年末年始も要注意! 滑落・道迷い・悪天候・低体温症・・・初冬期にはどんな山岳遭難が起きているのか
山が本格的な冬を迎える12月から1月にかけては、年末年始の休暇などを利用して雪山に登る人が増える季節。しかし、初冬期特有の事故も起きている。
文・写真=野村 仁、トップ写真=霧氷で飾られた九重山・牧ノ戸峠登山道
意外に多い初冬の遭難
雪山遭難が意外に多発するのが12月~1月初旬の初冬期です。登山者がまだ心身の準備を雪山対応にチェンジできないときでも、本格的な冬は否応なしに襲来してしまいます。加えて、山の積雪はまだ安定しないため、足場の崩壊やスリップなどのミスも起こりやすくなっています。
注意すべき遭難形態は、滑落、ルートミス(道迷い)、低体温症、体調不良と疲労・発病などで無雪期と変わらないですが、死亡・重傷に至るリスクは雪山のほうが高くなります。雪山の環境と装備に体を慣らすように、初級レベルから徐々に登りこんでいくよう心がけたいものです。
昨シーズンは初冬期の遭難が少なかったため、以下の事例は一昨年(2022~23年)シーズンのものからピックアップしました。
事例1:富士山御殿場口新五合目付近 道迷い・滑落(死亡)
2022年12月27日(火)午前11時ごろ、富士山に出かけた男性(28歳)が30日になっても帰宅せず、連絡もつかないことから、家族が警察に通報しました。静岡県警裾野署が捜索したところ、裾野市の水ヶ塚公園駐車場で男性の車を発見。31日から富士山自然休養林ハイキングコース周辺を捜索しました。1月3日午前9時20分、御殿場口新五合目の北西約2km地汚点で男性を発見し、その場で死亡が確認されました。
[解説]
男性はよく山に行っている人でしたが、このときは家族に行先などを伝えていませんでした。そのため警察への通報が大幅に遅れてしまいました。日帰りなどの予定と行先がわかっていれば、滑落後半日~1日で捜索されていたかもしれません。また、この時期の富士山は完全に雪山です。ハイキングコースとはいえ森林限界より上部に出るので、厳冬期の気象をもろに受けることになります。遭難者は発見時にうつ伏せで雪に埋もれていた状況から、滑落の可能性があると報道されていました。強風から体を守れる服装と、滑落を防ぐピッケル、10~12本爪のアイゼン、そのような雪山装備で歩いていたのかどうかが重要になります。
①登山計画を立てて登山計画書を作成し、②家族などに計画を知らせて共有し、③雪山の状況に応じた充分な雪山装備を用意して、雪山登山へ出かけてください。
事例2:八ヶ岳・赤岳 滑落(死亡)
2023年1月2日(月)午前、八ヶ岳・赤岳山頂付近の岩場を下山していた男性(48歳)が転落し、行動不能になりました。本人からの救助要請を受けて長野県警茅野署と遭対協会員らが捜索しましたが発見できませんでした。天候が回復した6日午前10時40分ごろ、富山県警ヘリが赤岳の南西側斜面(標高約2530m)で男性を発見し救助しましたが、死亡が確認されました。男性は稜線の約100m下に倒れていました。
[解説]
遭難発生時の1月2日から冬型の気圧配置が強まり、東日本から中部日本にかけては5日まで冬型が続きました。この間ヘリは飛べず、遭難者の捜索救助活動も進展できなかったもようです。遭難者にとっては怖ろしい事例ですが、雪山遭難ではこういうことも充分起こり得ると考えなくてはなりません。すべての場合に「遭難しても助けてもらえる」わけではないのです。
遭難場所は赤岳南面、立場川源頭部の遭難多発ポイントです。積雪が飛ばされて少ないため、アイゼンが岩をガリガリと噛んで不安定な下降を強いられます。鎖が出ていることが多いので手がかりに使うこともできます。時間がかかっても、ここでは絶対に転倒しないように慎重に下降しなければなりません。めざすルート上でどこにどのような危険があるのか、情報をしっかりと把握したうえで出かけるようにしてください。
事例3:石鎚山 悪天候・低体温症(死亡)
2022年12月22日(木)、久万高原面河コースから石鎚山に入山した女性(53歳)が連絡不通になり、24日夜に家族が愛媛県警松山東署に行方不明届を出しました。女性は22日午後2時ごろ、スマホで撮った面河山山頂付近の写真を友人に送っていました。警察・消防が捜索しましたが大雪のため難航し、冬型が緩んだ27日午後2時20分、女性は遺体で発見されました。愛大小屋から山頂方向へ約150m離れた場所で、ザックを背負ったまま倒れていました。
[解説]
