16年ぶりの錫杖岳登攀

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読者レポーターより登山レポをお届けします。リョーコとダーコさんは、北アルプス錫杖岳(しゃくじょうだけ、2168m)でクライミング。

文・写真=リョーコとダーコ


昨年はいろいろと忙しく、なかなかバリエーションに行く機会がなかった。久しぶりなので、大昔に行ったことのある錫杖岳へ行くことにした。錫杖岳は、北アルプスの南部、新穂高温泉の西に位置する。16年前、岩登りを始めてそこそこ登れるようになった時期に山岳会で行った。パートナーのDANさんは20年以上前に行ったきりだという。

今回は「左方カンテ」のレポート。このルートは10年ほど前、ルート上にあった残置ボルトが撤去された。ボルトがないと、私のような万年初級プラスレベルの人にとっては自分の力量で登れるか不安を覚える。

錫杖岳
錫杖岳が見えてきた。登るルートはここからは見えない

槍見温泉からクリヤ谷登山道を歩き、錫杖沢出合から岩場へ向かう。記憶では、錫杖沢の左岸(進行方向右側)に踏み跡があったはず。錫杖沢に入ると、ケルンとピンクテープがあった。途中、水量の多い支沢通過ではズボンが濡れる。濡れるのを避けるため錫杖沢の真ん中を進むと、登りづらくて逆に時間がかかってしまった。

前夜、あまり寝ていないせいか、足が遅く息が上がる。かなりの時間を要して前衛フェースの基部に到着。ここでDANさんが左へ行ってしまう。違うなぁ、と思いながらぼーっとした状態でついて行くと「注文の多い料理店」ルートへ行く踏み跡だった。1パーティ登っている。ついでなので、翌日のための偵察をしておく。

左方カンテの取付へ着き、ギアを装着。16年前の記憶が蘇る。岩の上に根を張った木はまだあった。

錫杖岳 1ピッチ目登り始め
1ピッチ目登り始めのDANさん

岩の割れ目にナチュラルプロテクションを設置したり、木の根っこで支点を設置して安全確保をし、ツルベ方式で登る。2ピッチ目は私が先に登る。3ピッチ目は出だしに少し難しいところがある。セカンドなのに、ひぃひぃ言ってなんとか登った私。

錫杖岳 3ピッチ目の出だし
3ピッチ目の出だし。この後、空中に体を放り出すようにして登って行った

4ピッチ目は大きな溝の中を登る。溝の中はじんわり湿っていて気持ち悪い。が、ホールドがないのでついつい溝の奥へと進んでしまった。ホールドをつかんだが、ここから16年前とは違った。私の横幅が広がったのか、溝に体ががちっとはまってしまい身動きが取れない。少し外側に出て体を回転させようとすると、今度は体の奥行きにザックの出っぱりが追加されてまたはまってしまう。なんとか抜け出さなくては、ともがけばもがくほど動きが取れなくなる。

半時間ほどがんばったが、とうとう力尽き果てDANさんに交代してもらった。

細いDANさんは、はまることなくひょいひょいと登っていった。

続いて5ピッチ目。先ほど代わってもらったので私がリードする。岩の割れ目がほぼない。7mほど支点を取らずに登らなくては。落ちたらやばいなぁ。でも、ハーケンが1本残っているのを見つけた。これでちょっと強気になる。壁をもう一度しっかり見て手足の動かし方を考え、度胸あるのみと登り出す。

錫杖岳 ここからあと2mほど登ると階段状になる
ここからあと2mほど登ると階段状になる

5ピッチ目の終了点は、広場になっていてとても安定している。地上に戻ったように安心する。時間はすでにお昼を過ぎてしまった。登り始めたころからぽこぽこと雲がわいていたが、とうとうゴロゴロと雷が聞こえ始めた。

西穂高のロープウェイを通過して北へ集まっていく夏雲
西穂高のロープウェイを通過して北へ集まっていく夏雲

あと2ピッチある。次のピッチをDANさんが行くが、16年前に左足の足場で使った枯れ木がえらく短くなっている。スタンスに使うことができず、いったんザックを下ろして身軽になって登り終え、私がフォローするが、こんなに難しかったっけ? こんなに腕力がいるっけ?

このピッチを登り終わったのが15時。雷鳴の間隔も短くなってきた。ここで終了して降りることにする。ちょうど懸垂支点も目の前にあるし。

あきらかに落ちた力量を感じながらも、なぜか楽しい。ひぃひぃ言いながら登るのに充実感を覚えるのはなぜだろう。

ヤマルリトラノオとヒョウモンチョウ
ヤマルリトラノオとヒョウモンチョウ

(山行日程=2025年7月22~23日)

リョーコとダーコ(読者レポーター)

リョーコとダーコ(読者レポーター)

標高が高い山への登山や岩登りが好き。去年、いつも行く岩場に近い兵庫県の某町へ移住。県内にある低山へのハイキングも楽しみになりました。

この記事に登場する山

岐阜県 / 飛騨山脈北部

錫杖岳 標高 2,168m

 錫杖岳は笠ヶ岳の南にあり、標高は低いが特異な山容と岩場をもつ山として知られる。全山屏風のように切り立った岩壁が不気味にそびえ、クライマーにとっては、個性的な岩場として人気が高い。山名は、ふもとから見ると、幾重にも重なる垂壁が錫杖に似ることに由来するらしい。  岩場のスケールは高度差700m、幅400mに及び、主たる岩場は、本峰フェース、烏帽子岩、それに最も人気がある前衛フェースがある。錫杖岳の岩場を世に紹介したのはRCCの藤木九三で、烏帽子岩も同氏によって命名された。烏帽子岩の初登攀は昭和2年で、特に人気が出たのは、昭和30年代になってからである。  登山道は蒲田(がまだ)川から笠ヶ岳・クリヤ谷コースを右岸に沿って入る。錫杖沢出合で笠ヶ岳への登山道と分かれて錫杖沢へ入ると突然、錫杖岳の岩壁が姿を現してくる。

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