新穂高温泉から黒部源流の山々へ。3泊4日の稜線縦走

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読者レポーターより登山レポをお届けします。ともさんは新穂高温泉から双六岳(すごろくだけ、2860m)などのピークを越え、雲ノ平(くものだいら)へ。3泊4日の大縦走です。

文・写真=とも


写真や映像でしか見たことがなかった景色を自分の目で見たいと思い、夫と夏季休暇を合わせ、雲ノ平や鷲羽岳(わしばだけ)などを3泊4日で縦走する計画を立てました。しかし気の毒なことに、夫が出発当日に体調を崩してしまい……。「いいなぁ~、いってらっしゃ~い!」とさらっと送り出してくれた夫に感謝しつつ、北アルプス最深部の絶景をひとりで堪能してきました。

1日目:新穂高ロープウェイバス停~笠新道登山口~小池新道登山口~双六小屋

夜行バスで新穂高ロープウェイバス停に到着、この日のミッションは双六小屋に到着すること! 林道を歩いていくと笠新道登山口の手前に荷揚げのヘリポートがあり、たくさんの荷物が運搬を待っていました。山小屋で冷たいビールが飲めるのは、この方たちのおかげだと、心から感謝しました。

笠新道登山口の手前にある荷揚げのヘリポート
笠新道登山口の手前にある荷揚げのヘリポート

登山道は石がきれいに敷いてあり、段差も私の足運びにはちょうどよく、とても歩きやすかったのですが、暑さもあってわさび平小屋から鏡平山荘までは長く感じました。白いペンキで「あと5分」と書かれた岩を見たときはホッとしました。

わさび平小屋までの登山道の様子
わさび平小屋までの登山道の様子

ただ、10時半ごろから雲が出ており、鏡池の向こう側にいるはずの槍ヶ岳(やりがたけ)は雲の中……。「逆さ槍」を拝むことはできませんでした。

気を取り直して双六小屋に向かい、13時前に到着! 鷲羽岳との初対面を果たし、テント場の奥に見える笠ヶ岳も眺めて、1日目を終えました。

弓折乗越に向かう稜線
弓折乗越に向かう稜線
双六小屋と鷲羽岳
双六小屋と鷲羽岳が見えた!

2日目:双六小屋~双六岳~三俣蓮華岳~ワリモ岳~水晶岳~水晶小屋

5時前に双六小屋を出発して、まずは双六岳、丸山、三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)を通って三俣山荘をめざします。三俣山荘までは、このほかに双六岳をパスして丸山、三俣蓮華岳を通る「中道」、どの山頂も通らずに到着できる「巻道」と、3本のルートがあります。

三俣山荘方面への巻道分岐
巻道への分岐、この次に中道への分岐がある

歩き始めて30分ほど経ったころ、振り返ると昨日はまったく姿を見せなかった槍ヶ岳や穂高連峰が……。

雲の向こうに浮かぶ槍ヶ岳と穂高連峰
雲の向こうに浮かぶ槍ヶ岳と穂高連峰

山頂に近づくと笠ヶ岳(かさがたけ)の横には焼岳(やけだけ)、乗鞍岳(のりくらだけ)、御嶽山(おんたけさん)が一直線に並んで見えて、山の位置関係を覚えるのがあまり得意ではない私も、「なるほど、こうだったのか」と納得できました。

笠ヶ岳の左後方に、焼岳、乗鞍岳、御嶽山が見える
笠ヶ岳の左後方に、焼岳、乗鞍岳、御嶽山が見える
双六岳の山頂から、三俣蓮華岳への稜線にかかっている雲
双六岳の山頂から、三俣蓮華岳への稜線にかかっている雲

三俣蓮華岳までの稜線歩きは、黒部五郎岳(くろべごろうだけ)の方向から流れてくる雲の中でしたが、三俣山荘に向かって下山し始めたら雲が切れ、写真でしか見たことがなかった景色が目の前に!

そして鷲羽岳の山頂では山々の景色はもちろん、鷲羽池のなんともいえない色に感動しました。

三俣山荘と鷲羽岳、水晶岳
三俣山荘と鷲羽岳、ワリモ岳
イワヒバリ
鷲羽岳の山頂に向かう途中で、何枚も写真を撮らせてくれたイワヒバリ
鷲羽岳の山頂から鷲羽池を望む
鷲羽岳の山頂から、美しい鷲羽池に感動

