北欧の大自然を満喫できるロングトレイル! スウェーデン・クングスレーデン:トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」(11)

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旅と組み合わせて気軽に楽しめる世界のトレイルを紹介する連載「世界のトレイルを巡る旅」。トレッキングをテーマに300日間で世界一周旅行をした山野夫婦が、訪れた五大陸50超のトレイルからおすすめの場所を振り返る。第11回目は、北欧を代表するロングトレイル、スウェーデンのクングスレーデン。日本語では王様の散歩道と訳されるが、北極圏に位置するこのトレイルは真夏でも気温が低く、天候も崩れやすいため、しっかりとした準備・装備が求められるトレイルの王様だ。アビスコからニッカルオクタまでの約110kmを歩いた様子をお伝えする。

 

重装備のハイカーで溢れかえるホーム

2016年8月1日(世界一周111日目)

夜行列車が出発するストックホルム駅のホームは、70〜80Lはあろうかと思うようなバックパックを背負った人で溢れかえっており、その重装備と人々から発する熱気からこれまで歩いてきたトレイルとの違いを感じさせた。

僕らがこれから向かうのは北欧を代表するロングトレイル、クングスレーデン。ストックホルムからスウェーデン国鉄ノーランストーグ鉄道の夜行列車に乗って登山口のあるアビスコへ向かう。約18時間の長旅だ。アビスコはスウェーデン北部に位置し、北極圏内にある。冬はオーロラの観賞地としても有名な場所だ。

列車は定刻より少し遅れて発車。アビスコには翌日の夕方に到着し、その日はアビスコに一泊。その翌日から歩き始めた。

大きなザックを背負った人で溢れかえるストックホルム駅のホーム

 

僕らだけの静かなスタート

2016年8月3日(世界一周113日目)

心配していた天気もまずまずの様子で、薄日が射すなか、気持ち良く歩き始めることができた。同じ夜行列車に溢れんばかりのハイカーが乗車していたはずだが、既に出発してしまったのか、僕らだけの静かなスタートとなった。

木々に囲まれた平坦な道が続いている。トレッキングに出発するというよりも、少し大きな公園を歩き始めるような気分だ。足元には小さな葉の植物が生い茂り、そこからきのこが顔を出している。これまで歩いてきたヨーロッパアルプスとは違う雰囲気に心が躍る。

クングスレーデンの全長は北のアビスコから南へ約440km続くが、人気なのはアビスコからシンギまで南下して、そこから東へスウェーデン最高峰ケプネカイセの麓を通ってニッカルオクタに出る約110kmのルート。この距離を通常7日間で歩く。僕らもこのルートを7日間かけて歩く。ちなみに早い人は4日前後で歩く人も。

アビスコ国立公園の入り口にて。ここから110kmの旅が始まる

 

好きなときに好きなだけ歩く贅沢

2016年8月4日(世界一周114日目)

クングスレーデンの特徴を一言で言うならば、圧倒的なスケール感。

遮るものが無くどこまでも続く大自然。目印になるような高い山は無く、緩やかな山と山の間に、湖と草原が遠くまで広がっている。どっしりと広がる大パノラマの風景で、薄い雲だけがゆっくりと動いていく。あまりにも遠くまで見渡すことができるため、雲が低く見え、空全体が低く感じるほどだ。

そして北極圏に位置するため、夏は白夜となる。僕らが歩いた8月は完全な白夜ではなかったが、夜も真っ暗になることはなかった。ずっと明るいので、好きなだけ歩き、好きな場所で好きなだけのんびり休み、そしてまた歩く。そんなトレッキングができるのがクングスレーデンなのだ。

遠くまで続く広大な世界

まっすぐ伸びる一本のトレイル

湖の向こうは雨、そして虹

 

この旅一番のスケール感

2016年8月6日(世界一周116日目)

