富士山の遭難者数は減少。今夏の関東近郊の山々の状況を探る

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文=大関直樹、トップ写真提供=環境省富士五湖管理官事務所

丹沢や雲取山では、疲労や熱中症による遭難が目立った

富士山は日本一標高が高く、世界的にも知られているため、登山を始めたばかりの初心者でも、1度は登ってみたい山として人気だ。同じく首都圏近郊で初心者に人気の山としては、丹沢や雲取山も挙げられる。これらの山についても、現地に連絡を入れて遭難の現況について確認してみた。

丹沢の大山エリアに関しては、伊勢原警察署が管轄しており、ホームページで詳細な山岳遭難事故の発生状況を公開している。そのデータによると、今年の7月1日から9月14日までの遭難発生件数は15件。ケガの有無に関しては、重傷が2件、軽傷が3件、無傷が10件だった。また、登山中の事故が40%なのに対し、下山中が60%を占めた。遭難様態については、疲労が8件(53%)、転倒が3件(20%)、道迷いが2件(13%)となった。

「熱中症による遭難が発生。ロングコースの多い丹沢では入念な準備と計画を」(秦野ビジターセンター・長澤展子さん)

近年では毎年のように酷暑の夏が訪れているが、より暑さの厳しい低山の山ではどのような遭難事例があったのか、百名山として人気の丹沢のお膝元で登山者を見守る秦野ビジターセンターにお話をうかがった。

秦野ビジターセンター

秦野ビジターセンター(はだのビジターセンター)

塔ノ岳や鍋割山登山の玄関口である県立秦野戸川公園内にあり、年末年始以外は無休で登山者に情報を提供している

――今シーズンの登山者をご覧になっていて、気がついた点がありましたら教 えてください

長澤さん夏の丹沢はとても暑く、今夏の猛暑でも登山される方は登山経験者が中心だったようで、見ていて危なっかしい方は少なかったです。それでも熱中症による遭難は発生しています。登山経験が浅いと思われる方は、携行するドリンクが少なめな方が多いように感じました。また、通年を通して言えることですが、経験の浅い方ほどロングコースを選びがちで、出発時間が遅く、ヘッドランプも持っていない方が散見されます。

――登山者に何かメッセージや要望がありましたら教えてください

長澤さん丹沢は、ほかの山域よりも疲労による遭難が多い傾向にあります。低山のイメージが強いかもしれませんが、たとえば大倉尾根は、塔ノ岳までの標高差が1200mあります。塔ノ岳や鍋割山など目的地までのコースタイムを把握されていない方も多く、楽に短時間で登山できると思っていらっしゃる方が多いです。登ったはいいけれど下山する体力が残っていない・・・という方もいらっしゃいます。楽観視せずに、ご自分の体力や装備に合ったコースを計画して登山をお楽しみいただければと思います。

大倉尾根の登山道。丹沢は都心からのアクセスもよく人気の山だが、大倉尾根のように長く、体力を使うルートも多い。下調べと、自分に合った山選びが必要だ(写真=ジュンパク

「今年は猛暑のせいか、熱中症による救助要請がありました」(雲取山荘・新井晃一さん)

こちらも百名山に数えられる雲取山。山頂直下に立つ雲取山荘に今夏の登山者の様子を聞いてみた。

雲取山荘

雲取山荘(くもとりさんそう)

東京都の最高峰である雲取山(2017m)頂上直下に立つ山小屋。収容人員は約200人(写真=くにちゃん

――今年の登山者の様子は、いかがでしたか?

新井さん雲取山は、夏の登山者の数はそれほど多くありません。今シーズンに小屋で把握している山岳救助隊の出動は3件で、2件が転倒による骨折、1件は熱中症でした。今年の夏は猛暑でしたが、これまで熱中症による救助要請というのは記憶になかったので、珍しいケースだったと思います。

遭難を防ぐために登山前の準備や計画を入念に

取材を通じて、富士山では発病、丹沢では疲労、雲取山では熱中症など、山域やコースによって遭難様態(原因)が異なることがわかった。こうした遭難を防ぐためには、登る予定の山の天候やコースタイム、ルート状況などの情報を事前にしっかりと確認することが重要だ。そして集めた情報を元に、無理のない登山計画を立て、装備や水などの携行品を準備するように心がけよう。

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山岳遭難ファイル

多発傾向が続く山岳遭難。全国の山で起きる事故をモニターし、さまざまな事例から予防・リスク回避について考えます。

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