遭難注意! 雨、風、濃霧の蓼科山
読者レポーターより登山レポをお届けします。東武さんは日帰りで蓼科山(たてしなやま)へ。予想以上の悪天候になってしまったようですが・・・。
文・写真=東 武
八ヶ岳の北端、蓼科山に登りました。
この日は全国的に雨のところが多く、蓼科山は辛うじて曇りの予報。山頂の景観が抜群らしいので、どうせなら晴れた日に登りたいところですが「曇りでも少しくらい景色が見えるかも知れないし」なんて淡い期待をかけて行ってきました。
結果、みごとに期待を裏切られましたが・・・。
茅野駅のバス停から、アルピコ交通八ヶ岳ロープウェイ線のバスで蓼科山登山口に向かいます。
蓼科山登山口まで行くバスは本数が少なく、夏山シーズン以外の平日は基本は0本、土日は朝9時20分発のバス1本だけです。帰路の蓼科山登山口から茅野駅も16時27分発の1本しかありません。バスを乗り逃したら帰れないので、時間を気にしながら進みました。
登り始めてしばらくはクマザサに囲まれた道が続きます。登山道のすぐそばの木で、枝に垂れ下がるサルオガセが見られました。サルオガセは霧の多い森に見られる地衣類で、木の枝から垂れ下がる糸の塊のような姿をしています。
しばらく歩いていると雨がぽつぽつと降り始めました。レインウェアを着るか迷っているうちに本降りになったので、急いで上下とも装着。「山頂に着くまでにやんでくれないかな」と思いながら登りましたが、雨は弱まる様子がありません。
クマザサの道を抜けると、ゴロゴロとした岩だらけの急坂が続きます。
事前にルートを確認した時、地図上で等高線を貫くように直登が続いていたので覚悟はしていましたが、とにかく長い! 延々と登り一辺倒のきつい道が続きます。
雨も降り続けて休憩もとりにくい状況でしたが、時々立ち止まっては苔むした木々や岩を眺めつつ息を整えます。
濡れて滑る岩を乗り越え乗り越え、山頂をめざして進みます。
標高を上げるほど風はだんだん強くなり、木々が揺られてかしいでいます。山頂は森林限界を超えたところにあるので「もしかしなくても森を抜けたらかなりの風が吹いているのでは・・・」と嫌な予感がしましたが、想像をはるかに超える強風が吹き荒れていました。
岩場は雨と風、それから先の見えない霧で最悪のコンディション。特に風が凶悪で、まともに立っていられないほどの強風です。
安定しているように見える大きな岩も、いざ足を乗せてみるとグラグラと揺れ、手をかけても揺れ、風のない晴れた日でも慎重に進まなければならないような場所なのに、痛いほどの雨と風。
むき出しの手が雨に濡れ、風に体温を奪われてかじかみ、凍り付くような冷たさです。レインウェアのフードが風でバタバタと揺れて視界も悪く、岩の目印を頼りに山頂をめざします。
地図に「濃霧時要注意」と書かれていたので気になっていたのですが、いざ体感してわかりました。どこを向いても同じような岩場なので、霧の中で道しるべを見落とすと、方向がまるでわからなくなります。「とにかく慎重に行くぞ」と自分に言い聞かせ、視界不良の中で周囲と足元を確認しながら進みました。
霧の向こうに辛うじて標識が見えて、ようやく山頂の位置がわかりました。
事前に調べていた限りでは、蓼科山は「諏訪富士」の異名で呼ばれる富士山に似た円錐型の山容で、山頂は森林限界を超えているので三六〇度どこを向いても絶景が楽しめる山らしいです。
ですが当然この濃霧では、東西南北どこを向いても、なにひとつ見えやしません。
山頂のすぐ近くには蓼科神社奥宮の鳥居もあるはずなのですが、まったく見えず。雨と強風、濃霧は酷くなる一方なので、これ以上の滞在は危険と判断し、鳥居は見るのを諦めて下山しました。
下山の最中も足場が悪く、何度も足を滑らせバランスを崩しかけます。疲れ果て、景色も見えず、歩きながら「こんなにキツイなんて、もう次は登らないぞ」とずっと考えていました。
山を下りきる直前になって、ようやく雨が止みました。霧も晴れていきます。木々の途切れた場所から、遠くに麓の景色が見えました。
なんとか16時27分のバスに間に合うように下山し、へとへとになって帰途に就きました。
下っている最中は「もう次は登らない」と思っていたのに不思議なもので、バスに揺られているうちに「次は晴れたときに来たいな」とさっそく、気持ちが切り替わりました。次こそ山頂からの絶景を確かめたいものです。
(山行日程=2024年9月21日)
MAP&DATA

東 武(読者レポーター)
晴れた日は山に出没し雨の日には本を読む、そんな暮らしにあこがれる文系山男。文学サークル・ペンシルビバップを主催している。山と文学と相模原市を愛してやまない。
この記事に登場する山
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