満天の星を願って神津島・天上山へ
読者レポーターより登山レポをお届けします。植野律子さんは伊豆七島の一つ、神津島(こうづしま)の天上山(てんじょうさん)へ。
文・写真=植野律子
10月最初の土日。この時期恒例のキャンプと星空観測のため神津島を訪れ、天上山へ。秋雨前線の影響で雲が多かったこの日、泊まっていたキャンプ場の方から、山の上は崖が多くて霧が濃いと危ないから引き返すようにとアドバイスをいただき、出発した。
多幸湾(たこうわん)キャンプ場から黒島(くろしま)登山口までは、雲の合間から見える青空に希望を抱きつつ、車道脇を進んだ。黒島登山口に着いたところで、また地元の方が声をかけてくださり、見せてくれたのはキキョウの花。ほかの花はもう終わっているなか、今シーズン最後の2輪が「永遠の愛」という花言葉を象徴するかのように仲よく並んで紫色の花を咲かせていた。そんなすてきな花にうっとり癒されたところで、さっそく登山口へ。
始めは石段を登っていく。登山道のまわりは、太古の昔、石炭紀にでもタイムスリップしたかと思ってしまうほど、辺り一面シダ植物に覆われていた。木々の中を進む山道に慣れていた私は、足元に生い茂るシダ植物に驚き、何度も足を止めてキョロキョロと周囲を見まわしてしまった。さらに、少し視野を広げると青い海や港を行き交う船が見え、絶景ポイントの連続だ。すべての景色を写真に収めたくなる。
標高を上げていくと、木々などのさえぎるものがなく真下に海が見えるせいか、火山らしいゴツゴツとした岩が見えるせいか、山が急峻に感じることもあった。本当に標高572mの山を登っているのか?と疑ってしまうほどだ。それでも登山道には、1合目から10合目の標識が順に立っている。あと少し!と自分を奮い立たせることができた。
10合目からは景色が一変。霧が濃くなってきたが視界はある程度先まで見渡すことができたため、低木林のトンネルを抜け最高地点をめざす。晴れた日のように海や遠くの島々の景色が見られなかったのは残念だったが、代わりに、霧の水分を集めてキラキラ輝く葉先の雫やクモの巣がとても美しかった。
次に目の前に現われたのは砂漠状の砂地。普段の生活の中では決して見ることのない異様な光景に、今度は三途の川に来てしまったかと思った。隣からは月面を歩いているようだという声も聞こえた。非日常的な景色を一度に楽しめる本当におもしろい山だ。一方で、砂の道は目印になるものが少なく、特に天気の悪い日には迷わないよう注意が必要だ。周囲の岩に描かれている黄色い矢印を頼りに先へ進むと木の階段が見える。最高地点はもうすぐだ。
この日の山頂はどこを見回しても霧で真っ白。髪がお風呂上がりのように濡れるほどだったが、山頂からの景色は次回のお楽しみに。記念に真っ白フォトを撮影し、視界が悪化する前に来た道を下山することにした。
山を下りていくと、再び青空が見え蒸し暑くなってきた。そこで登山口とキャンプ場との間に「冷風穴」があったことを思い出す。気になっていたので寄り道してみると、洞窟から驚くほどひんやりとした風が吹いていた。まさに天然のクーラーだ。入口は小さいが、絶えず風が吹いているので、洞窟はどこまで広がっているのだろうと想像しながら汗をぬぐった。
そして出発したキャンプ場から徒歩7分ほどのところにある湧水地「多幸湧水」へ。疲れた体に冷たくきれいな水が染みた。ここは「東京の名湧水57選」のひとつにも選ばれており、観光客や住民が次々とバケツやボトルに水を汲んで帰っていた。水汲み場からは、むき出した岩がかっこいい天上山と真っ青なビーチが一望でき、景色も抜群によい。今回の神津島旅で見つけたお気に入りスポットだ。
花の百名山にも選ばれている天上山。初めて登った今回はシダ植物の印象が強かったが、ハマシャジンやシュスランなどの小さな花々が登山道を優しく彩っていた。さらに、山の後には夕日を眺めながら絶景露天風呂に浸かり、夜には絶品島ごはん、星空保護区に指定された満天の星を楽しめ、ごほうびまで盛りだくさん。ぜひ天気のいい日に朝から晩まで楽しんでほしい。
(山行日程=2024年10月6日)
MAP&DATA

植野律子(読者レポーター)
洞窟好きだったが、新たな趣味を求めて登山を始める。ウェアやごはんで気分を変えながら登る週末の山は、とっておきのごほうび。山中では、植物を愛で、撮影しながら登るのがいちばんの楽しみ。
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