22日は発達中の低気圧が本州を通過し、悪天候になることが予報されていました。実際に久万高原町では22日夜に大雪警報が出され、強い冬型による大雪が26日まで続きました。遭難者の女性は大雪警報を知らなかったかもしれませんが、天気予報は見ていたでしょう。また気象情報を知ることのできる装備(スマホ、ラジオ)も持っていたと思います。ルートの選び方からしても初級者ではないと推測できますが、悪天候の中で目標にしていた愛大小屋が見つからないうちに倒れてしまったのでしょうか。面河山以前で撤退、下山してほしかったと思わずにいられない事例でした。
事例4:阿蘇外輪山・鞍岳 道迷い(無事救出)
2023年1月2日(月)午後2時半ごろ、熊本県菊池市の鞍岳に登った70代女性から「娘が遭難した」と110番通報がありました。2人は鞍岳の頂上手前で分かれて、母親一人で山頂に向かいましたが、戻ると娘の姿がなかったということです。警察・消防が捜索し、翌3日も約200人体制で捜索を続けましたが発見できませんでした。4日午前7時20分ごろ、複数の捜索ボランティアが、登山口から頂上方向へ約250mの場所で遭難女性(40代)を発見・救助しました。女性は衰弱しており、ドクターヘリで病院へ搬送されました。
[解説]
鞍岳は阿蘇外輪山の一角を占める展望のよい山で人気があります。九合目まで林道が通っていて最短コースは30分ほどで登れます。事例の女性2人はこの「東登山口コース」から登っていました。少なくとも遭難した女性のほうは軽装だったもようです。
発見された場所はコースからわずか20~30m南側に入った場所で、一度ドローンで捜索されていました。遭難者が移動した可能性を考え、ボランティアが再度捜索したところ発見されました。女性はくぼ地の落葉が溜まった上に横たわり、体力の限界という様子だったそうです。みずから意思表示できなくなった遭難者を捜索する難しさを知らされた事例でした。
特に初級者を伴った場合、パーティが分かれて目の届かなくなる状況は、道迷い遭難の原因になりますので絶対に避けなくてはなりません。また、遭難時には携帯電話のGPSが捜索可能な状態にし、ホイッスルを吹く、叫び声をあげる、可能なら焚き火をして煙を上げる、目立つ色のシートを広げておくなど、発見されやすくなる努力をしましょう。
事例5:羊蹄山 雪崩(死亡)
2023年1月13日(金)、北海道の羊蹄山で外国人グループが雪崩に遭い、巻き込まれたドイツ国籍の女性(31歳)が死亡しました。グループはガイド2人を含む10人のバックカントリー・ツアーで、午前7時ごろ比羅夫コースに入山。約4時間後に登頂し、その後同コース周辺を滑走中の午後2時25分ごろ、五~六合目の標高約1160m付近で雪崩が発生しました。幅約5m、長さ約100mの表層雪崩で、人為発生か自然発生かは不明です。女性は仲間に救助されましたが、搬送先の病院で死亡が確認され、死因は窒息死でした。当時の倶知安町周辺は時おり薄雲がかかるものの、おおむね晴れで穏やかな天候でした。
[解説]
1月9日に北日本を低気圧が通過後、10日に東海上で低気圧が発達して冬型となり、北海道から本州の日本海側にかけて大雪となりました。しかし、早くも11~12日には移動性高気圧の晴れとなっています。事故発生の13日はこの晴天パターン3日目(最終日)で、気温が上昇して春のようになりました。雪崩の予測はかなり難しかったと推測できます。
事故の翌14日に日本雪氷学会北海道支部の専門家が、比羅夫コース下部で現地調査を行ないましたが、積雪断面調査では雪崩の原因となるような弱層は確認できませんでした。また、報道でインタビューされていた別パーティの学生登山者も、滑走前に積雪チェックを行なった結果では、特に問題はなかったと答えていました。
このように雪崩を正確に予測するのは難しいですが、雪山登山はこの難しいリスクの中に入り込んでゆく行為なのだということを自覚する必要があります。雪崩の危険なルートへ入山する場合は事前に雪崩の学習をし、雪崩対策の装備も必ず携行してください。
プロフィール
野村仁(のむら・ひとし)
山岳ライター。1954年秋田県生まれ。雑誌『山と溪谷』で「アクシデント」のページを毎号担当。また、丹沢、奥多摩などの人気登山エリアの遭難発生地点をマップに落とし込んだ企画を手がけるなど、山岳遭難の定点観測を続けている。
山岳遭難ファイル
多発傾向が続く山岳遭難。全国の山で起きる事故をモニターし、さまざまな事例から予防・リスク回避について考えます。
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