純文学山岳小説『バリ山行』が芥川賞を受賞! 松永K三蔵さんインタビュー【山と溪谷2024年10月号】
7月17日、第171回芥川賞が発表され、松永K三蔵さんの『バリ山行』が選ばれた。小説のタイトルにある「バリ」とは、登山のバリエーションルートのこと。89年にわたる長い芥川賞の歴史のなかでも、山岳小説が受賞したのは初めての快挙だ。小説の舞台となった六甲山でお話をうかがった。
文=大関直樹、写真=梶山 正
仕事が描かれない小説はリアリティがない
――『バリ山行』は、純文学を対象とする芥川賞を受賞されましたが、山岳小説と呼ばれることに抵抗はありますか?
全然ないです。というかむしろ、光栄です。
――新田次郎の山岳小説がきっかけで登山を始めたとのことですが、ほかにも山岳小説を読むことはあります?
お恥ずかしい話ですが、あまり読んでいないですね。山岳小説というジャンルがあることは知っていたんですが。加藤文太郎の『単独行』は読みましたけど、あれは小説というより、遺稿集ですよね。あえて読まなかった理由を挙げるとすると、小説を書く上で影響を受けたくなかったというのがあります。山に対して、自分の感覚で感じたままを書きたかったんです。五感による体感、できれば第六感まで含んだ身体性のある描写を意識して執筆しました。
――確かに山行の様子は、リアリティを感じました。同じく、主人公の波多が倒産しそうな会社に翻弄されるのもリアルに感じたのですが。
読者の方からは、お仕事小説としても楽しめますとおっしゃっていただくことも多いですね。現代では、一部の資産家など特殊なケースを除いて、みなさん何らかの仕事をされています。仕事って、勤務時間だけでなく休みの日でも、つきまとうじゃないですか。だから、僕は仕事のことが書かれていない小説は、リアリティがないと思ってしまいます。売上げや仕事上の人間関係、自分のキャリア形成の不安などは、誰もが持っている。特に、山をひとりで歩いていると、そんなことばかり考えてしまうんですよ。
登っている途中で「景色がいいな、楽しいな」と思っても、だんだん体が山に馴化していくと、意識の奥底に抱えている不安が頭をもたげてくる。せっかく山に来ているのに、「今後の人生はどうなるんかな」って(笑)。結局、人間はそこから逃れられないんですよね。
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雑誌記事では、松永さんが登山で感じ取っているものや好きな作家、今後書いてみたい山などについても語っている。
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。
雑誌『山と溪谷』特集より
1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。
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