赤く染まる雪面と樹氷を求めて避難小屋泊で巻機山へ
読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは新潟県の巻機山(まきはたやま)へ。豪雪地帯の山で一泊しないと見られない絶景をねらったそうです。
文・写真=こう
巻機山の雪景色は美しいと耳にしたことはあったが、この目で見たことはまだなかった。迫力満点の大斜面は夕日の時間が特に美しく、一面が赤く染まる瞬間は格別だと友人からおすすめされたため、避難小屋に泊まってのんびり過ごし、時間の経過とともに変わる山の魅力を楽しむことした。
1日目:清水〜桜坂登山口〜前巻機山〜避難小屋
登山口への道は雪に閉ざされているため、清水集落の臨時駐車スペースに車を停めて、道の脇にある雪の壁を乗り越えてから歩き出す。先行者によって作られた道は、すでにたくさんの人が歩いており沈むことなく進むことができた。ただ、一歩道を外れると太ももまで沈み、豪雪地帯に来ていることを身をもって実感した。
桜坂駐車場を通過しても相変わらず傾斜の緩い道が続く。降りしきる雪の中を無心で歩き続けていたが、明るくなったように感じて視線を上げると、青空が現われていた。光が差し込むと、たくさんの木々が影を伸ばしていて、雪面に描かれる縞模様に目を奪われた。
徐々に傾斜がキツくなってきたが、先行者がつづら折りにルートを開拓してくれたため、そこまで疲れることはなかった。美しい霧氷が空を隠すように真上を覆っているものの、木々の背が高いおかげか閉塞感は感じられなかった。
緩やかな斜面の先にある霧氷のカーテンを抜けると、景色が開けた展望スポットに出る。そこからは南側に槍のように鋭く尖った谷川連峰の大源太山(だいげんたさん)、尾根をたどった先には真っ白な山頂が見える。その山頂は巻機山のものではなく、前巻機山、通称ニセ巻機山のものである。しばらく展望を楽しんだ後で、まずは前巻機山をめざして歩き出した。
尾根上は日当たりがいいため、枝先を覆う霧氷が溶け出して、雨のようにポタポタと雫を垂らしていた。夏道はやや遠回りとなるため、広い尾根を最短距離で突っ切った。標高を上げるごとに広がる視界に高揚感を感じつつ進んでいくと、7合目の付近に美しい雪原があり、その絶景に心が奪われたため、また一休みを取ることにした。幸いこの場所は風もなく、のんびりと過ごすことができたが、その先へ進むと急に風が強く吹き出し、慌ててハードシェルを着込んだ。
風の強さは、雪面に描かれた模様と凍った雪の波が物語っていた。なだらかそうに見えた斜面も近づいてみるとなかなかの斜度を誇っており、進む度に足が重くなっていった。振り返ると、雪をまとった山々が立ち並んでいたが、視界の中央に標高の高い山があり、端に向かうにつれて下がっていくので、景色が丸みを帯びており、地球の丸さを視認できたと錯覚した。
急な斜面を何度も横切りながら標高を稼ぎ、前巻機山に近づくと平らで幅の広い尾根となり、先行者のトレースと相まって、さながら天空の滑走路のようだった。そこまで登ると、ようやく待ちに待った巻機山と対面することができる。
だだっ広い斜面には樹氷がいくつか列をなしていた。前巻機山の西側にも樹氷が並んでおり、避難小屋までの道をエスコートしてくれているようだったが、いくら小屋に向かってもその存在は見えず、見逃さないように注意しながら歩いていると、左手に小屋の壁が一部だけ見えた。そこ以外は、ほぼ全てが雪の中に埋まっていた。冬季用の入り口を掘り出すことは容易だったが、時期や積雪量によっては、掘り出すのに数時間かかることもあるらしい。
小屋に荷物を置いてから、夕日を眺めに前巻機山に登ることにした。すでに傾き始めた太陽からは暖かい光が降り注いでおり、真っ白だった雪面と樹氷が色づき輝いていた。
