梅雨の合間の備中松山城 古(いにしえ)の山城を歩く
読者レポーターより登山レポをお届けします。naobonさんは、岡山県の山城、「備中松山城」(びっちゅうまつやまじょう)へ。歴史ある山城ですが、2025年の城主はなんと猫だそうです。
文・写真=naobon
6月の梅雨の中休み、岡山県高梁市(おかやまけんたかはしし)にある、備中松山城・臥牛山(がぎゅうさん)に行きました。備中松山城は、岐阜県にある岩村城(いわむらじょう)、奈良県にある高取城(たかとりじょう)と並ぶ「日本三大山城」の一つであり、国内で唯一、江戸時代の天守が現存している貴重な山城。自称山城ファンとしては、最も行ってみたい山城の一つでもありました。
備中松山城は、臥牛山の峰の一つである小松山(こまつやま)山頂近くに築かれています。バスで八合目の鞴(ふいご)峠まで行くという選択肢もありましたが、せっかくの登城機会なので、高梁の城下町近くにある麓の登山口(登城口)より、徒歩で山頂をめざすこととしました。ここから鞴峠経由、備中松山城天守まで、約1時間の道のりです。
登城口からは、鬱蒼とした樹林帯の山道となり、まるで古の時代へのタイムトンネルを歩いているような感覚を味わえます。備中松山城の歴史は古く、築城は鎌倉時代の1240年ごろです。戦国時代には、備中の要衝として、たびたび戦乱に見舞われたといいます。そんななかでも天守が残ったのは、急峻な山という天然の要害に守られていたということもあるようです。
途中、忠臣蔵で有名な、大石内蔵助(おおいしくらのすけ)の腰掛石がありました。元禄時代、赤穂藩士(あこうはんし)であった大石内蔵助は、お家断絶になった備中松山城に、幕命で、明け渡しの交渉役として訪れたといいます。難航が予想される交渉を前に、大石はどんな思いでこの石に腰かけたのでしょうか。(なお、忠臣蔵の発端となった事件(江戸城松の廊下事件)が起きたのは、この数年後のことだったようです。)
大石内蔵助の腰掛石を過ぎ、樹林帯の道をさらに登ると、ほどなく鞴峠に到着です。鞴峠には、五合目駐車場からのシャトルバスの発着所もあります。ここから天守閣まで、20分ほどの登城路です。早速「登城心得」の看板があたたかく迎えてくれます。
ここからは整備された遊歩道沿いに進むと「中太鼓の丸」という巨大な石垣が見えます。石垣の上からは城下町を一望できました。昔の武士も、ここから街を見守っていたのでしょうか。
さらに登ると、大手門跡に着きます。立派な石垣が折り重なる、圧巻の大手門跡に着きます。この石垣は、臥牛山の自然の露岩と石垣を組み合わさっており、重厚なつくりとなっています。ここは、NHKの大河ドラマ「真田丸」のオープニング映像で、真田家の居城イメージとしても使われたとか。思わず武者震いします。
大手門跡を抜けて、石垣を眺めながら、三の丸、二の丸へと進み、いよいよ本丸・天守に到着です。ここで登城料金を支払い、南御門から入城します。
なお、備中松山城の現城主は「さんじゅーろー」という猫です。いつもは天守の足元に悠々と構えているらしいのですが、この日は朝まで雨模様だったため、なんと、料金所の事務所内で休憩されていました。
ちなみに、さんじゅーろーは、2018年の西日本豪雨災害後に備中松山城に棲みついたそうです。当時、観光客激減に苦しむお城でしたが、さんじゅーろーの存在がいろんなメディアでとりあげられ、備中松山城や、この地域の観光復興に貢献されたとか。
まずは天守に登ります。天守は,外観は二重、高さも11mと現存天守中最小だそうですが、立派な唐破風(からはふ)装飾で、どっしりとした存在感があります。城内は3層構造となっており、最上階には神棚も飾られています。天守閣の窓からも高梁の街を望むことができました。
天守を出て裏に回ると、立派な二重櫓が立っています。二重櫓も天守と同様、江戸時代の現存建築です。二重櫓はこの日は外観のみでしたが、年数回、限定公開されているようです。
ここから、臥牛山経由で、大松山城跡までさらに進みます。備中松山城は、もともと、鎌倉時代に、秋庭三郎重信が大松山に築城したのが起源といわれています。ここからは近世遺構と中世遺構が混在する、歴史の交差点エリアです。ここから先は本格的な山城ハイキング。ほとんど踏み込む人もいない中、本丸からいったん尾根沿いに一気に下りて堀切を渡ります。そこから曲輪(くるわ)群の平坦地を歩き、さらに登り返すと、臥牛山の山頂広場に着きます。臥牛山の山頂には、江戸時代に建立されたという天神社跡があります。神社は城下町を向いて建立されており、城下を守るため祀られたとも言われています。臥牛山山頂道標の下には、色鮮やかな犬の絵が描かれた石が飾ってありました。
いったん来た道を戻り、樹林の曲輪帯を大松山城跡に向かってさらに歩きます。大松山城は中世の山城遺構で、ここも広場状に広がっており、山城跡には大きな樹木もそびえ立っていました。
大松山城で中世の武士の息吹を感じつつ、来た道を戻ります。本丸まで戻ると、人もたくさん。猫城主さんじゅーろーは見回り時間中で、二の丸広場付近にいました。
猫城主のさんじゅーろーにも挨拶したのち、山城から麓の高梁の城下町へ下山しました。
高梁は、備中の小京都ともいわれる、いにしえの風情が残っている町です。下山後は、武家屋敷群の近くにある、江戸時代初期の大名、小堀遠州(こぼりえんしゅう)が作庭したという、有名な頼久寺庭園(らいきゅうじていえん)に立ち寄り、山城歩きの余韻を味わいました。
そしてそのあとは、下山メシ。高梁駅前にあるカレー屋「吉田屋」でスパイシーな野菜タップリのスープカレーをいただき、一気に現代に戻ります。
備中松山城は、冬から春にかけては「雲海の山城」としても有名なところです。また季節を変えて再訪したいと感じた山(城)旅でした。
(山行日程=2025年6月15日)
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naobon(読者レポーター)
東京都在住、神戸市出身。夏山シーズンは日本アルプスの稜線縦走を、冬は低山・里山ハイキングや山城巡りを、気ままに楽しんでいます。山行後の温泉とビールにこの世の極楽を感じる、週末ハイカーです。
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