農鳥岳から仙塩尾根、百高山縦走
読者レポーターより登山レポをお届けします。リョーコとダーコさんは百高山ハントに南アルプス・仙塩(せんしお)尾根へ。農鳥岳(のうとりだけ、3026m)から仙塩尾根へ立ち寄り、間ノ岳(あいのだけ、3190m)から広河原(ひろがわら)へと下山する2泊3日のややハードなルート。
文・写真=リョーコとダーコ
1日目:奈良田~大門沢小屋〜大門沢下降点〜農鳥岳〜西農鳥岳〜農鳥小屋
8月上旬に暴風で敗退したルートに再度挑戦。今回は多少の雨が降ろうとも完歩する意気込みで行った。
高速道路の渋滞があり、奈良田(ならだ)の駐車場に夜中の1時ごろ到着。仮眠は3時間ほどしか取れない。体調大丈夫かな? 寝不足になると私もダーコも調子が悪くなる。朝4時起床。5時に出発した。
とてもよい天気だ。稜線の方を見ても灰色の雲は見えない。日が差すと9月半ばと思えないほど暑い。
連休明けの平日ということもあってか登山者が少ない。大門沢小屋までの途中、かなり早い時間に下山してきた人と会っただけだった。大門沢小屋ではオレンジジュースを買う。これが冷たくておいしい。小屋から上では下山の人とすれ違い始める。登山者が少ないと思ったのは小屋までで、たくさんの人がおりてくる。「水場はまだまだですか?」や「大門沢小屋まであとどのくらいですか?」と聞かれる。稜線はかなり暑いようで、しんどそうな人が多かった。私たちは寝不足がたたって休憩する時間が長くなってきた。
大門沢下降点に到着した辺りから雲が湧き出した。休憩しているところで山頂から下りてきた単独男性と話をした。3000m台ピーク制覇をこの日、西農鳥岳で完了したということで、拍手をしてお祝いした。達成感と満足感の笑顔で下りて行かれた。
農鳥岳に到着。雲の中。次は西農鳥岳だ。時々ガスが薄くなり登山道が見える。意外と西農鳥まで遠い。
15時。もう誰にも会わないだろうと思っていたら、反対方向からシニア世代の単独の人が来た。突然現われたのでお互い驚く。聞けば、この日の夜中の2時に広河原(ひろがわら)を出発して、この日のうちに奈良田まで下りるらしい。とてもハードな行程だが、途中で小屋を利用しないのは宿泊代が値上がりしてるからだろうか?
16時半過ぎに農鳥小屋に到着。支配人さんが数年前から代わったようで、名物のおじさんはいなかった。水場まで水を汲みに行く元気はなかったので、天水(1リットル200円)を購入。天気予報や登山道のことなど教えてもらった。翌日は曇りで風がきついだろうとのこと。またか……。しかし、ここまで来たらなにがなんでも目的の山頂を踏まないと。寝不足で頭痛がしてきた。早々に寝る。
2日目: 農鳥小屋〜三国平〜熊の平小屋〜安倍荒倉岳〜新蛇抜山〜北荒川岳〜熊の平小屋
覚悟していたほど寒くなく、よく眠れた。4時起床、6時出発。テントを出るとガスが出ており強風。小屋の前を通り過ぎ間ノ岳(あいのだけ)方面へ向かう。途中から三国平(みくにだいら)へ向かうトラバース道へ入る。ガスが濃いが、岩につけられたペンキ印を見失うほどではない。
トラバース道は一度農鳥沢の底へ下りる。ちょっとの上りが終わったら、歩きやすいほぼ水平な道。風を受けたのは農鳥沢を上がるまでだった。
このルートには水場が2カ所ある。1つ目の水場は小さく、手ですくって飲むか顔を洗うくらいしかできない。2つ目の水場は大井川の源流だ。
目の前を流れていく水が、前日に車で通過した大井川の水だと思うと川の長さと自分がいる場所がとんでもなく山奥ということを感じる。
ここから1時間ほどで三国平に出た。だだっ広いのでガスが出ていたら方向に注意が必要だ。1時間ほどで熊の平小屋に到着した。受付をし、テントを張ってから安倍荒倉岳(あべあらくらだけ)、新蛇抜山(しんじゃぬけやま)、北荒川岳(きたあらかわだけ)をめざす。支配人さんにルート上の見所などを教えてもらった。
このルートのほとんどは樹林帯を歩く。晴れ間と雲の境目にいるようで、時々雲の中、時々雲の外。登山道が西側に出ると風が当たる。寒かったり、暑かったり……。
安倍荒倉岳と新蛇抜山の中間地点に岩稜帯がある。ここから東側を見ると、細い谷に三段の滝が見えると支配人さんが言っていた。ガスで見えるか心配だったが水量が豊富な滝が見えた。これだけ離れていても迫力のある滝だとわかる。いったい何mあるんだろう? ちなみにこの沢の名前は「滝の沢」。
新蛇抜山で休憩。体調がすぐれない。休憩すると15分くらいあっという間に過ぎている。日の入りまでには戻れるとは思っているが、9月中旬にもなると秋の日は釣瓶落とし、なので休憩時間に注意しなくては。
北荒川岳に到着した。ガスが取れて晴れた。
広い頂上をダーコと二人占め。三六〇度の展望を楽しむ。塩見岳からの登山道を目を凝らして見ていると2人、こちらに向かって歩いているのが見える。遠いなぁ。長いなぁ。
大休止の後、小屋へ向かって戻る。戻りは楽ちんかと思いきや、足がどんどん重くなる。小屋まであと40分、というところで休憩したが、座ったまま寝てしまった。北荒川岳頂上で見えた、こちら向かって歩いてきていた人たちに追い越されてしまった。
16時過ぎにテント場に戻った。水を汲んでいると支配人さんがやってきてお話をする。水場の看板にクマが描かれているところから、クマの話になると、春にさくらんぼを食べに来ているようだ、とおっしゃっていた。ヘリポートのあたりで一度出くわしたことがあるそう。クマがテントに食べ物があると気づかないでいてほしいなぁ、とおしゃってた。気づいてしまった後のクマの行く末が心配になる。同感だ。
翌日は、14時半に広河原を出発するバスに乗らなくてはならないので2時起き、4時出発の予定。19時前に就寝する。隣のテントの単独の人も行き先は不明だが、長丁場のようで、18時前には就寝していた。
3日目: 熊の平小屋〜三峰岳〜間ノ岳〜北岳山荘〜八本歯のコル〜白根御池小屋〜広河原
夜中0時にちょっと寒くて目が覚めた。この時、隣の人も起きたようだった。ヘッドランプの灯りがまぶしい。ちょっとしたら足音がしたので1時前に出発したようだ。私たちはもう少し寝る。起きた時、風はなかったのに出発の4時前ごろ風が吹き始めた。先月の暴風再現か?