反対方向に目を向ければ、今回目当てにしていた巻機山のアーベントロートが始まっており、評判通りの美しい景色に心が洗われた。色づいた斜面はもちろんすばらしかったが、前巻機山の影の部分と日差しで輝いている部分のコントラストが美しく、時間を忘れて見入ってしまった。
夕日が沈んだ後の空はまだ明るかったが、巻機山はいつの間にか元の白へと戻っており、前巻機山から避難小屋へと戻るころには、闇の中へと溶け込んでいった。
小屋で夕食を食べて冷えた身体を温めて、外に出てみたところ、夜空には無数の星たちが散りばめられていた。巻機山や樹氷は、麓のスキー場のナイターの影響か、ほのかにオレンジがかった色合いになっていた。星空撮影の準備をしていると、巻機山の上に一筋の光が輝いた。視界の端から端まで移動する流れ星を見たのは初めてのことで感動した。
小屋に戻りシュラフに入ると、程よい疲労感とたくさんの絶景を見ることができた満足感に包まれて、あっという間に眠りについた。
2日目:巻機山避難小屋〜巻機山〜牛ヶ岳〜巻機山避難小屋〜桜坂登山口〜清水
日の出を山頂で見るために薄暗いうちから小屋を出ようと考えたが、思いのほか準備に手間取り、歩き始めたときには東の空が赤く色づき始めていた。どうにか日の出まで間に合うようにと、いつもより早いペースで足を動かすと、山頂の稜線上まであっという間にたどり着いた。そこまでは無風だったが稜線は風があり、止まっていると、上りで熱くなった身体が冷えていくのがわかった。山頂に向かう途中で太陽が顔を出してくれたおかげで、シュカブラが赤く照らされて、凹凸がくっきりと浮かんで見えた。すぐ隣にある谷川の馬蹄形の稜線の奥には、富士山の存在を確認することができた。巻機山山頂までは時間もかからず到着したため、さらに奥にある牛ヶ岳(うしがだけ)まで足を延ばすことにした。
広い雪原を歩いていくと、次第に牛ヶ岳の広い斜面が見えてくる。いったん下ってから登り返すことになるが、ゆるい傾斜でそこまでつらいものではないため、時間と体力に余裕があれば牛ヶ岳まで行くことをおすすめしたい。山頂付近からは、越後三山や尾瀬方面の山々などを遮るものなく見渡すことができ、展望に優れていた。
帰りは来た道を引き返す。すぐ目の前にある上越国境稜線や遠くに並ぶ上越の山々、後立山連峰を眺めながらのんびりと歩いた。小屋まで戻ってくると、巻機山の斜面に並ぶ樹氷は一部が黒くなっており、昨日の好天によってだいぶ雪が落ちたようだった。
小屋で荷物を整理し、忘れずに冬季入り口に雪囲いの板を戻した上で、下山を開始した。
前巻機山からの下りはなかなかの傾斜であるため、アイゼンを着用して下った。急斜面が終わり平らな箇所まで来ると、トレース上でも膝まで踏み抜くようになったため、スノーシューに切り替えた。基本的にトレースをたどって下っていたが、幅広い斜面はトレースから外れてショートカットして下ったため、あっという間に登山口まで戻ってきてしまった。
来た道を振り返ると、朝は雲の下で鳴りを潜めていた割引岳(わりめきだけ)が煌々と輝いており、楽しかった2日間を絶景で締めくくることができたことに満足感を覚えつつ、その余韻を楽しみながら清水集落へと向かっていった。
(山行日程=2025年1月18~19日)
MAP&DATA
【2日目】9時間
※積雪状況による
清水・・・桜坂・・・三合目・・・五合目(焼松)・・・六合目・・・七合目物見平・・・九合目前巻機・・・巻機山避難小屋
【2日目】
巻機山避難小屋・・・巻機山御機屋・・・最高点・・・牛ヶ岳・・・最高点・・・巻機山御機屋・・・巻機山避難小屋・・・九合目前巻機・・・七合目物見平・・・六合目・・・五合目(焼松)・・・三合目・・・桜坂・・・清水

こう(読者レポーター)
山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。
この記事に登場する山
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