富士山の遭難者数は減少。今夏の関東近郊の山々の状況を探る

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文=大関直樹、トップ写真提供=環境省富士五湖管理官事務所

今夏の富士山。入山規制を敷いた山梨県側は登山者減少、静岡県側は増加

環境省は9月30日、今年の富士山の開山期間中の登山者数が20万4316人で、昨年よりも約8%減少したと発表した。山梨県側の吉田ルートでは、今年に初めて入山規制が導入され、登山者数は昨年比で約16%減少したことがわかった。規制の内容は、夜通しで一気に山頂をめざす弾丸登山を減らすために16時から翌日の3時までは五合目のゲートを閉鎖するというもの。富士吉田市富士山課の発表によると、21時~24時の登山者数は、昨年度に比べて約91%減少しており、規制は一定の効果を上げたとみられる。

その一方で、静岡県側の3つのルートからの登山者は、8万9459人で昨年よりも約6%増加。静岡県では来年の夏山シーズンに向けて、山梨県と足並みをそろえた条例による登山規制および通行料の徴収を検討している。

吉田ルートの下山道七合目トイレ付近で、疲労困憊のために座り込む登山者(写真提供=環境省富士五湖管理官事務所)

過去10年分の富士山の登山者数および各登山道別登山者数の推移

遭難発生件数等の推移
*環境省発表「2024年夏期の富士山登山者数について(詳細版)」より

遭難者数は減少したが、病気による死者数は増加

富士山の遭難件数と遭難者数

静岡県側ルート

山梨県側ルート

富士山の遭難様態

静岡県側ルート

山梨県側ルート

*山梨県警、静岡県警への取材によるデータ

富士山の遭難発生件数と遭難者数は、静岡県側、山梨県側ともに昨年より減少していることが各県警への取材でわかった(上記の表を参照)。しかし、病気による死者数が増えている点は、気がかりだ。詳しい病気の症状は明らかにされていないが、富士山は日本一標高が高く、酸素の薄さと気圧の低さが体に大きな負担をかけることは確かだ。下記は、吉田ルート上にある山小屋、太子館内に設置された富士山八合目富士吉田救護所の受診実績だが、救護者の約半数が高山病だったことがわかる。持病のある人はもちろん、健康な人でも登山中の体調の変化には充分注意し、具合が悪くなったら無理をせず速やかに下山することを心がけたい。

受診者症状別(人数)

*富士吉田市富士山課発表「令和6年度富士山吉田口登山道の登山者数および富士山八合目富士吉田救護所の実績(7月1日~9月10日)」より
富士山山頂付近の様子。御来光のタイミングで体調不良のためダウンする人が多く見られた(写真提供=環境省富士五湖管理官事務所)

「入山規制の効果を感じられたシーズン。ただし、外国人の方を中心に装備不足を感じられる」(富士吉田口 蓬莱館・和光美恵さん)

今夏の富士山の様子について、入山規制が導入された山梨県側吉田ルートに立つ蓬莱館の和光さんにお話をうかがった。

富士吉田口 蓬莱館

富士吉田口 蓬莱館(ほうらいかん)

五合目から富士山頂までの中間地点、標高3150mに立つ山小屋。収容人員は約70人(写真=かぐや姫

――今シーズンの登山者について、気づいた点はありますか?

和光さん7月の開山前と9月の閉山後に登ってくる人が、例年よりも多かったように思いました。その時期は、天気がよかったことも影響しているのかもしれません。ただし、そういう方々には、半袖短パンの軽装で、雨具を持たないなど、装備が不十分な方が目立ちました。とくに外国人に多いのですが、日本人の方でも時々見かけましたね。必ず開山シーズン中の登山をお願いしたいです。

吉田ルート六合目付近を軽装で登ってゆく外国人登山者(写真提供=環境省富士五湖管理官事務所)

――吉田ルートの入山規制の影響はありましたか?

和光さん去年は、弾丸登山の途中で小屋の前やトイレで寝てしまう人もいましたが、今年は、そういった人が減り、規制の効果を感じました。ただし、静岡県側の須走ルートは、弾丸登山者が増えたみたいですね。

――来年に富士山に登ろうと考えている登山者にアドバイスをお願いします

和光さん富士山は、晴れていると登山を楽しめますが、天気が急変し、強風や低気温になると非常に危険です。必ず適切な装備で登っていただきたいです。また、軽装の方ほど事前の天気予報をチェックしていない印象がありました。登山前には必ず天気予報を見ていただきたいのですが、できれば複数のサイトで比較して検討するようにしてください。

「登山者数は増えている実感。一方で遭難者数が減っている印象」(九合五勺 胸突山荘・三井涼介さん)

今夏は入山規制を導入しなかった静岡県側。富士宮ルートの山頂近くに立つ九合五勺 胸突山荘の三井さんに今夏の富士山の様子をうかがった。

九合五勺 胸突山荘

九合五勺 胸突山荘(むなつきさんそう)

富士宮ルート最大の難所である「胸突八丁」と呼ばれる急坂付近の山小屋。収容人員は約150人(写真=きつね

――今シーズンの登山者数は、いかがだったでしょうか?

三井さんコロナも落ち着いて、年々増加している感じがしますね。遭難に関しては、去年の方が救助に出る数は多かったです。遭難態様も去年は雨の中を軽装で登ってきた方が低体温症になったのが目立ったのですが、今年はケガをされた方が多いように思いました。

――他に気がついた点はありますか?

三井さん今年は、若い方が増えた印象です。例年だと8月のお盆過ぎから9月にかけては、お客さんの数が落ち着く時期なんですけど、今年は学生さんを中心に多くの若い人たち登ってきてくれました。そのせいか、ちょっと活気が出てきた感じがしましたね。山は、年齢に関係なく多くの人と出会い、さまざまな経験ができる場所ですので、どなたでも装備や計画をしっかりと整えて、安全な登山を心がけてください!

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山岳遭難ファイル

多発傾向が続く山岳遭難。全国の山で起きる事故をモニターし、さまざまな事例から予防・リスク回避について考えます。

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