【インタビュー・中村浩志】ライチョウの命をつなぐ、自然と人が共に生きる未来のヒント

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命をつなぐ「飛翔メス」の物語

鈴木:本の表紙にもなっている、中央アルプスに最初に飛んできたメスのライチョウ「飛来メス」について教えてください。11歳になったあの子は生きる力がすごくあるんですね。

中村:そうですね。

鈴木:そこに感動しました。なにがほかのライチョウと違うんですか?

中村:やっぱり、体力のある、優秀な個体ですね。それから、子育てがうまいです。いつも警戒してます。常に安全な場所で過ごしてますね。

鈴木:乗鞍から飛んできた理由はなんですか? つがいの相手を探してた?

中村:今までの調査でわかっていることは、ライチョウは、生まれた年の秋に親から独立して、冬を越した翌年の春、1歳になる前に、生まれた場所から分散するんです。で、オスもメスも分散するんですけど、ライチョウの場合はオスよりもメスのほうが遠くへ分散するのです。

鈴木:なぜでしょう? でも、ライチョウって一度つがいになったら、どちらかが死なない限り添い遂げると聞いたことがあります。

中村:ええ、添い遂げる傾向が非常に強い動物ですね。

鈴木:でも分散?

中村:ええ。オスもメスもね、生まれた場所から分散しなかったら、近親交配。

鈴木:なるほど! 本能で。

中村:雌雄で分散の距離が違うのは、我々人間を含めて、生物一般の大原則なんです。

人間の場合は、生まれた場所から遠くに分散するのは女性です。嫁に行くという形で。それに対して、男性は家を引き継ぐという形ですね。しかし、哺乳類一般、人間は例外ですが、鳥とは逆に、メスが生まれた場所にとどまって、オスが遠くへ行くんです。

動物によって、必ずどちらかが遠くっていうのはもう生物一般の大原則です。

鈴木:ライチョウの寿命は?

中村:乗鞍岳で調査したんですけど、メスの場合は10歳が最高齢でした。それに対して飛来メスは今年11歳。

鈴木:すごい!

中村:子供も今、育ててます。

鈴木:子育てはずっとするものなんですか?

中村:ええ、もう。飛来メスは2015年に中央アルプスに飛来したんです。で、翌年から毎年卵を産んで、無精卵(孵化しない卵)を産んで温め続けてきたんです。それで、2020年に乗鞍岳からヒナを連れてきてあげた。で、翌年の2021年に、何羽かオスがいたので、その中の1羽と7歳にして初めてつがいとなって、初めて有精卵を産んで。それ以来、今年までの5年間、毎年子供を残しています。

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