夏山の王道! 花の宝庫・白馬岳【山と溪谷7月号】

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月刊誌『山と溪谷』2025年7月号の特集は、「知る。歩く。北アルプス」。単なるコースガイドとは一味違った、コースの魅力を深堀りしたガイドが数多く収録されています。そんな7月号のなかから、白馬岳(しろうまだけ・はくばだけ)を紹介。日本の山は世界でもまれな自然環境にあることから、花の宝庫になったようです。最後に花図鑑を掲載しているので、ぜひ最後まで読んでください。

文・写真=菊池哲男

白馬岳から三国境方面へ少し下ると多彩な高山植物が咲き乱れる
白馬岳から三国境方面へ少し下ると多彩な高山植物が咲き乱れる。まさに山上の楽園

北アルプスでも上位の人気を誇る白馬岳。登山者のいちばんのお目当ては、稜線からの大展望と山体を彩る可憐な高山植物たちだ。花の種類、規模で他の山城を圧倒し、日本アルプスの女王として君臨する。豊富な残雪が消えた斜面には大規模な群落(お花畑)が広がり、疲れた登山者の目を楽しませてくれる。花の種類は350以上にもなり、「白馬連山高山植物帯」として国の天然記念物にも指定されているほど。非対称山稜の緩やかな稜線で雪解けとともに咲くツクモグサやウルップソウは本州では白馬岳周辺と八ヶ岳(やつがだけ)周辺でしか見られない種だ。

ではなぜ白馬岳はこれほどの花の宝庫なのだろうか?

これには世界的に大きな屈指の降雪量と標高、そして地形が影響している。北アルプス北部は日本海に近く、多量の降雪がある。東側に発達した雪庇が崩壊を繰り返して東面が絶壁となり、西側が緩やかな非対称山稜が形成された。森林限界が低く、雪田も多いため、高山植物が生き残る環境が整ったのだ。また大雪渓上部など東面には氷河の痕跡であるカール状の地形があり、雪解けとともにすばらしいお花畑となる。白馬三山(はくばさんざん)から南側は高峻な稜線が続いて、大規模なお花畑になる場所はあまりない。一方、北側へ行くと標高も下がり、朝日岳(あさひだけ)などは標高2500mを切る。丸みを帯びた緩やかな稜線が続き、残雪が雪田となって湿生の高山植物が多数育まれている。白馬岳から朝日岳へと続く登山道はまさに花のプロムナードで、花好きなら一度は歩いてみたい憧れの縦走路となっている。

白馬岳 緩やかな五輪尾根
緩やかな五輪尾根には木道が敷かれ、遠く蓮華温泉をめざす

白馬岳&朝日岳ミニ花図鑑

チングルマ(6月下旬~8月中旬)

高山植物を代表する種。稚児車は和名で、実に生えた羽毛状の毛を子どもが遊ぶ風車(稚児車)に例えたもの。

チングルマ

ハクサンコザクラ(7月上旬~8月中旬)

サクラソウ科、花冠は直径2cm、草丈5~17cm。日本海側の多雪地帯に雪解けとともに花を咲かせる。

ハクサンコザクラ

ウルップソウ(6月下旬~8月上旬)

発見地のウルップ島(千島列島)から命名。礼文島と白馬連峰、八ヶ岳横岳周辺の砂礫地にのみ分布。

ウルップソウ

シナノキンバイ(7月上旬~8月下旬)

キンポウゲ科。和名の漢字は信濃金梅。花の直径は約3cmで、雪田周辺など湿った場所に大群落を作る。

シナノキンバイ

ミヤマアズマギク(7月上旬~8月中旬)

キク科。低山に生えるアズマギクの高山型亜種で、乾燥に強い。花の直径は約2.5cmで、花色に濃淡がある。

ミヤマアズマギク

トウヤクリンドウ(8月上旬~9月上旬)

和名の漢字は当薬竜胆で、根を薬に用いたことが由来。高山の夏を最後に飾る花で、礫地や草地に生える。

トウヤクリンドウ

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:2泊3日
コースタイム: 【1日目】約6時間
【2日目】約7時間
【3日目】約7時間
行程:【1日目】
猿倉・・・白馬尻・・・葱平・・・村営頂上宿舎・・・白馬山荘(泊)
【2日目】
白馬山荘・・・白馬岳・・・三国境・・・鉱山道分岐・・・雪倉岳避難小屋・・・雪倉岳・・・水平道分岐・・・朝日小屋(泊)
【3日目】
朝日小屋・・・朝日岳・・・吹上のコル・・・白高地・・・花園三角点・・・白高地沢出合・・・瀬戸川出合・・・兵馬ノ平・・・蓮華温泉
総歩行距離:約28,600m
累積標高差:上り 約3,135m 下り 約2,891m
コース定数:77
アドバイス: 2025年6月23日現在、猿倉へ向かう県道白馬岳線は冬季閉鎖が解除され、白馬館ヘリポート(猿倉登山口の手前、車両転回場)と二股ゲートとの間の車両の通行規制が解除されている。この区間は、タクシーや路線バス等の車両に限って通行可能で、一般車両は通行不可。ただし、この区間における歩行者の徒歩による通行は可能。詳細は、白馬村のホームページ大町建設事務所の情報を要確認。白馬大雪渓の登りでは前方、左右からの落石に注意。また、山の状況は残雪が多いと白馬水平道が開通にならないので、不通のときは朝日岳の山頂を経由して朝日小屋に入る。

