南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑫香川県の遍路道 区間ごとのアドバイス

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弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。

写真・文=岸田 明

目次

【区間1】第六十八番神恵院~第八十番国分寺 2泊3日
公共交通の区切り:観音寺駅~国分(こくぶ)駅

第10回目のコラムで紹介した愛媛県の遍路道最終区間は、第六十七番大興寺(だいこうじ)を過ぎて観音寺駅までとしたので、今回の香川県1区間目は、観音寺駅からのスタートとする。

第六十八番神恵院(じんねいん)と第六十九番観音寺(かんのんじ)は廃仏毀釈の波に揉まれた関係で、同じ境内にある。霊場手前に立派な琴弾八幡宮(ことひきはちまんぐう)があり、また小山の上にある展望台からは寛永通宝の銭形砂絵(ぜにがたすなえ)が見られるので、それぞれ立ち寄るとよいだろう。続く第七十番本山寺(もとやまじ)は、八十八霊場の中でも数少ない、五重塔を持つ名刹だ。

本山寺から第七十一番弥谷寺(いやだにじ)までは、たくさんのため池の縁を歩く。弥谷寺へは緩い登りの後、山門からは急な階段になる。しばらく平地歩きが続いてきた遍路道だったが久しぶりの試練になり、参拝に時間を要する。仁王門から階段を登り、大師堂、水場の洞窟とお参りし、一番上の本堂まで約540段の階段を上がる。第七十二番曼荼羅寺(まんだらじ)へは階段を戻った途中から標識に従って、左に弥谷山(いやだにさん)を巻くように下っていく。

上池(かみいけ)まで歩くと右に第七十三番出釈迦寺(しゅっしゃかじ)を抱く我拝師山(がはいしさん)が見えてくる。第七十二番曼荼羅寺、出釈迦寺と、かわいらしくこぢんまりした霊場が続く(この二霊場間は、一般的に出釈迦寺に先にお参りする遍路が多い)。なお捨身ヶ嶽禅定(しゃしんがたけぜんじょう)は山を歩く者にとっては非常に登拝意欲をそそる山であるが、禅定のある出釈迦寺奥の院まで標高差約300mあり往復2時間弱必要なので、登るのであればその日の行動計画にあらかじめ組み込んでおく必要がある。

続いて第七十四番甲山寺(こうやまじ)にお参りし、弘法大師生誕の地、第七十五番善通寺(ぜんつうじ)に入る。善通寺は非常に大きな霊場でお参りする箇所も多いので、参拝時間には余裕をもたせておこう。

善通寺からは北に向かっていき、すっきりした本堂の第七十六番金倉寺(こんぞうじ)、多宝塔が眼をひく第七十七番道隆寺(どうりゅうじ)、庭園の美しい第七十八番郷照寺(ごうしょうじ)、神仏習合の第七十九番天皇寺(てんのうじ)とお参りする。なお道隆寺から天皇寺間は交通量の多い市街地を歩くので、車への注意が必要だ。綾川沿いに歩き、緩い峠を越えると第八十番国分寺(こくぶんじ)に着く。国分寺は境内には整然と松が立ち並ぶ、清楚な霊場だ。

●アドバイス
この区間でルート取りに悩む箇所はない。また香川県の遍路道は比較的交通の便がよい平野部を歩くので、考えなければならない課題としてはその日どこで打ち止めにして、どこに宿をとるかという点だろう。宿の予約で最も重要な場所は、第六十六番雲辺寺(うんぺんじ)への登りの前泊地なのだが、これに関しては第10回目の愛媛県の記事にて説明した。

次に考えなければならない宿泊場所は、弘法大師の生誕地・第七十五番善通寺(ぜんつうじ)である。善通寺には宿坊があり、弘法大師ゆかりのお寺なのでぜひとも泊まりたいところが、大本山なので早めの予約が必要だ。ただし隣接する琴平含めて宿はほかにもたくさんある。

それ以外はJRや琴電を利用して高松周辺でホテル宿泊もできるので、その日の打ち止め地は歩行距離に無理のない場所を選べばよいだろう。ちなみに筆者は区間2では、第八十三番一宮寺(いちのみやじ)にお参りして少し街中を歩き、琴電に乗り高松市中心部に出てホテルに泊まったことがある。

〉香川県民の足、琴電
香川県民の足、琴電

MAP&DATA

高低図
最適日数:2泊3日
コースタイム: 14時間50分
行程:【1日目】
観音寺駅・・・琴弾八幡宮入口・・・第六十八番神恵院・第六十九番観音寺・・・大小路橋左岸・・・第七十番本山寺・・・権兵衛神社・・・高瀬川橋(周辺宿泊想定)

【2日目】
高瀬川橋・・・落合大師堂・・・八丁目大師堂・・・曼荼羅寺遍路道分岐・・・第七十一番弥谷寺本堂・・・曼荼羅寺遍路道分岐・・・高松自動車道アンダーパス・・・第七十三番出釈迦寺・・・第七十二番曼荼羅寺・・・第七十四番甲山寺・・・第七十五番善通寺(周辺宿泊想定)

【3日目】
第七十五番善通寺・・・第七十六番金倉寺・・・第七十七番道隆寺・・・丸亀駅入口・・・第七十八番郷照寺・・・坂出駅入口・・・第七十九番天皇寺・・・鴨川駅・・・第八十番国分寺
総歩行距離:約54,984m
累積標高差:上り 約554m 下り 約521m
コース定数:49
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プロフィール

岸田 明(きしだ・あきら)

東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。

四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/

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