南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑨愛媛県の遍路道 概要と特徴
弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。
写真・文=岸田 明
愛媛県にある弘法大師修行の地
これまでのコラム連載で紹介してきた遍路道には、徳島県の第二十一番太龍寺(たいりゅうじ)、高知県室戸岬の御蔵洞(みくろど)など、弘法大師自身が語っている有名な修行の地があったが、愛媛県にも弘法大師修行の史跡がある。
1カ所目は第四十五番岩屋寺。岩屋寺は礫岩の断崖絶壁の中段に造られた神秘的な霊場で、遍路を圧倒する奇岩の迫力は八十八霊場の中でも最強であろう。岩屋寺には行場/禅定(ぜんじょう)と呼ばれる修行スポットが随所にある。本堂横には穴禅定、仁王門上部には逼割(せりわり)禅定と呼ばれる非常に厳しい岩場の行場がある。この行場で修行してこそ、三坂峠を越えて菩提の道場の先に足を踏み入れる準備ができたのだろうと思う。
愛媛県で2カ所目の弘法大師修行の場として挙げるとすると、第五十一番石手寺(いしてじ)になるだろうか。石手寺はミシュラン観光ガイドでも一つ星がついているが、いろいろな情報源を見ても、非常に個性的で文字通り霊力を感じる霊場との紹介が多い。寺内には数多くの文化財があり、弘法大師修行の洞穴もある。
石手寺にはほかに「マントラ洞窟」と呼ばれる長さ200mほどの洞窟もあり、その中の開けた場所2カ所が密教における金剛界と胎蔵(たいぞう)界とされているそうだ。またマントラ洞窟入り口脇には、裏山の愛宕山と常光寺山合わせて「お山四国」と呼ばれる、お砂踏み(ミニ四国遍路)の入り口もある。次の霊場・第五十二番太山寺(たいさんじ)への遍路道には、「お山四国」の前半部である愛宕山を抜けていくルートもある。愛宕山山頂からは、道後温泉を含む展望が得られる。
そして愛媛県の山で登山者にとって重要な百名山・石鎚山(いしづちさん)と四国遍路との関わりについて、少しだけ触れておきたい。石鎚山は弘法大師修行の山といわれるが、八十八霊場には入っていない。これは足摺の月山(つきやま)神社と同様に明治政府の神仏分離令によるもので、それ以前は第六十番横峰寺、第六十四番前神寺が石鎚神社の別当寺だったとのことである。つまりこの両寺に参拝することは、石鎚山に参拝することを意味していた、と考えられるだろう。石鎚山を遙拝できるのは横峰寺の星ヶ森で、仁王門から20分程度で往復できる。
プロフィール
岸田 明(きしだ・あきら)
東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。
四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/歩き遍路旅の魅力と計画アドバイス
登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスと、その記録
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