山と溪谷2025年7月号より転載)

この記事に登場する山

富山県 長野県 / 飛騨山脈北部 後立山連峰

白馬岳 標高 2,932m

 白馬岳は、槍ヶ岳とともに北アルプスで登山者の人気を二分している山である。南北に連なる後立山連峰の北部にあって、長野・富山両県、実質的には新潟を加えた3県にまたがっている。  後立山連峰概説に記したように、この山の東面・信州側は急峻で、それに比して比較的緩い西面・越中側とで非対称山稜を形造っている。しかし信州側は山が浅く、四カ庄平をひかえて入山の便がよいため登山道も多く、白馬大雪渓を登高するもの(猿倉より所要6時間弱)と、栂池自然園から白馬大池を経るもの(所要5時間40分)がその代表的なものである。  越中側のものは、祖母谷温泉より清水(しようず)尾根をたどるもの(祖母谷温泉より所要10時間)が唯一で、長大である。  白馬三山と呼ばれる、本峰、杓子岳、鑓ヶ岳、そして北西に位置する小蓮華山の東・北面は、バリエーション・ルートを数多く有し、積雪期を対象に登攀されている。  近代登山史上では、明治16年(1883)の北安曇郡長以下9名による登山が最初であるとされている。積雪期では慶大山岳部の大島亮吉らによる1920年3月のスキー登山が初めての試みである。  白馬岳の山名は、三国境の南東面に黒く現れる馬の雪形から由来したといわれる。これをシロウマというのは、かつて農家が、このウマが現れるのを苗代(なわしろ)を作る時期の目標としたからであって、苗代馬→代馬(しろうま)と呼んだためである。白は陸地測量部が地図製作の際に当て字したものらしい。代馬はこのほかにも、小蓮華山と乗鞍岳の鞍部の小蓮華側の山肌にも現れる。白馬岳は昔、山名がなく、山麓の人々は単に西山(西方にそびえる山)と呼んでいたのである。また富山・新潟側では、この一連の諸峰をハスの花弁に見立てて、大蓮華山と総称していたようである。  この山からの眺望はすばらしく、北アルプスのほぼ全域はもとより、南・中央アルプス、八ヶ岳、頸城(くびき)や上信越の山々、そして日本海まで見渡すことができる。頂の展望盤は、新田次郎の小説『強力伝』に登場することで知られる。  日本三大雪渓の1つ、白馬大雪渓は登高距離が2kmもあり、全山にわたる高山植物群落の豊かさ、日本最高所の温泉の1つ白馬鑓温泉、高山湖の白馬大池や栂池自然園などの湿原・池塘群、こうした魅力を散りばめているのも人気を高めている理由である。また、白馬岳西面や杓子岳の最低鞍部付近などに見られる氷河地形、主稜線などで観察できる構造土、舟窪地形など、学術的な興味も深い。山頂部の2つの山荘(収容2500人)をはじめ山域内の宿泊施設も多い。

新潟県 富山県 / 飛騨山脈北部

朝日岳 標高 2,418m

 標高は高くはないのだが、新潟・富山両県にまたがる、大きいという実感のある山。それは、山間の集落から見て「最初に太陽に染まる山」から名付けられることが多い。これは朝日岳の名称が体をも表しているといえる。  朝日岳を含め、この白馬岳以北の山々は、前輪廻の地形の遺物と推定される小起伏面の連なりで、山容はおおらかである。冬季の多量の降雪で、夏季でも残雪が多く、豊富な高山植物や山上湖群と相まって、この山域の魅力を形造っている。  東面の白高地(しらこうち)には氷河遺跡の圏谷地形が多く存在しており、北山腹には谷の源流をモレーンが堰止めた朝日池がある。  登路は、東麓の蓮華温泉から白高地を経るもの(蓮華温泉より所要6時間30分)と、西麓の小川温泉からイブリ尾根を急登するもの(北又谷から約8時間)の2本がある。縦走路は、雪倉岳、白馬岳へ南下するものと、北へ黒岩平、犬ヶ岳を経て日本海の親不知(おやしらず)へ抜ける栂海(つがみ)新道とが拓かれている。また朝日小屋の建つ、西方のイブリ平(朝日平)から南山腹のリネアメント群を点綴して赤男山との鞍部へ通じる水平道がある。

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

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雑誌『山と溪谷』特集より

1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。

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