年末年始は八ヶ岳で過ごしました。赤岳鉱泉・行者小屋、年越しイベントレポート

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2017年の年越しを山小屋で過ごすことに決めたライターの小野泰子さん。「雪上技術は初心者に毛が生えた程度」という彼女が選んだ山小屋は──。白熱のビンゴ大会あり、まったり読書あり、八ヶ岳で体験した小野さんの年越し山行記録を紹介する。

写真/文 = 小野泰子 

 

初めて過ごす山の年越し、八ヶ岳に決めた

例年、日本アルプスや八ヶ岳では10月中旬に初冠雪を迎える。12月に入ると、本格的な冬山シーズンの到来だ。多くの山小屋は冬季休業となり、限られた山小屋だけが通年営業、もしくは週末や年末年始だけ営業する。

今回、初めて山小屋で年越しをすることに決めた私。できたら雪山がいいな。とはいえ、夏以上にリスクのある雪山登山。この時点で、雪上技術は初心者に毛が生えた程度だ。とにもかくにも、己の力で無理なくたどり着ける山小屋を探さなくては──。

ほどなくして、あつらえ向きの一軒が見つかった。八ヶ岳にある赤岳鉱泉だ。ホームページをのぞくと、ていねいに降雪時のルートをイラストで案内している。赤岳鉱泉に電話で登山道の状態を確認し、念には念を。こうして、大晦日に登山口の美濃戸口から3時間30分かけて赤岳鉱泉へ、元日は中山乗越展望台に立ち寄り、1時間弱で行者小屋へ、1月2日にピストン(登りと同一のコース)で下山するという、なんとものんびりとしたプランができあがった。

北沢コース途中の路面凍結

 

赤岳鉱泉の年越し、ビンゴ大会で大盛り上がり

大晦日当日、空は薄曇りで、まずまずの天気。これで悪天候なら、もちろん中止のつもりでいた。美濃戸口からの林道で路面が凍結している箇所があり、おっかなびっくり道の端を通過する。

美濃戸の分岐からは北沢コースを行く。林道が終わり、登山道へ入っても踏み跡がしっかりあって、道迷いの心配はなさそう。渓流沿いにゆるい傾斜の道を歩き、何度か橋を渡る。ゆっくりと歩を進めながら、雪のなかでみずみずしい姿を見え隠れさせるコケを観察。登山用のコンパスに付いた拡大鏡は、小さいながらも役に立つ。目線の先にミクロの世界が広がった。

八ヶ岳はコケの宝庫。白銀の世界にわずかな緑が映える


ほぼ予定通りに、赤岳鉱泉に到着。名物の人工氷瀑「アイスキャンディ」では、クライマーたちが氷と格闘していた。この日の赤岳鉱泉は定員オーバー状態で、談話室も寝室になっている。私に割り当てられたのは、なんと女子部屋の押し入れだ。ふすまを閉めれば、個室に早変わり。なんだか、ドラえもん気分で楽しい。

ぼっち登山だが、同室のメンバーと意気投合し、楽しいひととき

 

押し入れが今夜の寝床


夕食に赤岳鉱泉自慢のビーフシチューを味わったら、大晦日恒例のビンゴ大会だ。山小屋宿泊者もテント泊の人々も合わせて、300人ほどが食堂に詰めかけた。19時過ぎにはお酒が振る舞われ、いよいよビンゴ大会がスタート! ビンゴの数字が読み上げられるたび、歓声が上がる。景品はアウトドアブランドのウェアやギアで、なかには値の張る登山靴まで用意されているのだから、盛り上がらないはずがない。ビンゴカードは1枚500円、何枚購入してもOKだ。私は1枚のカードに運をかけたが、見事に撃沈した・・・。

「当たったー!」 全身で喜びを表す同室のOさん(カメラが動きに追いつかず・・・)


1時間30分ほど続いたビンゴ大会のあとは年越しそばタイムで、希望者は1杯500円で味わえる。まだビンゴ大会の熱気さめやらぬ食堂で、そばをすすりながら、この1年の山行を振り返っていた。「来年は雪山歩行を上達させたいな」。そんな思いも心に抱きつつ。

