ヤマトタケルが妻をしのんだ旧中山道・碓氷峠越えの黄葉ハイキング【紅葉レポート】
読者レポーターより紅葉登山レポをお届けします。上町嵩広さんは群馬県と長野県の県境、旧中山道(なかせんどう)を歩く日帰りの旅へ。
文・写真=上町嵩広
旧中山道・碓氷峠(うすいとうげ)の黄葉はいよいよ見頃を迎えそうです。旧碓氷峠見晴台の周りでは青葉のなかに黄色く彩られた広葉樹たちがだいぶ増えてきました。
JR信越本線・横川駅から江戸時代の五街道のひとつ旧中山道を通り、当時は難所のひとつであった旧碓氷峠へ登り上げます。下りは日本三大熊野のひとつとされる熊野皇大(くまのこうたい)神社が立つ峠を越えて軽井沢へ向かいます。
横川駅改札を出て西に進みます。左手を振り向けば裏妙義が目前にドカンとそびえています。相変わらずの異形ぶり。アプト道へ入り少し歩くと右手にある碓氷関所の跡地に今も関所の東門が残されています。
旧中山道は江戸・日本橋と京都を結び、江戸時代には多くの旅人が往来していました。姫街道とも呼ばれ、女性などは東海道よりも中山道を選択することも多かったそうです。幕末に皇女和宮の江戸下向に利用されたのが有名でしょうか。現在の交通事情とは異なり、当時は東海道よりも難所が少なく、また川止めの心配も比較的いらず計画を立てやすかったようです。
関所跡の先で国道18号に合流してかつての宿場町・坂本宿(さかもとじゅく)の街並みを抜けていきます。18号をさらに進むと右手に旧中山道入口が出てきました。ここから軽井沢へ通じる旧中山道のルートは環境省により中部北陸自然歩道に設定されています。
旧中山道入口までは舗装道路でしたが、この先から山道が始まります。スギなどの薄暗い針葉樹林の登りが前半は続きます。紅葉はなく、眺望もほとんどありません。特定のピークを踏むこともないためか、今回のルートは登山者の数が少なかったです。また、軽井沢とつながっているからでしょうか、外国の方が日本人よりも多かったのが印象的です。
入口から東屋のある平場までは刎石坂(はねいしざか)と呼ばれ、今回のルートで一番の急坂でしょうか。途中で“覗”(のぞき)と呼ばれる展望地があり、眼下に歩いてきた坂本宿の真っ直ぐな道筋がよく見えます。信州側から旧中山道を通ってきた江戸時代の旅人たちはここで坂本宿の光景を目にしてほっと胸をなで下ろしたのかもしれません。
東屋まで登りきるとその先は傾斜がなだらかになっていきます。広葉樹も増えて雰囲気が明るくなります。栗ヶ原(くりがはら)まで来ると旧中山道入口と旧碓氷峠のおおよその中間地点になります。広めの平地になっており一息入れるにはぴったりです。このときはここで早めの昼食をとりました。
山中茶屋跡の平場から先は山中坂(やまなかざか)という上り坂が続きます。傾斜は強くないのですが、長い・・・。通称「飯喰い坂」とも呼ばれていたそうで、ここを登る旅人は手前の山中茶屋で腹ごしらえをしていたそうです。栗ヶ原でおにぎりを食べておいて正解でした。
山中坂が終わるとしばらくは緩やかな森の中を進みます。この辺りから広葉樹の中に黄色く色づいた木々が徐々に増えてきました。碓氷峠まではブナ、クヌギやコナラなどが多く、森の印象としては「紅葉」というよりは「黄葉」といった趣でしょうか。モミジやカエデもありますがまだ赤く染まっていません。
人馬施行所(じんばせぎょうしょ)という休憩所があったという小さな沢を越えると、いよいよ碓氷峠に向かって斜度のある道が始まります。登り詰めていくにつれて葉の色づきも濃くなっていきます。ライムグリーンとレモンイエローの葉の混ざり具合がパッチワークのようで鮮やかです。登りは少々きついですが、このあたりの森がルート上で、最も黄葉が映えていたように感じます。
ぐんぐんと上がっていき登りきると“中部北陸自然歩道”(上州路碓氷峠越えのみち)の道標が立つ平地に出ました。熊野神社と指示されたほうに歩けば舗装道路となり、右手には熊野皇大神社が見えてきます。ここが旧碓氷峠。群馬県と長野県の県境の標識も立っています。
峠からちょっと下った先に見晴台があります。群馬県側を歩いた午前中は晴れ間もあったのですが、長野県側に出たお昼過ぎからはガスの中・・・。残念ながら眺望には恵まれませんでした。碓氷峠は気象的にも境目で軽井沢はそのために霧が多いとのことです。
伝承によればヤマトタケルは東征を終えての帰路、この碓氷峠で振り返り「あずまはや・・・」(ああ、我が妻よ)と亡くなった妻の弟橘媛(おとたちばなひめ)をしのんだそうです。それが由縁でいわゆる関東地方が「あずま」と名付けられたとも伝わっています。
旧碓氷峠見晴台の辺りはちょうど紅葉の見頃を迎えたころでしょうか。モミジも赤く色づいていました。見晴台からは旧碓氷峠遊覧歩道に入り軽井沢の町をめざします。森の中の歩道橋と吊橋を渡って砂利道を進むと県道133号に合流して旧軽井沢に出ます。多くの飲食店やさまざまなショップが立ち並び、内外の多くの観光客でにぎわっていました。さらに133号を南下してJR軽井沢駅に到着です。
中部北陸自然歩道「上州路碓氷峠越えのみち」は全体的に急登などが少なめで大きな難所や危険箇所もほとんどありません。旧中山道ということで道が荒廃していることもなく明瞭です。ちょっとわかりにくい分岐が2、3ありますが、正しい道を進めば旧中山道の説明看板が出てくるので問題ないと思われます。
今回、残念ながら秋晴れの青空の下とはいきませんでしたが、黄葉がそろそろ見頃を迎えた静かな森歩きを楽しみ、古来の伝承と歴史に触れることもできる古道ハイキングという感想です。
(山行日程=2024年10月27日)
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上町嵩広(読者レポーター)
登山歴は15年ほど。普段は奥多摩や丹沢周辺に出没し、八ヶ岳や北アルプスにも出張ります。好きな山は八ヶ岳の編笠山。山の抱負は「ちょっとだけ背伸びした山を登ってみる」。
プロフィール
山と溪谷オンライン読者レポーター
全国の山と溪谷オンライン読者から選ばれた山好きのレポーター。各地の登山レポやギアレビューを紹介中。
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