今も「遙かなる山」の日高山脈・ペテガリ岳のピークでテント泊、最高の朝を迎える

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難攻不落といわれ、今も長く厳しい工程を強いられる、日本二百名山のひとつ「ペテガリ岳」。北海道・日高山脈の最奥とも言える場所に聳える山は、困難が多いぶん、その満足度も抜群に高い。

 

ペテガリ岳山頂で味わう日没。日高の鋭鋒だけが雲海から顔をのぞかせる(写真=谷水 亨)

北海道・日高山脈の中でも人気も知名度も高いのが、幌尻岳、カムイエクウチカウシ山、そしてペテガリ岳で、「日高三峰」とも呼ばれる山々だ。いずれの山も山頂までの道のりは遠く、長く厳しい行程が待ち受ける。一般的な登山ができる時期は短く、体力度も危険度も高い。

その中でも、とくに難易度が高いのがペテガリ岳だ。深い谷に周囲を囲まれたこの山は、「はるかなる山」とも呼ばれ、かつては難攻不落の山とされた山だった。今でも遥か遠い山であることに変わりはなく、最も一般的なルートである神威山荘からペテカリ山荘を経ての往復は、通常は2泊3日のコースだ。

そのペテガリ岳に、北海道在住の登山ガイドの谷水亨氏が2017年に行ったレポートを紹介する。

 

総重量20kg強の荷を背負い、1泊2日で「はるかなる山」へ

ペテガリ岳(1736m)は日高山脈中部に位置し、日高山脈襟裳国定公園に含まれ、日本二百名山に選定されています。アイヌ語で「回遊する川」を意味し、山頂には二等三角点(点名「辺天狩岳」)があります。地元では「ペテカリ岳」とも呼ばれ、「はるかなる山」とも称されていました。

西尾根コースの登山口となるペテカリ山荘までは、本来は道道111号静内中札内線を静内川沿いに進むルートを通りますが、2005年より道道111号の静内ダムから先40km弱の区間で一般車両は通行禁止となりました。

そのため元浦川林道を遡り、神威山荘手前の分岐からニシュオマナイ川支流に入渓して、標高660mの稜線を越えてペテカリ山荘まで、約9kmを歩きます。しかし、この元浦川林道もゲートから神威山荘まで林道補修工事のため、2017年は8月21日から来年1月9日までの期間は一般車両通行止めとなりました。

本来はこの山へ9月に登る予定でしたが、車両通行止め直前の2017年8月18日~19日に決行。両日とも天気が思わしくないのを知りつつ、今シーズン最後のチャンスだと思い向かいました。

一般的な行程は、ペテカリ山荘に前後泊(2泊)しペテガリ岳を日帰りするコースです。健脚向けの場合はペテカリ山荘に前泊しペテガリ岳を日帰りしてから神威山荘まで戻ります。

私たちは全装備をかついで山頂にテント泊する、累計標高差約1950mの行程を選びました。

神威山荘手前の分岐から稜線を越えてペテカリ山荘へ、そしてペテカリ山荘を目指すルート

 

日の出と共に入渓し、2時間30分後にペテカリ山荘に到着。山荘には後泊者がいて、話を聞くと前泊者は1時間前に出発したらしく、今日の山頂テン泊者はいないことを確認します。ペテカリ岳の山頂には2人用テントがぎりぎり張ることのできるスペースが1箇所のみあり、途中にもテン場がありません。水場もないので、ここで4.5リットルの水を補充し、20kg強のザックをかついで再出発です。

標高1000mまでは曇りでしたが、以降は霧雨と小雨。天候も悪く、雨と朝露で濡れたくなかったので雨具を着ました。樹林帯は無風で蒸し暑く、しばらくすると体じゅうから汗が吹き出て、何時間も汗が止まりません。

脱水症状だと自覚しはじめましたが、途中で水は補給できないため、水を飲むのを控えながら、カロリーと塩分摂取をこころがけました。しかし、からだが思うように動かなくなり、足もつりだしました。雨も降りはじめて、最後550mの直登は地獄でした。

ようやく山頂にたどり着き、テントを張って夕食を食べていると雲が切れてきました。ブロッケン現象が現れ、みるみるうちに日高の名峰たちが姿を現します。やがて、夕陽に照らされた雲海で、すべての景色がオレンジ色に染まっていきました。

カムエクウチカウシや1839峰が夕闇に消えようとしている(写真=谷水 亨)

 

日高のピークで迎える最高の朝

テント内で着替えて薬を飲み、食事を済ませて静養していましたが、思いがけない夕焼けに力を振り絞ってテントから抜け出し撮影をします。

日が沈むとすぐに私は爆睡。深夜、相棒が満天の星空に歓声をあげていましたが、私はからだを起こすことができないほど疲労していました。2日前から寝不足が続いていたからです。朝、目を覚ますと、体調は多少回復していましたが油断はできません。

日の出の時間帯は快晴で、北方面にカムイエクウチカウシ、ヤオロマップ、1839峰などの鋭峰が見えます。一方、南方面は神威岳、ソエマツ岳、冬に登ったピリカヌプリが見えました。

ペテガリ岳の山頂で迎える朝。雲海から陽がのぼり始める(写真=谷水 亨)

 

いずれも北海道の山並みでは珍しい鋭峰揃いです。「日高のピークで朝を迎えるのは最高だよ」と先輩たちがいつも声をそろえて言っていたのがわかるような気がします。

日が昇り、山々の姿が現れる。神威岳やピリカヌプリが雲海に浮かぶ島のようだ(写真=谷水 亨)

 

慌ただしく6時10分に下山開始。1301mピークから1050mピークまで何度も登り返しのある稜線を見ると、それだけで足がつりそうでした。ようやく550mの急坂を下ると、ペテガリ岳を含む日高の山頂たちが雲のなかに消えていきました。

途中、山荘前泊の登山者からクマ遭遇情報を聞き、笹藪地帯では笛を鳴らしながら先に進みます。

ペテカリ山荘で沢靴に履き替え、山を越えて沢を下る道程を歩きました。空を見上げると雨が降りだしそうで、昨日今日の日高の山々は雲の中だったようです。水4.5リットルを含む20kg以上のザックをかついで、山頂泊を選択する行程は正解だったようです。

プロフィール

谷水 亨

北海道富良野市生まれの富良野育ち。サラリーマン生活の傍ら、登山ガイド・海外添乗員・列車運転士等の資格を持つ異色の登山家。

子育てが終わった頃から休暇の大半を利用して春夏秋冬を問わず北海道の山々を年間50座ほど登って楽しんでいる。

最近は、近場の日高山脈を楽しむ他、大雪山国立公園パークボランティアに所属し公園内の自然保護活動にも活動の範囲を広げている。

Youtubeでも北海道の山々の魅力を動画で配信中。Youtubeチャンネル

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