっぷりだなぁ。
テーブルやベンチに腰掛けた人たちが、思い思いに休憩をしている。疲れて放心している感じの人は、私と同じように雨のなか下山してきたのだろう。まだほとんど濡れていないウエアで身支度を整えている人はこれからどこかの山に向かって登っていくのだろう。
モデルコース:裏銀座縦走
コースタイム:
【1日目】高瀬ダム(7時間)烏帽子岳(40分)烏帽子小屋 合計7時間40分
【2日目】烏帽子小屋(3時間20分)野口五郎岳(3時間30分)水晶岳(2時間35分)鷲羽岳(50分)三俣山荘 合計10時間15分
【3日目】三俣山荘(50分)三俣蓮華岳(1時間40分)双六小屋(4時間15分)わさび平小屋 合計6時間45分
【4日目】わさび平小屋(1時間)新穂高温泉 合計1時間
時刻は13時過ぎ、お昼ごはんにちょうどよい時間だ。
雨のなか、ほとんど行動食も摂らずに歩いてきてしまった。ここでお昼ごはんを食べて帰ろう。だいぶお腹がすいているはずなのに、いつもなら「がっつり歩いたからカツカレー!」などボリューム満点・高カロリーの料理を食べたくなるのだが、今回は心も身体も疲れてしまって食欲がない。
ふと見上げると「そうめん」ののぼりがひらひらと揺れていた。
そうだ、わさび平小屋の軽食メニューにはそうめんがあったじゃないか。水が豊富なわさび平小屋の名物メニュー。
「すみません、そうめんひとつお願いします」
他のお客さんたちは、うどんやラーメンなど「温かい食べ物」をオーダーしている。それはそうだ、夏とはいえ雨でだいぶ寒い。
番号札を受け取って広場のベンチで待つことしばし、料理が登場した。
涼しげなガラスの器にそうめん、トッピングはきゅうりとみかん。最小限の具、シンプルなのが潔いじゃないか。
つゆにさっと麺をつけて、するするっと一口。はぁ、生き返る。食欲がないと言いながらも、そうめんはするするとのどを通る。キンキンに冷えたそうめんが気持ちいい。出汁の風味が強めのつゆもいい。きゅうりを一口、シャク、シャク。下山後の生野菜って、どうしてこんなにおいしいんだろう。
思っていたより麺の量が多くて食べきれるかなと思ったけど、ゆっくりゆっくり味わって、完食。最後までとっておいたみかんが、無事下山のご褒美みたいでうれしかったな(いや、正確にはまだ下山ではないのだけど)。
予定の行程は歩けなかったけど、そのおかげですてきな下山メシに出合えた。ありがとう。
お腹がふくれて落ち着いたところで、このあとの予定を考える。 新穂高温泉まではあと1時間。でも、ずぶ濡れのザックや靴でバスや電車に乗って帰りたくないなあ・・・。ダメ元で聞いてみると、女性1名なら空室ありとのこと!
「すみません、1泊夕食付きでお願いします」
…天国のような山小屋で1泊。お風呂でさっぱりし、極上の晩ごはんをいただき、翌日に新穂高温泉に下山をしたのだった。
わさび平小屋
標高1400m、ブナの原生林に囲まれたロケーションに建つ山小屋。心地よい客室や品数豊富で美味しい食事、快適な山の一夜を過ごすことができるうえ、宿泊者はお風呂に入ることができるのも嬉しい。喫茶・軽食もあり。
| 電話 | 0577-24-6268(双六小屋事務所) |
|---|---|
| 住所 | 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷神坂 |
| アクセス | 新穂高温泉から徒歩80分 |
プロフィール
西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)
初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きから沢登り、雪山登山まで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。
下山メシのよろこび
登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。
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