【インタビュー・中村浩志】ライチョウの命をつなぐ、自然と人が共に生きる未来のヒント

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温暖化がライチョウの未来を脅かす

鈴木:人を怖がらないこと以外で、ほかの鳥と違うライチョウの特徴はありますか。

中村:日本のライチョウは、元々日本だけでなくて、北半球北部に広く分布するんです。そのなかにあって、日本のライチョウは世界の最南端にポツンと分布する。北の集団とは、完全に隔離されてる。

で、日本では現在、本州中部の高山帯だけに生息してるんです。世界の最南端です。

最終氷期に大陸から日本に入ってきて、氷河期が終わった後、温暖化が進行したために大陸と日本列島が海で隔てられた。そうして北へ戻れなくなった集団が日本のライチョウの祖先なんです。ですから、間氷期に温暖化が進む段階で、日本のライチョウは高山に逃れることで、世界の最南端の分布地で今日まで絶滅せずに生き残ってきました。

鈴木:そうなんですね! 今年はすさまじい暑さでした。この夏も私の住む松本で40度を記録して、信じられませんでした。

中村:ライチョウ、暑いとですね、口を開けて、口で呼吸するんです。

鈴木:それは心配! 弱っちゃうのでは?

中村:だからね、暑い時はハイマツなんかの下に隠れてます。

鈴木:暑いですよね。だって、ハイマツが温暖化で成長し過ぎてしまって、今度は巣をうまく作れず、ライチョウたちの環境がどんどん厳しいものになっている。そう思うと、切実に、なんとかしたいと感じます。

中村:やっぱり一番影響を受けるのは長期的には「温暖化」ですね。

日本のライチョウは高山に棲んでる。それに対して、北極周辺の集団っていうのは、ツンドラの平地に棲んでる。温暖化が進行したら、ライチョウが棲める「森林限界」(高木が生えずハイマツの生える、標高が高いエリア)がどんどん上へ上がってきますから。日本のライチョウは、温暖化の進行とともに生息できる環境がどんどん減ってしまう。

それと、日本のライチョウのもう一つの特徴は、高山の一番高いところ、山頂とかに棲んでるわけです。それに対して、日本の次に南に分布する集団が、フランス・スペイン国境のピレネー山脈。3番目がヨーロッパアルプス。この3つの集団は、高山に棲んでる。つまり高山に「取り残された」。でもピレネーとかヨーロッパアルプスでは、現在ライチョウが棲むのは山頂じゃないんです。山頂より下の山腹に棲んでますから、温暖化が進行してもまだ上へ逃げる余地がある。そういう意味で、世界の最南端に分布する日本のライチョウは、温暖化の影響をもろに受ける。

鈴木:そうですよね。だから、こうして復活した命をどう繋いでいくかというのは、自分たちがどう暮らしていくのかということと全部イコール。

ライチョウが生きられる環境をしっかり考えていくことは、登山者だけでなく、すべての人にかかわることですね。

中村:地球温暖化っていうのは、もう世界レベルの話ですから。

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