大きな油揚げがのった年越しそば


赤岳鉱泉ではカウントダウンイベントを行わないが、普段の消灯時間の21時を過ぎても、この日はいくぶん夜更かしが許される。しかし、小屋の中には翌日に赤岳や硫黄岳への登頂を控えた登山客ばかりだ。明日に向けて、みな早々と寝室へ向かっていった。

心づくしの元旦の朝食


翌朝は、焼き餅が入った雑煮とミニおせちで正月気分を満喫。昨日のイベントで仲良くなった男女4人組は硫黄岳に登るそうだ。彼らは身支度を整えると、マイナス7℃の気温のなか、硫黄岳に向けて元気に出発した。

硫黄岳を目指す4人組を見送る。「お気をつけて!」

 

赤岳鉱泉の営業情報

山小屋名: 赤岳鉱泉
営業日: 通年営業
電話: 090-4824-9986
料金: 1泊2食付9,000円
アクセス: JR茅野駅から美濃戸口登山口までアルピコ交通バスで40分、930円
マイカー: 中央道諏訪南ICから県道425号・484号を経由して約10km、約15分。美濃戸口に有料駐車場あり(1日500円)
アドバイス: 赤岳鉱泉、行者小屋まで登るならピッケルよりも、ストックを持つとよい。
林道に凍結箇所があるため、10本、12本爪のアイゼンでなくとも、軽アイゼンかチェーンスパイクは必須。

赤岳鉱泉の現地情報

 

行者小屋、ゆっくり読書をして過ごす元日

赤岳鉱泉を出発し、静寂に包まれたシラビソの樹林帯を歩く。45分ほどで中山乗越展望台へ。ここが、行者小屋をのぞけば今回の最高地点(標高2300m)なので、いわば私のピークだ。白一色の雪景のなかにぼんやりとシルエットを浮かび上がらせる大同心、小同心を見上げながら、ひと息ついた。

 

左のとんがりが大同心。中山乗越展望台より


中山乗越展望台から行者小屋まで10分の道のりだ。昼前には行者小屋に到着し、お目当てのこたつへ一目散。ここでのお楽しみはコーヒーを飲みながら、ゆっくり読書すること。時おり、窓の外の雪景色を眺めては、「あ~、幸せな時間だな」としみじみ。

ヤマケイ文庫とおやつセットを持参した


行者小屋の宿泊者はわずか十数人だった。夕食に鮭のタルタルソース焼きを食べたあとはストーブにあたりながら、本の続きを読んだり、同じようにピークハントが目的じゃないおじさまとおしゃべりしたり。昨晩のにぎやかさとは対照的な、まったりとした夜を過ごした。

一瞬、青空に。行者小屋の2階から雪化粧の赤岳をバッチリとらえた


翌朝、ゆっくりめに山小屋を出発し、行きと同じルートで美濃戸口まで下山する。途中、赤岳鉱泉に立ち寄ったとき、さっと青空が広がり、再び赤岳を仰ぐことができた。「レベルアップしてまた来るから」。そう心の中でつぶやき、頂を背にした。

(取材日=2017年12月31日〜2018年1月2日)

 

2018年から2019年にかけての年末年始も、各山小屋では趣向を凝らしたイベントを用意している。冬山に限らず、自分のレベルに合った山行をすること、私のようにたとえ“ぼっち”でも思い切って出かけること。そうすれば、一期一会のなかで楽しく、心温まる年越しを体験できるはずだから。

行者小屋の営業情報

山小屋名: 行者小屋
営業日: 冬季は、1~3月の土曜泊のみ営業(3連休の場合は土日泊)。年末年始は2018年12月28日~2019年1月5日泊まで営業
電話: 090-4824-9986(赤岳鉱泉)
料金: 1泊2食付9,000円
アドバイス: 赤岳鉱泉から行者小屋の間はトレースがある場合が多いが、天候によって状況は変わる。登る前に天気予報や現地情報の確認をすること。中山乗越から分岐する中山乗越展望台への道はやや急登。

 

 

プロフィール

小野泰子(フリーランス編集者)

長野県大町市在住。登山、トレッキング、散歩といった歩くこと全般をテーマに、山岳系の雑誌、書籍、ウェブに携わる。プライベートでも四季を通じて山に入り、縦走、アルパインクライミング、雪山登山にいそしんでいる。ZINE作りのワークショップを随時開催。山のみならず、街で出合った“山の片りん”をインスタグラム(@ono_b_yasuko)に投稿中。

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