純文学山岳小説『バリ山行』が芥川賞を受賞! 松永K三蔵さんインタビュー【山と溪谷2024年10月号】

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7月17日、第171回芥川賞が発表され、松永K三蔵さんの『バリ山行』が選ばれた。小説のタイトルにある「バリ」とは、登山のバリエーションルートのこと。89年にわたる長い芥川賞の歴史のなかでも、山岳小説が受賞したのは初めての快挙だ。小説の舞台となった六甲山でお話をうかがった。

文=大関直樹、写真=梶山 正

松永さん、あなたは本当に登山初心者なんですか?

まずは、あらすじを紹介しよう。関西の修繕工事会社に転職した波多(はた)は、同僚に誘われて六甲山に登ったのをきっかけに、登山にハマる。あるとき職人気質で変人扱いされているベテラン社員妻鹿(めが)が、バリエーションルートを歩いていることを知ると、連れて行ってほしいと懇願するが……。

バリ山行

バリ山行

松永K三蔵
発行 講談社(2024年7月刊)
体裁 四六判/168ページ
価格 1,600円(税込)
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読了して感じたのは、圧倒的な描写の素晴らしさだ。草いきれを感じながら歩くヤブこぎや足元から崩れていく滑落の場面は、小誌の読者ならリアリティを感じながら読めるはず。作者の松永さんは、相当な登山経験があるのではないだろうか?

「僕なんか、5年前くらいから山を始めたばかりの“にわか登山者”なんですよ。『山と溪谷』みたいな登山専門誌にインタビューしていただけるなんて、お恥ずかしいです」と謙遜しながら笑う松永さん。

山を始めたきっかけは、義理の母が持っていた『孤高の人』(著:新田次郎)を読んだこと。舞台にもなった六甲山に登ってみたところ、これが面白い。瞬く間に夢中になり、週に一度は登山をするようになっていった。

「登山アプリを見ながら歩くんですけど、どんくさいので迷っちゃうんですよ。ちょっとでも踏み跡があると、そっちへ入って行ったりして。でも、これも面白いなと思ったんですよね」

人のいない道を歩く楽しさに気がついた松永さんは、ネットなどでバリエーションルートを歩いている人のことを調べた。迫真に迫るヤブこぎのシーンも、迷わない程度にヤブに入って試しながら書いたという。しかし、このインタビューも六甲山を歩きながら行なったのだが、小誌取材陣は大汗をかいているのに松永さんは涼しい顔で、どんどん先を歩いていく。

「松永さん、あなたは本当に登山初心者なんですか?」

NEXT仕事が描かれない小説はリアリティがない
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プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

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雑誌『山と溪谷』特集より

1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。

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