南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑧高知県の遍路道 区間ごとのアドバイス

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弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。

写真・文=岸田 明 トップ写真=塚地峠から見た、宇佐の集落と青龍寺のある横浪半島の宇都賀山

目次

【区間3】第三十八番金剛福寺から第三十九番延光寺 5泊6日
公共交通の区切り:土佐佐賀駅~宿毛駅

土佐佐賀駅以降は海と対話しながら、延々と歩く。入野松原(いりのまつばら)の美しい松林を通り、小高い丘を越えて日本最後の清流といわれている四万十川に出て、四万十大橋を渡る。伊豆田(いずた)峠を越えれば、歩き遍路必訪の真念庵だ。真念は遍路の父といわれ、案内本や遍路のしるべ石を整備し、この場所に大師堂を建てた高野聖(高野山を中心として布教、募金に努めた僧侶)だ。

〉雰囲気のある竹林に囲まれた真念庵
雰囲気のある竹林に囲まれた真念庵。地元の方の募金により浄財が集まり、2020年に再建された

大岐(おおき)の浜を歩き、以布利(いぶり)を抜けて、鯨道(くじらみち)の遍路道に入る。鯨道は非常に歴史のある遍路道で、丁石も多数残っているのでぜひ歩いてほしい道だ。ただし県道を行けば30分で済むところ、アップダウンが多いため1時間はかかり手強い。以降、足摺岬までは緩やかなアップダウンが続く。

〉鯨道
鯨道。あしずり遍路道保存協会によって整備され、丁石一つ一つの刻字の解説もついている

足摺岬は、弘法大師ゆかりの史跡も多い。圧倒的な迫力の天狗の鼻を訪れた後、金剛福寺にお参りする。南国らしい、ほのぼのとした雰囲気のお寺だ。境内には土佐五色石(ごしきいし)が並んでいて、ほかの霊場とは一線を画す雰囲気がある。北上し中浜でジョン万次郎の生家を見て、土佐清水まで歩く。ジョン万次郎資料館を訪問し、竜串(たつくし)へ。竜串は特異な姿をした岩礁の海岸線がすばらしいが、もし時間があればさらに見残し海岸や諸施設を見学するとよいだろう。

竜串からは、黒潮洗う海岸線を歩く。トンネルを通る国道ではなく落石が散乱してはいるが、海岸線の旧道を歩くと数多くの碆(はえ)や海食洞を見ることができ、自然のとてつもないエネルギーを感じられるだろう。月山(つきやま)神社にお参りした後大月町を抜け、宿毛から第三十九番延光寺を往復する。

〉月山神社
月山神社。弘法大師にまつわる霊場。神仏分離令以前は月山月光院南照寺というお寺だった。高知県では明治政府の神仏分離令が強力に推し進められ、一度廃寺にされたがその後に復興された霊場が多い

●アドバイス
本区間でルート選択に迷う箇所としては、まず井ノ崎だが、海岸沿いは時間がかかるわりには見るべきものが少ない。土佐入野から四万十大橋へは複数ルートあるが、海岸沿いの道が漁村の雰囲気を長く味わえるだろう。四万十川河口にある下田の渡しは前々日までには電話で確認し、欠航の場合は宿泊地を含めてルートを練り直す必要がある。残念ながら筆者は乗れたことがない。

以布利から金剛福寺へは、足摺半島の東海岸・西海岸2ルートがあるが、順序はともかく両海岸を歩きたい。ただし、その先で大月遍路道に向かう場合は、東海岸から金剛福寺に行くのが自然だろう。なお東海岸は足摺岬に向かってやや登り気味だが、金剛福寺の直前は亜熱帯性ジャングルの中を歩くので、気持ちの高まりがある。西海岸は丘越えの旧遍路道が2本あり、里では人々の生活を味わいながらの道になっている。

〉足摺半島西海岸・松尾にある、宗田節の工場にて
足摺半島西海岸・松尾にある、宗田節の工場にて

さて土佐清水周辺から第三十九番延光寺までが問題で、複数ルートあり、歩き遍路がルート選択に最も悩む区間だ。第一の月山神社経由の大月遍路道は、竜串の奇岩の海岸線と絶景の黒潮洗う断崖絶壁の縁を歩く大自然を満喫するルートで、また以布利~真念庵間の十数kmの打ち戻りを避けることができる。ただし大月遍路道は、真念庵打ち戻りコースよりも約20km距離が長く、1日多く要してしまう。さらに遍路宿は竜串以降32km先の大月町までないので、第3回コラムの表で説明したように、現代版難所と呼んでもよいだろう。

