かつては山小屋に予約は不要だった!? 山小屋のキャンセル問題について考える

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匿名希望さんからの質問!

質問:ニュースを見ていたら、今年は雨続きで山小屋の宿泊予約のキャンセルが頻発して困っているということが話題になっていました。雨が予想されていて、安全ではないなら、中止も仕方ないとは思います。一方で山小屋にとってはダメージが大きいのもわかります。

予約が必須であれば、キャンセル料の支払いも仕方ないとは思うのですが・・・。ただ台風が来ていて行けなくてもキャンセル料を取られたら納得できないし、かといってキャンセル料がもったいないからと突っ込んで遭難したら本末転倒です。

この問題は、どう考えたらよいでしょうか?

 

山小屋のキャンセル問題は、“現在の”課題!?

“現在の”登山者と山小屋の関係を考えるうえで大きな問題です。“現在の”と言うのは、今から20年程前までは、山小屋に予約は不要だったからです。もちろん、大きなグループや、旅行ツアーであれば予め山麓の連絡所などに申し込みをして・・・ということもあったのでしょうが、その日の夕方にフラリと小屋に入って「食事付きで泊めてください」「はい、ご苦労様」・・・で宿泊は可能でした。

山の上にある山小屋と下界との便利な連絡手段がなかったので、比較的条件の良い山小屋だと、時間を決めてトランシーバーで一日2回程度、交信して、「何人位来るよ」「今日は一人もいないから小屋の周りの道普請(道を作ったり直したりすること。道路工事)でもしていてね」「今週末は20人も入るから、食料荷揚げしよう」などとやっていました。

もちろん、営業期間中は、小屋番がいるのが当たり前。冬の北八ヶ岳の通年営業の山小屋では、一週間ほど誰も来なくても、ストーブの火は絶やさず、雪を溶かして水を作り、ジッと登山者を待っていました。トランシーバーも普及していなかった時代は、なんと「往復はがき」で予約・・・なんてこともあったようです。その時代だと食事を希望する登山者は生米を持ってくるのが常識で、「急に来られても、米がないよ!」なんて、こともなかったのです。

 

連絡手段の発達で山小屋が一変

それが一変した要因は、衛星電話を含めた携帯電話の山での普及です。これにより、宿泊者の数を把握し、必要な準備が無駄なく可能になりました。また、その頃から人気山域の混雑時のギューギュー詰めの状態を、山小屋も登山者も避けるようになり、予約の段階で「もう、一杯なので、次の週ではダメですか?」などの調整もできるようになりました。と同時に、宿泊者数がある程度把握できることにより、食事の内容なども豪華にすることができるようになったように思います。

小規模な山小屋や、近くにほかの小屋のある山小屋だと「予約が入ってから、宿泊者の人数に合わせて荷揚げをして、従業員も入山して宿泊してもらう」という営業の形態も、この数年目立ちます。宿泊者がいなければ「本日、休業」の看板を出し、硬く扉を閉ざしてしまうわけです。つまり「今日は、この辺りに泊まろうかな?」という様にはいかない場合も多くなりました。登山経験がウン十年と長い登山者は「山小屋とは、旅館じゃなくて緊急避難の逃げ場所でもあるんだから、予約してないと泊まれないなんて、ひどい!」と言う考えもあるでしょうが、現状を知る必要があります。

 

山小屋によって、対応はさまざま

山小屋の状況を理解すれば、キャンセルは大きな損害であることが判りますね。

僕の知っている限りでは、現在、多くの山小屋はキャンセル料をとっていないかと思います。台風や強力な寒冷前線といった、明白な危険があるときにまで「キャンセル料」とは言わないのが一般的です。「予約したんだから・・・」と土石流を乗り越えて山小屋に来てもらっても大迷惑でもあるはずです。

ただ、「予定の日が大荒れなので、キャンセルさせてください」「仲間に体調の悪い者が出て、引き返します。すいません」などの連絡を必ず、行うべきです。無断でキャンセルした場合、山小屋側では、まず登山中の事故、遭難を心配します。周囲の山小屋に問い合わせをしたり、場合によっては従業員が捜しに行くこともあります。都会の宿泊施設との一番の違いかもしれません。

また、僕が親しくしている奥秩父の金峰山小屋、甲武信小屋の話を聞くと、一定数で「もう、予約は受け付けません」と答えて、高齢の方や、極めて遅い時間に悪天の中、疲労して来た「予約なし」の登山者には、「次は予約してください」と言って食堂などで泊めています。山小屋によって、対応はさまざまなのも覚えておいてください。

一生懸命登ってきた「仲間」である登山者を、一生懸命受け入れてくれるのが山小屋である・・・というお互いの立場を理解することが大切です。

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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