歩き始めて4日目。今日は朝から弱い雨が降ったり止んだりしており、肌寒い。今日は全行程の中で最も標高が高いチェクチャ峠越えだ。

12時半過ぎにチェクチャ峠に到着。

峠の向こうは晴れていた。気が遠くなるほど遥か彼方まで続くU字谷の景色。ところどころに陽の光が差し込んで、緑色の風景に複雑な濃淡を付ける。U字谷に降り注いだたくさんの雨が、一本の細い川を作り、それが何度も蛇行し、やがて大きな川を形成していく。その一部始終がわかるかのような眺めだった。

この峠からの眺めは写真ではなく生で感じてほしい

この日のキャンプ地セルカ

 

自然を楽しむ権利

2016年8月7日(世界一周117日目)

スウェーデンには「自然享受権」という法的権利があって、これはすべての人が自然の中を自由に立ち入れる権利。そのため、国立公園以外であればどこでもキャンプ可能であったり、トレイルを外れて歩くことも権利として認められていたりする。

予定より早く到着しそうだったこの日、目的地直前で少しルートを外れて歩いてみた。地形を見て、地図を見て、景色の良さそうな場所を自分で見つけながら歩くワクワク感はクングスレーデンならではの楽しみ方のひとつ。小高い丘の上に数匹のトナカイを見かけることもでき、また別の場所では落ちたトナカイの角を見つけることもできた。

どこを歩いてもどこに泊まっても良いとは言え、「自然享受権」は自然保護に対して理解があるという前提があって成り立っているもの。どんな時も自然を大切にする行動は必要だ。

トナカイとの出会い

小高い丘からのお気に入りの眺め

気に入った場所にテントを張ってキャンプ

 

山小屋もスウェーデン式

2016年8月8日(世界一周118日目)

僕らが歩いたアビスコからニッカルオクタの間は、約12〜20kmおきに山小屋がある。素泊まりの小屋だが、キッチン設備があり自炊ができる。そして特徴的なのが、多くの小屋にサウナが付いていること。さすがサウナの本場、スウェーデン。寒く冷え切った体をサウナで温めることができるのだ。

僕らもこの日、ケプネカイセ山荘でサウナを利用。スウェーデン文化を堪能した。

翌日、予定通り110kmの行程を踏破。スケールの大きな北欧の大自然にどっぷり浸かることができた7日間だった。

ケプネカイセ山岳ステーション

 

大自然の中でスウェーデンのアウトドアカルチャーを楽しめるロングトレイル

どこまでも続くなだらかなトレイル、遠くまで広がるU字谷の眺め、このような景色を何日もかけて歩いていく壮大さは、クングスレーデンならではです。そして、どこでキャンプしても、どこを歩いも良い、自然を自由に楽しむ権利が広く認められている、というスウェーデンのアウトドアカルチャーを味わうことができます。

この辺りの天気は崩れやすく、また北極圏に位置するため、晴れていても日本の冬のような寒さの日もあります。自然の厳しさを理解した上で、しっかりと準備をし、自由に自然を楽しむ、それがスウェーデンスタイルなのでしょう。スケールの大きい自然の中でスウェーデンのアウトドアカルチャーを楽しみたい、クングスレーデンはそんな人にオススメしたいロングトレイルです。

スウェーデン・クングスレーデンでのトレッキングに関する準備やアクセス、ルート、気候や装備については、トレイルトラベラーズのブログにもまとめていますので、よろしければご覧ください。

小さな子供を連れて歩く家族ハイカーもちらほら

プロフィール

Trail Travelers 山野尚大・優子

山と旅の愛好家。経営コンサルタントとして平日の激務と休日の山ごもりを両立させる日々から、結婚を機に心機一転、夫婦で絶景トレイルを巡る世界一周の旅に出発。2016年4月からの300日間で、五大陸の50超のトレイルを歩く。「Trail Travelers(トレイルトラベラーズ)」を立ち上げ、旅行と組み合わせたトレッキングの楽しみ方を発信中。
【ブログ】
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トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」

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