一方、いったん真念庵に戻ってから延光寺に向かう真念庵打ち戻りの場合は、その後通過する三原村の風景と旧遍路道の雰囲気がよく、また「どぶろく」の産地でもあり、加えて「真念」の名前のつく真念遍路道・地蔵峠を歩くこともできる。

三原村経由には真念庵打ち戻り以外に、真念庵手前で山に入る下ノ加江(しものかえ)打ち戻りもあり、距離に大差はないが、人家はほとんどない。なお、地蔵峠を歩きたい場合は真念庵打ち戻りになる。

結局のところ、大月遍路道・真念庵打ち戻りは甲乙つけがたいので、時間に余裕があれば土佐清水から、奇岩のある竜串はバスで往復して見学した後、真念庵経由打ち戻りという方法もある。なお竜串周辺からの山越えとなる今ノ山越えと宗呂川(そうろがわ)遍路道は、山越えのうえ人家も少なく非常に厳しいと聞いている。

宿に関しては大月遍路道を除いて各地に散在している。ただし四万十大橋直前も意外に少ないので、土佐くろしお鉄道を使って中村駅と往復するのも、最後のオプションとして存在する。なお本行程を次の【区間4】とつなげないで延光寺で打止めとする場合は、土佐くろしお鉄道の特急も停まる平田駅から中村駅・窪川駅経由で高知に帰ればよいだろう。

〉真念庵打ち戻りから三原村への分岐点
真念庵打ち戻りから三原村への分岐点

第6回コラム「南海トラフ地震と遍路」に記したように、真念庵からジョン万次郎資料館の間の足摺半島の遍路道は、大津波発生時の区域外避難困難区域だ。同様に、大月町の北端から宿毛間も注意を要する。

〉大月遍路道にある風光明媚な赤泊の浜
大月遍路道にある風光明媚な赤泊の浜。ここも残念ながら津波10~20m高の浸水地域だ。ただし、遍路道を月山神社に向かって登り返せば、すぐに浸水域外になる

MAP&DATA

高低図
最適日数:4泊5日
コースタイム: 40時間8分
行程:【1日目】
土佐佐賀駅・・・白浜海岸休憩所・・・灘公園・・・伊田郵便局・・・道の駅ビオスおおがた・・・土佐西南大規模公園・ふるさと総合センター(周辺宿泊想定)

【2日目】
土佐西南大規模公園・ふるさと総合センター・・・田野浦漁港分岐・・・双海・・・四万十大橋・・・伊豆田北坂国道分岐・・・伊豆田峠・・・真念庵・・・下ノ加江大橋・・・久百々川(周辺宿泊想定)

【3日目】
久百々川・・・大岐浜・・・以布利漁港・・・鯨道・・・津呂・・・第三十八番金剛福寺・・・足摺岬(周辺宿泊想定)

【4日目】
足摺岬・・・松尾峠トンネル入口・・・払川橋・・・ジョン万次郎記念碑・・・中浜・・・清水プラザパル前バス停・・・ジョン万次郎資料館入口・・・落窪海岸化石漣痕・・・道の駅めじかの里・・・竜串(周辺宿泊想定)

【5日目】
竜串・・・世立ての犬戻り入口・・・片粕トンネル・・・貝ノ川浦・・・貝ノ川トンネル・・・叶崎トンネル・・・大浦・・・月山神社・・・赤泊の浜・・・姫ノ井・・・大月町中心部(周辺宿泊想定)

【6日目】
大月町中心部・・・小筑紫・・・道の駅・すくも・・・宿毛市中心部・・・和田分岐・・・第三十九番延光寺・・・和田分岐・・・宿毛市中心部
総歩行距離:約145,407m
累積標高差:上り 約2526m 下り 約2529m
コース定数:143
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プロフィール

岸田 明(きしだ・あきら)

東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。

四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/

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