水晶岳(すいしょうだけ)の山頂手前の岩場は少し緊張感を持ちつつも楽しく歩き、薬師岳(やくしだけ)に少しずつ近づいていくような感覚を味わいました。

ワリモ岳を過ぎ、水晶岳に向かう稜線
ワリモ岳を過ぎ、水晶岳に向かう稜線
水晶小屋を過ぎ、岩場になってきた登山道
水晶小屋を過ぎ、岩場になってきた登山道

水晶小屋に戻ってからは、テラスで野口五郎岳(のぐちごろうだけ)から烏帽子岳(えぼしだけ)への稜線や槍ヶ岳を見ながら、同室になったソロの女性3人と山の話が弾み、夕食ではオーナーのこだわりが詰まったカレーを堪能して、2日目を終えました。

水晶小屋のテラスの正面から烏帽子岳への稜線を望む
水晶小屋のテラスの正面には、烏帽子岳への稜線
水晶小屋のテラスから望む槍ヶ岳と西鎌尾根
水晶小屋のテラス右側からは、槍ヶ岳と西鎌尾根
水晶小屋の夕食
水晶小屋の夕食、調理中からクミンの香りが漂う

3日目:水晶小屋~岩苔乗越~祖父岳~スイス庭園~祖母山~アラスカ庭園~薬師沢小屋

遠くにうっすらと富士山、八ヶ岳も見える空の下、6時前に水晶小屋を出発です。同室だった方のおひとりとタイミングが同じだったので、ワリモ北分岐までご一緒しました。途中で昨日は気づかなかった白山(はくさん)を教えていただき、「また、いつか!」とお別れして、私は祖父岳(じいだけ)から雲ノ平へ。

水晶小屋から富士山と八ヶ岳を望む
うっすらと富士山、その右は八ヶ岳
ワリモ北分岐から、祖父岳への稜線
ワリモ北分岐から、祖父岳への稜線
チングルマの綿毛、後方には水晶岳への稜線
チングルマの綿毛、後方には水晶岳への稜線

祖父岳の山頂は自分ひとり、そして三六〇度の絶景が広がっていました。眼下には雲ノ平があり、その右奥には薬師岳。さらに視線を右に移すと、遠くには立山連峰、手前には水晶岳から鷲羽岳へ続く稜線、槍ヶ岳と穂高連峰、三俣山荘、そのはるか後方に双六小屋の赤い屋根も見え、双六岳から三俣蓮華岳の稜線と黒部五郎岳……。なんという景色!! こんなお天気のよい日に、ここに来られた幸運を噛みしめました。

祖父岳の山頂から薬師岳を望む
祖父岳の山頂から薬師岳
祖父岳の山頂から、三俣蓮華岳~双六岳、双六小屋の屋根も見える
祖父岳の山頂から、三俣蓮華岳~双六岳、双六小屋の屋根も見える
祖父岳の山頂から黒部五郎岳を望む
祖父岳の山頂から黒部五郎岳

雲ノ平は心が穏やかになるような静かな空間で、いつまでも歩いていられる気分でした。祖母岳(ばあだけ)からは少し近くなった立山連峰や薬師岳を眺め、名残惜しい気持ちを振り切って、薬師沢への下山開始です。

雲ノ平山荘
ぽっかりとたたずんでいるような雲ノ平山荘
祖母岳の山頂から立山方面を望む
祖母岳の山頂から立山方面

木道が終わって岩がゴロゴロとした登山道になると、ほかの登山者からお聞きした「全部の岩が滑る」という言葉通りでした。どこに足を置くか慎重に選び、滑っても転倒しないように手をついたり、手近な枝をつかんだり、という動作を延々と繰り返し、うんざりしてきたころ、ようやく川音が聞こえてきました。ほどなく美しい沢と薬師沢小屋が見えたときは、解放感に満たされました。

薬師沢小屋
滑る岩を下り続けて、やっとたどりついた薬師沢小屋
キベリタテハ
薬師沢小屋のテラスでは、たくさんのキベリタテハが舞っていた

薬師沢小屋にはお昼前に到着したので、しばらくはひとりでのんびりし、その後は夕食前も、食後も、せせらぎの音を聞きながら、たくさんの方と山の話をして過ごしました。話せば話すほど行きたい山が増えてしまうことが、最近の悩みです (笑)。

4日目:薬師沢小屋~太郎山~折立バス停

楽しかった山行も今日が最終日、「おうちに帰るまでが遠足!」ですので、ケガをせずに帰宅せねばなりません。まずは太郎平へ、そして最後の締めとして太郎山に立ち寄り、あとはクマに遭遇しないことを願いつつ折立に向かいます。8月19日に太郎平キャンプ場で、クマが登山者のテントと食料を持ち去ったというニュースがあった上に単独行ということもあり、いつも以上に緊張しました。前後に登山者がいない時にはさらに熊鈴を大きく鳴らし、結果的には何事もなく折立に到着。3泊4日の山行、おつかれ山でした!

