都会とどう違う? 移住前に知っておきたい地方のリアルな交通事情

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辺りの田んぼに水が入り、稲作の季節になりました。水を張った田んぼに映る北アルプスの景色が美しく、そんな田園風景のなかを自転車で駆け抜けるのは爽快です。さて、地方移住を考えるうえで知っておきたいのが、移住先の交通事情です。特に、通勤や通学が必要な人にとっては、移住先での交通手段やアクセスを知っておくことは重要です。都会の交通とどう違うのか? 地方のリアルな交通事情を紹介します。

文・写真=鈴木俊輔

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爺ヶ岳・鹿島槍ヶ岳とJR大糸線
爺ヶ岳・鹿島槍ヶ岳とJR大糸線

ペーパードライバーでも大丈夫?

移住相談を受けていると、移住先での車の運転に不安を感じている人もいます。かく言う私も長野県に移住するまではペーパードライバーで、正直なところ車の運転に自信がありませんでした。私が住んでいる池田町は、位置的には松本市と白馬村の中間にあり、安曇野市と大町市に隣接しています。町内には大型スーパーやドラッグストアなどがありますが、わが家からは2km以上離れています。そのため車を運転しないわけにはいかず、日常的に車に乗るうちに慣れました。車の運転さえできれば、日常生活では全く不便を感じません。

長野県は長野市や松本市といった都市部の市街地を除けば交通量は少なく、都会に比べてはるかに運転しやすいです。また、スーパーマーケットなどの駐車場は無料のところが多く、敷地も広いので駐車も楽。私は登山では致命的な「地図が読めない男」なのですが、ちょっと遠くまで行く際にはスマホのナビに助けられています。ちなみに、池田町ではいつも西側に北アルプスが見えるので道に迷うことはありません。

池田町の南北を通る県道と北アルプスの山々
池田町の南北を通る県道。西側には北アルプスの山々

地方部では車が生活の足

「車なしでも暮らせますか?」と聞かれることがありますが、少なくとも一家に一台は必要です。私たち夫婦も移住した当初は車を持っておらず、手に入れるまでの数週間は自転車で買い物に行っていました。わが家は高台にあり、自転車のかごいっぱいに荷物を積んで坂道を駆け上るのはなかなか大変でした。

まもなく中古車を購入し、しばらくは一台で暮らしていましたが、子どもの保育園の送り迎えや妻のパートなどでもう一台必要になり、現在の二台態勢に。移住者のなかには夫婦のどちらかしか運転しない家庭もありますが、車なしで生活している人はほとんどいません。地方において車は「生活の足」で、50m先のごみ収集所まで車で行く人も見かけます。

気を付けたいのは、冬場の運転です。長野県内でも雪の少ない地域と多い地域では状況が異なりますが、いずれもスタッドレスタイヤは必須。私が住んでいるのは雪の少ない地域ですが、以前取材で豪雪地帯に行った際にはホワイトアウトに遭い、とても怖い思いをしました。また、新雪よりも数日経って踏み固められたアイスバーンは危険で、ゆっくりブレーキペダルを踏んでも滑ることがあります。

雪道での運転もしばらく住んでいると慣れてきますが、不安な人のために雪道路上運転講習を行なっている教習所もあります。ちなみに、雪の少ない市街地での運転は2WDの車でも問題ありませんが、雪の多い地域や山間部に住む場合は4WDの方が安心です。

豪雪地帯の道路
豪雪地帯の道路。さらに吹雪くとホワイトアウトに

車以外の交通手段。電車は1時間に1本

東京や大阪といった大都市圏と地方部とでは交通事情は大きく異なります。長野県内には77の市町村がありますが、そのなかで鉄道の駅がない町村は24あります。私が住んでいる町には鉄道の駅がなく、日常生活では車があれば事足りますが、仕事などで一人で東京に出かける際は、最寄り駅の有料駐車場に車を停めるか、妻に駅まで送ってもらっています。

また、移住先を選ぶ際によく考えたいのが、通勤と通学です。通勤については車を使う人が多く、朝晩は都市部に向かう幹線道路が渋滞。そのため通常よりも時間がかかります。勤務地が都市部の場合は電車を使う人もいます。電車の本数は、通勤の時間帯だと1時間に2本、それ以外の時間帯は1時間に1本程度。つまり、乗り遅れると1時間待つことに。

朝や夕方の時間帯は通勤通学客で車内が混みますが、東京の満員電車のような極端な混雑はありません。これは余談ですが、私が東京でサラリーマンをしていたときは片道1時間半の電車通勤で、毎日がイス取りゲームとおしくらまんじゅう状態。長野県に移住して満員電車のストレスがなくなっただけでも、「移住して良かった」と感じたものです。

通学については、高校生の主な交通手段は電車やバス。鉄道の駅がない市町村に住んでいる場合は、自転車で最寄り駅まで行き、電車を降りてからもう一台の自転車に乗り換える二台態勢が基本です。雪の日などは、親が車で送り迎えする家庭もあります。

無人駅
ローカル路線では無人駅も多い

考えたいのは老後のこと

移住者のなかには、地方で定年退職後のセカンドライフを送る夫婦も多いです。60歳はまだまだ元気ですが、80歳になるとまた状況は変わります。高齢ドライバーによる自動車事故の報道をきっかけに、運転免許証の自主返納も増えていると聞きます。しかしながら、地方では車がないと生活は難しく、簡単に車を手放せないのが実情です。

地方でのセカンドライフを考える場合は、将来的に車を運転できなくなった時のことも考えておく必要があるかもしれません。特に持病などで通院が必要な人は、病院までの交通手段を確認しておくとよいでしょう。町内巡回バスもありますが、電車と同様に本数は少なく、利便性に課題があります。

2025年4月1日時点の長野県の年齢別人口によると、県内人口に占める65歳以上の割合は33.2%、75歳以上は19.8%で、ともに過去最高を更新。今後さらに進む高齢化社会を背景に、交通弱者を支援する動きもあります。例えば、予約制で自宅から目的地まで送ってもらえるデマンド交通や、通院が困難な人に対して医師が定期的に自宅を訪れる訪問診療などです。近い将来、一般道でも車の自動運転が可能になるかもしれませんが、普及にはまだ時間がかかりそうです。移住先を決めるにあたっては、交通事情を踏まえた場所選びが必要ですね。

ノーマルタイヤの交換
5月の初めにノーマルタイヤに交換

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プロフィール

鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)

長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。

山のある暮らし

都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム

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