
クマ事故はなぜ起きた?私たちができることとは?上高地発、「クマとヒトのいい関係」を考える【前編】
今年7月、上高地からほど近い岳沢の幕営地で、食料が荒らされるとともに、テントの外から登山者1人がクマにのしかかられた。上高地では2020年8月、小梨平キャンプ場で幕営していた女性がクマに襲わられる被害が発生。昨年9月には、岳沢湿原付近の遊歩道を歩いていた人がクマと遭遇しケガをした。例年、各地でクマによる人身被害が起き、大都市の市街地周辺でも発生するようになっている。以前のように「山でクマに会ったなら・・・」といった、特別な人だけを想定した備えではもはや通用しない。現代の「クマとヒトのいい関係」とは。日本を代表する山岳景勝地で国立公園、上高地から考えてみた。
文・写真=宗像 充、トップ写真=明神のトイレ付近を歩くツキノワグマ(環境省上高地管理官事務所提供)
「ニッポンの国立公園サイコー!」河童橋でニホンザルと記念写真
紅葉もいよいよ色づく10月後半に上高地に入った。前回来た時はコロナ禍前だったけど、今回河童橋まで来ると平日にもかかわらず人が多い。しかもほとんど外国人の観光客だ。
穂高をバックにした定番の河童橋の写真を撮ろうとすると、河童橋の上に人だかりができている。欄干に腰掛けた子ザルと並んで記念撮影をしている。
ぼくは長野県南部の大鹿村で暮らしている。南アルプスの赤石岳が小渋橋越しに見え、サルもうちの近所にたくさんいる。だけど、彼らはこんなサービス精神にあふれていない。「そんなに近づいて大丈夫なのか」と思う。とはいえ、外国人ツーリストにしたら、「これぞ日本の国立公園」と大満足じゃなかろうか。
クマもうちの近所でワナにかかっていたりする。東京の友人と県内の塩尻で会う約束をしたら「クマが出たらどうしよう」と言うので、「塩尻にクマは出ません」と否定した。ところが、塩尻の友人には「町の中で出てますよ」と教えられる。クマも山奥の動物ではもはやない。だけどサルと違ってなかなか出会わないのは確かだ。
上高地では玄関口の沢渡のバスターミナルや、上高地に来てからも掲示板で注意喚起が行なわれ、出没情報が羅列してある。クマは慎重な動物なので、存在を知らせれば向こうから避けるし、出会わないのが一番のクマ対策と言われてきた。
2020年の小梨平の事故で被害者が体験を語って注目された後も、上高地でのクマとの軋轢は起きている。クマが増えているのだろうか。
プロフィール
宗像 充(むなかた・みつる)
むなかた・みつる/ライター。1975年生まれ。高校、大学と山岳部で、沢登りから冬季クライミングまで国内各地の山を登る。登山雑誌で南アルプスを通るリニア中央新幹線の取材で訪問したのがきっかけで、縁あって長野県大鹿村に移住。田んぼをしながら執筆活動を続ける。近著に『ニホンカワウソは生きている』『絶滅してない! ぼくがまぼろしの動物を探す理由』(いずれも旬報社)、『共同親権』(社会評論社)などがある。
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