冬の蔵王山で出会う、雪と氷のアート
読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは山形・宮城の県境、蔵王山(ざおうさん、ざおうざん、1841m)へ。樹氷と氷瀑観賞を楽しんだそうです。
文・写真=こう
山形の冬の風物詩といえば「樹氷」だろう。世界有数の豪雪地帯である日本において、冬の間だけ現われるスノーモンスターは地元の人だけではなく、日本全国、そして世界中の人を魅了する。近年は特にその人気に拍車がかかっており、各地からたくさんの人々が樹氷観賞に訪れている。ここ数年は暖冬少雪傾向にあったため、あまり樹氷が育たない状況だったが、今年は大量の雪によって巨大なモンスターに成長しているらしい。その立派な姿を眺めるために、冬の蔵王山へと赴いた。
山形県上山市にあるスキー場「蔵王ライザワールド」の駐車場に車を停め、リフト2本を乗り継ぎ、ゲレンデトップをめざす。リフトから降りたら、スキーヤーやスノーボーダーの邪魔にならない場所まで移動し、スノーシューを装着して歩き出す。
歩き始めから登山ルートは巨大な樹氷に囲まれており、その迫力に圧倒された。たくさんの人によって踏み固められた道は、つぼ足でも沈みそうにないくらい固まっていた。少し標高を上げると大きな樹氷が減り、小さなサイズのものが増えてくるため、遠くまで見通しが利くようになる。振り返ると、西側には東北を代表する山塊である飯豊(いいで)連峰、朝日(あさひ)連峰がくっきりと見えた。
冬季通行止めの蔵王エコーラインを横切り、やや傾斜のきつい道を登ると、新たな樹氷の群れが現われる。基本的には似たような形をしているが、エリアによって形が異なってくるのでおもしろい。
登山道にとらわれず自由に歩けるのが雪山の醍醐味であるため、好きな場所に行って間近で樹氷を観賞できる。ただし、樹氷の周りは深く窪んでいたり、場合によっては踏み抜いてはまってしまうこともあるため充分に注意が必要だ。
樹氷の少ない開けた雪原に出ると、ところどころに雪の波ができており、そこからは熊野岳(くまのだけ)から刈田岳(かっただけ)までのたおやかな稜線を眺めることができた。熊野岳方面には特に広い雪原があり、美しく開放感があるすてきな眺めだった。
そこからしばらく雪原を歩いた後で、樹氷の間を縫うように南側へと歩を進め、樹氷撮影を楽しんだ。雪の重みなのか、風が強くて木が曲がっているのかは不明だが、斜めに育った樹氷が数多く存在していた。思い思いの方向に向かって伸びる樹氷は躍動感があり、生き物のようで愛らしく思えた。
稜線に上がるため、冬道を示すポールが並ぶ北側に向かう。そちらには稜線をめざす人たちの列ができていたため、その列に加わり、のんびり進んでいくと、やや傾斜のある道に差し掛かり、そこを登り切ると幅の広い稜線につながる。広く平らな雪面にはシュカブラやエビの尻尾ができており、雪のアートを眺めながら刈田岳をめざして歩いた。
山頂の刈田嶺神社には鳥居があるが、びっしりと雪がつき巨大な鳥居へと変化していた。山頂からは展望がよく、南側には屏風岳(びょうぶだけ)、南屏風岳などの南蔵王の山々が見え、北には蔵王名物のお釜、蔵王連峰最高峰の熊野岳が見える。風が強かったので、雪の塊の陰に隠れて少しばかり休憩をとってから、熊野岳をめざすことにした。
稜線上においても終始風が強く、ハードシェルがないと厳しい環境だった。刈田岳から熊野岳の間には、等間隔で木の目印があり、それをたどるように進んでいった。ホワイトアウトになった時には数メートル先ですら見えなくなるため、これを追っていくことで間違いなく進むことができる。
目印をたどっていくと、熊野岳避難小屋に登るように案内されるが、その斜面を登る前にお釜の方に少しだけ寄ってみる。そこからは、お釜と刈田岳、南蔵王の山々を一望することができるため見逃さないようにしたい。ただし、場所によっては雪庇が発達しているため、注意が必要だ。
熊野岳避難小屋へと向かって標高を上げると、左手にシュカブラが刻まれた斜面があり美しかった。ある程度登って振り返ると、お釜の姿はすでに見えなくなっていた。稜線はゆるい傾斜地で、直下にあるお釜は見えなくなってしまうため、標高を上げる前に見ておくのがおすすめだ。
避難小屋付近まで登ると、今度は北蔵王の山々が見えてくる。熊野岳に向かって平らな稜線を歩いていくと、進行方向には朝日連峰や月山(がっさん)が見えてくるので、名山を眺めながら歩くことができ気分も上々だ。
山頂に着くと、雪から半分だけ姿を出した山頂標識が現われた。標識の東側は雪が落とされており、「熊野」の文字だけ確認することができた。山頂にある巨岩はいずれも真っ白で、美しい雪のオブジェとなっていた。
下山のルートは登ってきた道を戻らず、山頂の南側にある広い斜面を下った。あっという間に下り、目印が等間隔で並ぶ稜線へと戻ってからは、その目印をたどりゲレンデをめざして下った。日の当たり方が変わって、朝とは違う雰囲気の樹氷を眺めるのは楽しかったし、樹氷原と飯豊連峰を同時に眺められるぜいたくな景色に心躍らせながら下山した。
ゲレンデトップまで戻り、そこからリフト乗り場へと向かい、その奥にある仙人沢アイスガーデンをめざした。
仙人沢アイスガーデンは、青い氷瀑が複数ある場所で、もともとはアイスクライミングの名所として楽しまれていたが、メディアやSNSによって一般登山者にも知れ渡り、幻想的な氷瀑の景色を多くの人が楽しむようになった。例年、樹氷原から急傾斜を下っていくのだが、今シーズンは比較的緩い傾斜にピンクテープがつけられており、以前よりも下りやすくなっていた。ただし、下部は傾斜が厳しくなるため、急傾斜を下るのが怖い人や登り返す体力がない人にはおすすめしない。
川沿いの斜面をトラバースしながら進んでいくと、青く輝く氷瀑が現われる。残念なことに、この山行の1週間ほど前に一番大きな氷瀑が折れてしまい、例年の半分くらいの大きさになってしまった。それでも普段見ることができない特別な景色であることは間違いないため、わざわざ寄り道した甲斐はあったと思う。
息を切らしながら急な傾斜を登り、リフト乗り場付近まで戻って息を整えた後で、スキー場のルールに従い、ゲレンデの左側を歩いて下った。冬の山形県では考えられないような終日の晴れに感謝し、充実の山行を締め括った。
(山行日程=2025年2月2日)
MAP&DATA

こう(読者レポーター)
山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。
この記事に登場する山
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