熊の平から三国平までは森の中なので風はあたらない。ガスが濃く、ここでクマと出くわしたら即アウト。ラジオの音量を最大にして歩く。電波が届いてDJの声がよく聞こえる。
三国平。風が左から吹き、ガスが濃く登山道が見えづらい。三峰岳(みつみねだけ)への登り。暗いガスの中、明かりが見えた。小屋泊まりの4人組だった。私たちが先行する。
三峰岳に到着。ここまで、尾根の右側にルートがつけられていたので寒さを感じずに済んだ。夜は明けたが厚い雲の中なので、ほんのり明るくなっただけ。少し雨が落ちてきたので念のために雨具のズボンも履いた。
次は間ノ岳へ。稜線上に出ると左から暴風が吹きつける。コースタイムよりやや早いペースで間ノ岳山頂に到着した。
予想通りここからの風がすさまじかった。コースの大部分が西側にひかれている。風が避けられる大岩などもないため、飴玉を口に入れるだけの時間も立ち止まれる場所もない。とにかく歩き続けないと体が冷えてしまう。トレッキングポールを持った右手の手袋が霧で濡れ、冷え、手がかじかんできた。左手はかじかむのを避けるため雨具のポケットに入れて歩く。
頂上から数十分進むと二人組が登ってきた。うわ、こんな天気の中登ってきてる。先頭の人は、下を見ながらだったので、私たちに気付いた時、驚いていた。この人たちだけかと思いきや、どんどん人が登ってくる。中には大門沢小屋まで行くという韓国人のグループもいた。
本気の耐風姿勢を取りながら暴風の中を進む。晴れていたらなんてことない道なのに。
避雷針の刺さった大きなケルンが出てきた。以前、お盆の時期にこの道を歩いたことがあり、このケルンを数えながら歩いた記憶が蘇った。たしか4つか5つあったはず。
4つ目のケルンで中白根山。ここから半時間ほどで北岳山荘。コースタイムより少し早いので山荘で休むことを考える。とはいえガスが濃く、山荘を見落として通過してしまったらどうしよう。5つ目の避雷針ケルンが出てきた。5つ目か…と思いふとハイマツの向こう側を見るとうっすらと建物が見えた。小屋だ!
小屋に入るまでも後ろから風に押される状態。小屋に入ると風がぴたっとなくなり別天地。受付横に8時からホットココアとホットコーヒーを販売とあった。現在8時2分。やった。ホットココアを注文する。ここまで4時間、行動食を食べずに来たのでお腹ぺこぺこ。思った以上に体が冷えていたようでココアが体にじわーっとしみていく。
20分の休憩後、再び強風とガスの中に出る。設置された吹き流しがほぼ水平になびいている。稜線を歩くのはもうこりごりだなぁと話していたら「トラバース道 至八本歯のコル」という指標を見つけた。稜線の右側、風下につけられているのでこちらを進む。ハシゴ、丸太橋が出てくる。滑らないように気をつけて進む。
数人の人とすれ違ったりしてなんとか八本歯のコル手前のゴーロ帯に到着。ここからは、ハシゴをいくつも降りる。大樺沢が見えた。鳳凰三山(ほうおうさんざん)もきれいに見える。風に吹かれることがなくなった。白根御池小屋まで12時までに着くよう歩く。気持ちに焦りがあるせいかとても長く感じた。御池小屋に11時45分到着。ここからは安全地帯。曇っているが雨は降る様子がないので、雨具を脱ぎ、行動食を食べて14時半のバスに間に合うよう再び歩き始める。
「第一ベンチ」と地図に記載された中間地点で雨が落ちてきた。ダーコは傘を差し、私は再び雨具を着る。あっという間にザーザー降り。登山道があれよあれよという間に沢状態になる。脚力限界。雨が靴の中に染みてくる。旧広河原山荘の屋根が見えてきた。緑色の吊橋が見え、向こうに建物が見えた。あぁ、見えた。雨がますますひどくなる中、インフォメーションセンターの軒下に入る。バスの時間に間に合った。3日も好天が続くことはまれなこと、と覚悟していても、この日の風と最後の土砂降りには参った。
(山行日程=2025年9月16~17日)
MAP&DATA

リョーコとダーコ(読者レポーター)
標高が高い山への登山や岩登りが好き。去年、いつも行く岩場に近い兵庫県の某町へ移住。県内にある低山へのハイキングも楽しみになりました。
この記事に登場する山
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