太郎山
今回のラストを飾る太郎山

下山から5日が過ぎた今でも、数々の雄大な景色が目に焼き付いています。夫にも見てほしかった……。来年はルートを少し変えて、今度こそ夫と一緒に歩こうと思っています。

(山行日程=2025年8月21~24日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:3泊4日
コースタイム:【1日目】7時間
【2日目】6時間15分
【3日目】5時間30分
【4日目】5時間15分
行程:【1日目】
新穂高温泉駅・・・笠新道登山口・・・わさび平小屋・・・小池新道登山口・・・秩父沢出合・・・シシウドが原・・・鏡平山荘・・・弓折乗越・・・双六小屋
【2日目】
双六小屋・・・双六岳・・・三俣蓮華岳・・・三俣峠・・・三俣山荘・・・鷲羽岳・・・ワリモ北分岐・・・水晶小屋
【3日目】
水晶小屋・・・ワリモ北分岐・・・岩苔乗越・・・祖父岳・・・祖父岳分岐・・・雲ノ平キャンプ場分岐・・・雲ノ平・・・祖母岳分岐・・・祖母岳・・・祖母岳分岐・・・アラスカ庭園・・・木道末端・・・薬師沢小屋
【4日目】
薬師沢小屋・・・第三徒渉点(左俣出合)・・・第一渡渉点・・・太郎平小屋・・・五光岩ベンチ・・・三角点広場・・・折立
総歩行距離:約39,900m
累積標高差:上り 約3,468m 下り 約3,223m
コース定数:92
とも(読者レポーター)

とも(読者レポーター)

山とお酒が大好物! 登山後の一杯は至福の時間です。日帰りでは奥多摩や中央本線からアクセスしやすい山に、夏山シーズンには北アルプスあたりまで出かけます。

この記事に登場する山

長野県 岐阜県 / 飛騨山脈北部

双六岳 標高 2,860m

 双六岳は双六谷の源頭にあたり、ゆったりした高原状をなして北の三俣蓮華岳へと続く。  この双六岳と樅沢岳の鞍部に双六小屋があり、三俣蓮華岳方面、槍方面、笠方面からの縦走路の会する所で、北アルプスの要衝となっている。小屋の下にある双六池は常に水をたたえ、池畔は快適なキャンプ場である。  双六岳へは、昔は金木戸川から双六谷をつめて登るのが唯一のルートであったが、昭和30年、当時の双六小屋経営者、小池義清氏によって、ワサビ平から大ノマ乗越経由の小池新道が開発され、その後さらに、秘境鏡平経由の道が整備され、これが本ルートとなっている。新穂高温泉から鏡平、双六小屋経由で8時間。  双六岳の山頂へは、双六小屋からハイマツの急坂を登ることになるが、縦走路から外れているためいつでも静けさを保っている。

富山県 長野県 / 飛騨山脈北部

鷲羽岳 標高 2,924m

 鷲羽岳は裏銀座コースの屈曲点で、鷲羽乗越を隔てて三俣蓮華岳と対峙している。この辺りの山は北アルプスでも奥深い所にあるが、元禄10年(1699)の越中前田藩の古記録に、すでに鷲ノ羽岳として記載されている。いわゆる「黒部奥山廻り役」による踏破の跡は、ほとんど黒部川の流域のすべてにわたっていたのである。ただし、この鷲ノ羽岳とは現在の三俣蓮華岳のことで、鷲羽岳は東鷲羽岳または竜池ヶ岳と名づけられていた。近代登山の初期に誤記されてしまったらしい。  この山の西斜面は祖父岳とともに黒部川の水源になっている。お花畑からしたたり落ちる、ほんのひとまたぎの流れが黒部峡谷となると思えば、感慨ひとしおである。  南側の中腹に火口湖の鷲羽池があり、槍ヶ岳と見事にマッチして、絵のように美しい。西麓は鷲羽乗越のハイマツ帯で三俣山荘が登山者の安全を守っている。  石英閃緑岩、つまり花崗岩特有の明るい山肌をもつ、裏銀座コースの玄関口にふさわしい雄峰である。  登山コースは新穂高温泉からで、双六岳経由で所要10時間30分。

富山県 /

雲ノ平 標高 2,464m

黒部源流の山々をめぐる人気のコースとして、雲ノ平は長く登山者に愛されている。富山県・折立から入山し、太郎平小屋から雲ノ平~鷲羽岳~黒部五郎岳~太郎平小屋と黒部渓谷を一周するコースは、とっておきの特選コースである。北アルプスの奥深くを歩くので、長い日数を必要とする。

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